クリニック案内

小石川柳町クリニックは、お子さんとご家族のためのクリニック です。

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伝染性紅斑 こんなことも

今年(2024年)は伝染性紅斑が大流行しています。典型的には、頬の境界明瞭なべったりした赤みの局面(紅斑)に1〜2日遅れて上肢、下肢に網目状(レース状、大理石状とも呼ばれる)の紅斑が出現します。
この他、以下のようなことがあります。

  • 体幹部にも四肢と同様の皮疹が現れることがある。
  • 一度かかると、基本的には再びかかることはない(終生免疫)。
  • 数週間から数ヶ月は、同様の症状がでて再燃が見られることがある(再感染ではない)。強い日光を浴びる、温熱の刺戟などが誘因となる。
  • 皮疹のでる約1週間〜10日前の軽いかぜ症状のとき感染力が強く、皮疹が出る頃には感染力は失われている。
  • 先天的な溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)があると急激に貧血が進んだり、汎血球減少と呼ばれる白血球と血小板を含めた血球の減少がみられることがある。
  • 妊婦が感染すると、胎盤を通じて胎児にも感染して胎児水腫や流産、死産のリスクがある。

吸入ステロイドを吐くとき鼻からだす

気管支喘息に使われる吸入ステロイド剤を、吐くときに通常の口からでなく、鼻から出す方法があります。これまでにアレルギー性鼻炎や成人に多い副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎)に有効であることが知られています(参照先)。通常のステロイド点鼻薬が、噴霧しても鼻の前下方にある下鼻甲介にほとんど吸着されるのに対し、鼻腔から呼出すると鼻腔内にある副鼻腔の開口部(後方に向かって開いている)付近に効果的に薬剤が届きます。小児でもアレルギー性鼻炎に関連した種々の症状や合併症で通常の方法では解決しない場合には、試みても良さそうです。

いま、日本で「深刻な薬不足」が起こり始めているわけ

日本の医療現場で使われる汎用医薬品不足が始まってからすでに3年を過ぎています。この原因について武蔵野大学薬学部教授 阿部 和穂先生による分かりやすい解説を紹介します(参照先)。

舌小帯短縮症に対する治療の考え方

舌小帯短縮症に対して、過去には乳児期から手術治療が積極的に行われたことがありましたが、手術後の瘢痕形成でかえって事態を悪化させる経験から、現在は非常に限られた適応になっています。ところが今でも積極的に手術を勧める医療機関があり(参照先1)、保護者の方から相談を受けることがあります。東京科学大学(旧東京医科歯科大学)「小児科と小児歯科の保険検討委員会報告」(平成25年9月1日)から、現在の考え方を抜粋して紹介します(参照先2

  1. 新生児期から乳児期前期の舌小帯短縮症は哺乳障害とは関係がなく、手術の必要性はない。
  2. 舌小帯短縮症による機能障害(構音障害や摂食機能障害)は、特別な場合を除き、3歳以降の機能訓練や構音治療による対応で良い。
  3. 機能障害の程度と患児の心理的状況によって手術の必要性があるか否かを4~5歳以降に判断して問題はない。

耐性マイコプラズマ感染症に対する対応

2024年7月以降、国内でマイコプラズマ感染症が8年ぶりの大流行をしています。マイコプラズマ感染症に対しては、第1選択薬はマクロライド系抗菌薬ですが、近年マクロライドが効きにくい耐性マイコプラズマが問題になっています。この耐性マイコプラズマの頻度は2012年ではマイコプラズマ全体の81.8%を示しましたが、その後徐々に低下し2018年には14.3%とされています(参照先1)。今回の流行における耐性化率は現時点では不明です。マイコプラズマ感染症の治療はまずマクロライド系で開始することが大原則で、開始後2〜3日までに解熱が認められるかどうかでマクロライド耐性か否かが判断されます(参照先2)。

耐性マイコプラズマが疑われた場合には、以下の薬剤への変更を検討します。

  1. ニューキノロン系抗菌薬
    この系統で日本において小児使用が認められているのはトスフロキサシン(オゼックス®)のみです。成人では同系統で他の薬剤も選択できますが、小児では腱関節障害のリスクがあり使用できません(参照先3)。
    耐性マイコプラズマに対するトスフロキサシンの投与開始後平均解熱期間は2.31日とマクロライド系(アジスロマイシン3.06日、クラリスロマイシン3.15日)に比べて短いとされます(参照先4
  1. テトラサイクリン系抗菌薬
    この系統で日本において保険適用が認められているのはミノサイクリン(ミノマイシン®)です。ただし、ミノサイクリンは成長期の8歳未満では歯牙着色の問題があり、原則として使用できません。ドキシサイクリン(ビブラマイシン®)は、歯牙着色のリスクがミノサイクリンよりも低く、耐性マイコプラズマへの効果も高いとされますが、日本では病名・菌種のいずれにおいても保険適用がありません。
    耐性マイコプラズマに対するミノサイクリンの投与後平均解熱期間は1.83日で(参照先4)、上記のトスフロキサシンよりも短い結果です。

まとめると、以下のようになります。
1. 耐性マイコプラズマが心配だからと、初めから非マクロライド系を選択はしない。
2. 8歳以上の耐性マイコプラズマに対してはミノサイクリン、8歳未満に対してはトスフロキサシンの使用を考慮する。

血液検査陰性のアレルギー性鼻炎

血液検査でスギ花粉のみに特異的IgEが陽性であるのに、ダニ抗原の多い時期にアレルギー性鼻炎症状を呈したり、あるいはその逆パターンを示す患者さんにはときどき遭遇します。

近年、血液検査や皮膚テストでは陰性だが、鼻粘膜局所に抗原特異的IgE陽性細胞が認められるアレルギー性鼻炎の一病型が知られ、Local Allergic Rhinitis (LAR) と呼ばれています(参照先)。年齢の若い女性に多いとされますが、小児期発症が30%程度に認められます。発症要因としてはダニ抗原暴露が約50%に認められ、気管支喘息の合併も約30%あり、通常のアレルギー性鼻炎と似ています。いずれかのアレルゲン単独に対するLARの他に、あるアレルゲンに特異的な血清IgE陽性のアレルギー性鼻炎と別のアレルゲンに対するLARが合併する場合がありDual Allegic Rhinitis (DAR)と呼ばれます。

治療法は通常のアレルギー性鼻炎と同様に、抗ヒスタミン剤、ステロイド点鼻薬、必要によりロイコトリエン受容体拮抗薬を使用します。

したがって、血液検査陰性であってもアレルギー性鼻炎が臨床的に疑われる場合には治療薬剤への反応性を積極的に確認する必要性が示唆されます。

くる病をどんなときに疑うか

くる病とは、骨の石灰化が何らかの原因で妨げられ、骨の形が変わり、O脚(歩き始めの頃から発症)やX脚(成長に伴い)、不安定な歩き方、低身長などで発見されます。原因は大きく、

1.ビタミンD欠乏性くる病
2.X染色体連鎖性低リン血症性くる病

のいずれかにほぼ限られます。
1では、ほとんどの場合、母乳栄養児が極端な食事制限(菜食主義によるもの、食物アレルギーによるもの)や紫外線制限(日光忌避、日焼け止めの過剰使用など)を受け、ビタミンD不足やカルシウム摂取不足に陥ることが原因となります。母乳栄養児に対するビタミンDサプリメントの使用が予防に有効です。
2では、遺伝性であり、体内でFGF23というホルモンの過剰産生があり、男子・女子のいずれにも発症し、同様の症状をもつ家族歴が重要です。
いずれも現在は有効な治療法が存在します。病態、症状、治療法に関する分かりやすい解説サイトがあります(参照先)。

先発医薬品の患者自己負担

2024年10月1日から、先発医薬品には患者自己負担が発生ないし増額する制度が始まります(長期収載品の選定療養制度)。これまで都による公費補助で保険診療は全額無料で済んできた小児においても、薬局窓口で薬代の一部支払を求められる場合が発生します。

この先発医薬品には、小児で頻用されるなじみの深い医薬品が多く含まれます。例えば外用薬ではヒルドイド保湿剤、ステロイド軟膏(リンデロンV軟膏)、内服薬では去痰薬(ムコダイン、ムコソルバン)、抗ヒスタミン薬(アレグラ、アレジオン、アレロック、クラリチン、ザイザル)、ロイコトリエン拮抗薬(シングレア、キプレス、オノン)、気管支拡張薬(メプチンシロップ)、抗インフルエンザ薬(タミフル)、抗菌薬(クラリス錠、ジスロマック、オゼックス)など、です(参照先)。

この選択療養の対象とならないためには、医師が処方箋を発行する際に「ジェネリック医薬品への変更不可」を処方箋上に明記する必要があります。これが無くて、患者さんが薬局窓口で先発品を希望すると自己負担が発生することがありますのでご注意下さい。

マイコプラズマ感染症の流行

今年(2024年)の7月下旬から、マイコプラズマ感染症が流行しています。以下のような場合には積極的に疑うべきです。

  • 好発年齢は5歳以上
  • 1日のうちで変動の大きな高い熱が何日も続く
  • 日中も頻繁に咳をするが、とくに夜になると吐きそうになるほどの咳き込みが毎日続く
  • 翌週にかけてだんだんと咳が強くなる
  • 熱や咳のほか、体中に赤い発疹(小〜中等大の紅い斑)がでてきた
  • 2〜3週前にマイコプラズマ感染者と接触した

以上のような典型的な症状だけでなく、熱がほとんど出ず咳のみや、咳はたいしたことは無いが高い熱が続くことがあり、とくに初期には通常の感冒との区別が難しいことが一般的です。外来で迅速検査を行い診断します。治療には抗菌薬(マクロライド、ニューキノロン)を使用します。

小児の20価肺炎球菌ワクチンの定期接種開始予定

2024年7月18日の厚労省予防接種・ワクチン専門部会において、2024年10月1日より小児の肺炎球菌20価ワクチン(プレベナー®20)の定期接種開始が決まりました。これまでの13価(プレベナー®13)あるいは15価ワクチン(バクニュバンス®)に比べてより高い効果が期待されます(参照先)。

なお、13価ワクチンから20価ワクチンに切り替えて接種した場合の安全性・有効性については確立されており、問題なく切り替えができます。一方、15価ワクチンから20価ワクチンへの切り替えにおける安全性・有効性については未確立です。原則としては同一のワクチンで接種をおこなうとしますが、原則によらない場合にも15価から20価に切り替えて接種できるよう必要な規定が設けられる予定です。

気管支喘息にともなう難治性の咳に対する抗コリン剤吸入療法

気管支喘息にともなう咳に対しては、通常の治療手段としては経口ロイコトリエン拮抗薬、短時間作用性β2刺戟剤(経口または吸入)、吸入ステロイド/長時間作用性β2刺戟配合剤、などが用いられます。しかし、副鼻腔炎を合併すると後鼻漏の喉頭への直接作用や神経反射・気道へのウイルス接着を介した気道過敏性の亢進をもたらし、これらの通常治療を行っても咳がコントールできなくなることがあります。この場合、適切な抗菌薬を十分量併用することで多くの場合には対処できます。

ところが、これでも咳が抑えられない場合があります。ちょっとした刺戟(天候変化、冷気吸入、大笑い大泣き、運動、嚥下など)に反応して咳発作が誘発されます。このような場合、抗コリン剤(ムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗薬)の吸入剤がよく効くことがあります(参照先)。咳反射をつかさどる迷走神経の働きを、神経末端と接する標的組織(気道平滑筋、呼吸筋)側にある受容体(M3レセプター)に作用することで抑制効果を発揮します。

成人では、吸入長時間作用性抗コリン剤(スピリーバ®)や吸入ステロイド/ 長時間作用性β2刺激剤/長時間作用性抗コリン剤配合剤(テリルジー®)が、気管支喘息やCOPDにおける難治性咳嗽の治療に実績があります。しかし、小児については日本で使用が承認されているのは吸入短時間作用性抗コリン剤(アトロベント®)のみです。使用方法は、5歳以上の場合、1回2吸入、1日2〜3回行います。

4種混合+ヒブから5種混合への乗り換え

2024年4月以降、生後2ヶ月からのワクチン接種で従来の4種混合+ヒブから5種混合に切り替わっています。一方、これまで4種混合+ヒブで接種した場合には同一ワクチンで継続完了することが原則とされています。最近、1歳時におこなわれる追加接種(4回目)において、4種混合+ヒブ接種から5種混合に乗り換えた場合のワクチン効果、安全性の研究結果が報告されました(参照先)。

結論として、追加接種で5種混合に乗り換えてもヒブに対する抗体価で見た免疫原性および安全性に問題はないことが示されています。文京区では、同一ワクチンで一連の接種完了することが原則ですが、4種混合+ヒブから5種混合ワクチンへの乗り換えも認められています。

流行している手足口病の特徴

現在(2024年7月)、手足口病が都内でも流行しています。今回の流行ウイルスによる特徴は以下の通りです。

  • 流行しているウイルスの60%はCA6(コクサッキーA6)である
  • 初日に38℃前後の発熱がある
  • 翌日には解熱して、口周囲、手関節、足関節、膝、臀部、肛門周囲に水疱を伴う赤い丘斑疹がでる
  • 痂皮は作らずに(水痘との違い)、1週間程度の経過で色素沈着しながら徐々に消失する
  • 口腔内(口蓋、口蓋弓、頬粘膜、舌など)の点状発赤、水疱、潰瘍を伴うことがある
  • 1〜2か月後に、爪の基部から爪甲脱落(爪が剥がれる)するのがCA6の特徴とされる
  • 解熱して、経口摂取ができるようになれば登園してよい

シンプルで確実なマイナンバー保険証トラブル対策

2024年12月2日から、現行の健康保険証の新規発行は中止され、マイナンバーカードを医療機関や薬局の窓口にあるカードリーダーに入れて利用することが原則となります。ところが、マイナンバーと健康保険証のデータがリンクせず、「該当資格なし」として利用できないトラブルが比較的頻繁に発生しています(当院データでは約4%の頻度)。この原因としてマイナンバーと健康保険証で照合する個人情報が多岐(12桁マイナンバーの他に、漢字氏名、現住所など)であり、全てが一致しないとシステム上はねられるためと考えられています。

厚労省は、このような場合の対策として、どうしても健康保険証情報が確認できない場合に「被保険者資格申立書」を患者さんに窓口で記入していただく方法を提示しています。
ところが、それは保険種別、保険者等名称、一部負担金の割合などの記入を要求するものとなっています。

こんな厄介な書類を作成せずとも、保険証の券面情報がわかれば医療機関窓口で直接入力して受付ができます。トラブル対策としてご自分のスマホで保険証券面をあらかじめ画像記録しておくことを強くお勧めします。

また、マイナ保険証を持っている方には2024年9月以降に、「資格情報のお知らせ」が全国健康保険協会(協会けんぽ)から各事業所の健康保険組合を介して被保険者あてに配布されます。国民健康保険では現行保険証の有効期限が切れる前に送付される予定です。この書類の左下は切り離して保険証サイズのカードとして使え、これには現行の健康保険証と同じ情報が記載されています。すなわち、実質、保険証を存続させる対策が関係する当事者から行われます。

システムの基本にある個人認証の仕組みに欠陥を抱えたマイナンバー保険証を国民に強制するため、現行の保険証は2024年末に廃止されます。ご自身とご家族の安全を守るため、最低限の対抗策を是非とって下さい。

HPV9価ワクチン女子定期接種のお知らせが小学6年からになりました

HPV9価ワクチンを定期接種で受けられる学年は小学6年から高校1年です。ところが、文京区をはじめとするほとんどの自治体では定期接種のお知らせはなぜか中学1年時に行われてきました。しかし、定期接種開始時の小学6年にお知らせする方が合理的です。

文京区ではようやく、2024年6月から小学6年にお知らせと予診票が送られることになりました(参照先)。HPVワクチンは若い年齢で接種を受けた方がより効果的であることが知られています。小学6年になったら、すみやかにHPVワクチンを受けられるようお勧めします。

アトピー性皮膚炎に皮膚感染症を合併した場合の対応

アトピー性皮膚炎に対してステロイド外用治療している部位に、伝染性膿痂疹(とびひ)、毛包炎、伝染性軟属腫(水いぼ)などの感染性皮膚病変を合併する場合があります。これらに対して、ステロイド剤をそのまま使い続けると感染病変の悪化を招くことがあります。この部位への対処は以下のようにして下さい。

  • 感染病変のある部位へのステロイド剤の使用をいったん中止する
  • 代わりに非ステロイド外用薬(モイゼルト軟膏、コレクチム軟膏など)を使用する
  • 必要により抗生物質の外用薬や経口薬を使用する

非ステロイド外用薬は、感染病変に対しても安全に使用でき、かつアトピー性皮膚炎自体への治療も継続できるメリットがあります。それまでステロイド剤のプロアクティブ療法できれいにコントロールできていた部位に、それまで見なかった新しい形の皮疹が出現した場合には、ステロイド剤をそのまま漫然と使い続けず、外来を受診して治療の方針を確認して下さい。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS: streptococcal toxic shock syndrome)

溶血性レンサ球菌が、まれに傷口や粘膜から血液・筋肉・肺などに侵入して、全身の重篤な症状を引き起こし、高い死亡率(約30%)を伴います。子どもから大人まで全年齢層で発生するが、とくに40歳台以上の成人で多く発生します(参照先)。

初発症状は、咽頭痛、発熱、消化器症状など、通常の溶血性レンサ球菌扁桃炎と同様です。
後発症状として、以下が急速に進行します。

  • 四肢の疼痛や腫脹
  • 組織の壊死
  • 頻脈
  • 呼吸不全

発病後数十時間で手足の壊死、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、肺・腎臓・肝臓など多臓器機能不全から死にいたります。A群溶血性レンサ球菌のうちM1UK株による感染がハイリスクです。

接触感染および飛沫感染対策として、以下があげられます。

  • 傷口や粘膜には不潔な手で触れない
  • 手洗い・うがいをしっかり行い、外出時マスクを使用する

乳児期早期からアトピー性皮膚炎のプロアクティブ療法を開始すると卵アレルギーが減少する

近年、食物アレルギーの成因として、皮膚炎によるバリアー機能障害により食物成分が皮膚から直接入り込み、これによる経皮的アレルゲン感作の機序が示唆されています。乳児期早期からアトピー性皮膚炎に対する治療を行うことにより、その後の卵(鶏卵)アレルギーの発症が抑えられる日本の研究成果を紹介します(参照先)。

  • 7〜13週齢のアトピー性皮膚炎乳児(n=650)を、ステロイド外用治療の徹底度の異なるプロアクティブ群(n=318)とリアクティブ群(n=322)にランダム割り付け
  • プロアクティブ群では顔面は4群ステロイド(アルメタ®)、体幹・四肢は3群ステロイド(リンデロンV®)を皮疹・非皮疹部を含めた全体に塗布(開始14日間は連日、以降は週2回、28週齢まで継続)
  • リアクティブ群では、顔面4群、体幹・四肢4群(軽度〜中等疹)または3群(高度疹)を皮疹のある部位・期間のみ塗布
  • 試験期間中、プロアクティブ群はリアクティブ群に比べて皮膚コントロールが良好
  • 28週齢時点で卵経口負荷試験を行い、卵アレルギーの発生率がプロアクティブ群において25%減少(プロアクティブ群31.4%, リアクティブ群41.9%, P=0.0028)
  • 28週齢時点でプロアクティブ群ではリアクティブ群に比べて低体重(平均-422g)および低身長(平均-8mm)を認めた

以上より、アトピー性皮膚炎の早期乳児期から厳格にコントロールを行うと卵アレルギーの発症が抑制されることが示唆されました。一方、厳格な治療による発育抑制効果も示唆される結果でした。治療効果を維持しつつ、ステロイド外用薬の使用量を制限するため、非ステロイド外用薬との併用などによる治療プロトコールの一層の改良が今後検討されるべき課題です。

小児便秘治療開始時の便塞栓除去

小児の慢性便秘治療では、治療開始初期に腸管内に残った便塊(便塞栓)を一旦完全に排除することが重要です。これが不完全だと、維持療法の中心となる経口下剤の効果がでにくくなり、安定した柔らかい排便の維持が難しくなります。

  • 便塞栓の診断は、腹部の触診あるいは腹部超音波検査などで行います
  • グリセリン浣腸液を体重30kg以下は1kgあたり2mL、30kg以上は60mL使用します。
  • 浣腸液容器の口をオイル・クリームなどで滑りやすくしたあと肛門内にしっかり挿入し、浣腸液を徐々に注入したのち肛門をティッシュで押さえながら外し、数分以上(できれば5分程度、なるべく長く)肛門をふさいでから排便させます。
  • 浣腸液が透明な状態ですぐに出てしまう場合には、体重15kgまでは60mL、15kg以上では120mLの浣腸液を使用します。
  • 浣腸は、1日1回、連日続けます(重症の場合には1日2回浣腸が必要な場合があります)。
  • 浣腸を終了する目安は、硬便が出終わり普通便になってから3日目、あるいは浣腸開始から7日目までとします。

浣腸は子どもが嫌がる、医療機関から初期の便塞栓除去が指導されていない、やり方の詳しい説明を受けていないなどの理由できちんと行われないことがしばしばです。その後の治療の成否を決める重要なポイントなので、完璧を目指して行って下さい。

2024年5月、麻しんは国内で流行していない

2024年3月ころ、麻しんの国内発生のニュースがマスメディアで連日取り上げられ、「大流行」と報道されました。これに煽られて、麻しん罹患歴のある方、2回ワクチン接種済みの方など、本来抗体検査、ワクチン接種が必要でない方々も検査や接種を希望されるようになりました。このため、MRワクチン不足が懸念されてワクチンの出荷調整が現在も続いています。

では、本当に「麻しん大流行」は訪れたのでしょうか。結論から言うと、5月上旬まで国内流行は起きていません(参照先)。メディアは煽っただけで、この事実には沈黙しています。
1回以下接種歴のみの方は、0歳児のいる家族を優先的に、それ以外の方は供給が安定化したあと接種を受けるようにして下さい。

子どものかぜの受診および再受診のタイミング

子どもがかぜ(急性上気道炎)にかかった場合、医療機関をいつ受診および再受診するのが適当かという質問をよく受けます。急性上気道炎の代表疾患である急性鼻副鼻腔炎について解説します(参照先)。

受診の適切なタイミングを理解するには、治療方針の違い(抗菌薬使用のあるなし)を生じる病気の進展段階(フェーズ)を知っておくことが重要です。病初期の8〜10日間は、ウイルス感染のフェーズ(急性ウイルス性鼻副鼻腔炎)です。ウイルス感染だけで合併症を起こさなければ10日目頃までにはほぼ治癒します。このフェーズでは抗菌薬はウイルス感染には無効かつ不要です。しかし、途中から細菌感染を合併して次のフェーズ(急性細菌性鼻副鼻腔炎)に進むことがあります。この場合には好気性菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスなど)による感染症に置き換わっていきます。さらに遷延化して2〜3か月以上続くと、嫌気性菌が主になるフェーズ(慢性副鼻腔炎)に移行します。これらの細菌感染を合併すると、通常の風邪薬だけでなく抗菌薬の使用を考慮します。

鼻副鼻腔炎がウイルス感染主体から細菌感染主体に進む過程の発症後10日までの経過をみると、ウイルス感染のみの場合には発症後6〜7日目頃から症状が軽快し始めるのに対し、細菌感染のフェーズに移行する場合には発症後10日目まで改善がほとんど認められない(10-days mark)か、いったん改善するが再び悪化(double worsening, 二重悪化)が認められます。

以上から、受診および再受診のタイミングは原則として次の目安を参考にして下さい。もちろんいずれのフェーズであっても経過中に呼吸器症状や全身状態の急激な悪化を認める場合にはすぐに受診して下さい。

  1. 発症後2〜3日は発熱を伴うことがあるがウイルス感染フェーズであり、基本的には家庭でのケア(自宅安静、クーリング、水分補給、鼻洗浄吸引・鼻かみなど)をしっかりしながらの経過観察となります。家庭に解熱薬などがあれば通常は対応可能で、この時期の受診は基本的には必要ありません。
  2. 発症後5日ころまでみて改善傾向を認めない、あるいは発熱が続く場合には一度受診して下さい。細菌感染フェーズの初期である場合があります。
  3. 発症後10日まで改善傾向を認めない、あるいはいったん良くなったが再び悪化(再発熱、はな・せきが増えた、など)を認める場合には、必ず受診(または再受診)して下さい。細菌感染フェーズへの移行が示唆され、抗菌薬の開始を考慮します。
  4. 数週間以降も症状が改善せず続く場合には、放置せずに必ず受診あるいは再受診して下さい。

子どもの急性細菌性鼻副鼻腔炎、急性中耳炎にクラリスロマイシンは使うべきか

クラリスロマイシン(商品名クラリス、クラリシッド)は我が国の小児科、耳鼻科の外来診療で、小児の上気道感染症に頻用されてきました。このため、小児の急性細菌性鼻副鼻腔炎と急性中耳炎の代表的な原因菌である肺炎球菌とインフルエンザ菌に対して、高度の耐性を獲得することになりました。少し前の調査でも肺炎球菌に対しての耐性率は91%、インフルエンザ菌に対しての感性率は37%とされ(参照先)、これらの細菌感染を初期に抑制する効果はほとんど期待できません。それにも関わらず、現在もこれらの初期治療にしばしば使用され、症状が改善しないため当院を受診する患者さんに遭遇します。

一方、クラリスロマイシンを含む14員環マクロライドにはユニークな種々の非抗菌作用が認められます。抗炎症作用としては、マクロファージ、リンパ球からの種々のサイトカイン産生抑制、好中球によるエラスターゼ・活性酸素産生の抑制、気道上皮での作用としては、粘液分泌抑制、クロライドチャンネルを介した水分泌抑制、線毛運動亢進作用、粘膜免疫増強作用があります。これらの作用を利用して、慢性副鼻腔炎、滲出性中耳炎には標準的に用いられています。

クラリスロマイシンは、小児の急性細菌性副鼻腔炎、急性中耳炎の急性期に細菌排除を目的として使う役割を終えています。しかし、その非抗菌作用に着目すれば種々の病態において優れた特性を持っています。薬はその特性をよく理解して、効果的に活用すべきです。

小児便秘の治療期間

子どもの慢性便秘は、長い治療期間がかかります。治療のゴールは、本人が排便困難や排便痛、排便恐怖を感じず、便意を催したらスムーズに排便する習慣を確立することです。便性をいつも柔らかに維持して、排便習慣の確立を補助するため薬物療法が継続的に行われます。

維持療法の基本薬剤は浸透圧性下剤で、酸化マグネシウム(カマ)やポリエチレングリコール(PEG)製剤(モビコール®)が広く使われています。ガイドライン上も、これらを用いた治療期間は通常6〜24か月とされています(参照先)。

ところが、子どもに長期間薬剤を継続することに対する不信感や、治療開始後しばらく良好な状態が続いて便秘自体が治ってしまったと誤解することから、保護者の自己判断で治療を中断してしまう例をときどき見かけます。また、医療機関から「便秘がひどくなったときだけ使用する」誤った服薬指導がされていることもあります。これらにより便秘は容易に再発し、子どもは便塞栓の再発と排便困難を繰り返し、良好な排便習慣の確立から遠ざかる結果になります。

2歳以上で適応のあるPEG製剤の安全性は約3年間の継続使用で問題ないことが確認されています。良好な排便習慣が確立するまで、根気よく子どもの便秘治療に付き合って下さい。

ガイドライン推奨抗菌薬使用にともなう肺炎球菌、インフルエンザ菌の経年的感受性変化

当院では、小児の急性鼻副鼻腔炎、急性中耳炎に対する抗菌薬の使用はガイドラインに沿って、第1選択をAMPC(アモキシシリン, 商品名ワイドシリン20%、2歳未満・集団保育環境ではAMPC高用量)、第2選択をAMPC/CVA(アモキシシリン・クラブラン酸, 商品名クラバモックス)としています。AMPCの積極的使用により原因菌の抗菌薬感受性がどのように経年的変化するかは、それ以降の選択薬を考慮する上で参考になります。8年間の経年的変化を検討した国内報告を紹介します(参照先)。

  • 肺炎球菌に対する感受性の悪化はペニシリン系、セフェム系のいずれでも認めなかった
  • インフルエンザ菌に対する感受性の悪化をAMPC, CFPN-PI(セフカペン、商品名フロモックス)で認めた
  • インフルエンザ菌の中でAMPC感受性のBLNASの減少、AMPC耐性のBLNARの増加を認めた
  • CDTR-PI(セフジトレン・ピボキシル、商品名メイアクト)はインフルエンザ菌に対して良好な感受性を維持した

以上より、ガイドラインに沿ったAMPCの積極的使用により、①ペニシリン系は肺炎球菌に対しては有効であり続けるが、②インフルエンザ菌に対しては効きにくくなり、③その原因としてBLNARの増加が考えられる。④ペニシリン系で効果不十分の場合にはBLNARの関与を疑い、これに有効な抗菌薬(CDTR-PI倍量、TFLXなど)の使用を考慮する、ことが示唆されます。

厚労省の考える小児科かかりつけ診療

2024年に診療報酬の改定があります。厚労省は、今後もかかりつけ医を拡充する政策を提唱しています。小児科でも、この一環として「小児かかりつけ診療料」を設定しています。この内容を検討しました。

厚労省が定める6歳未満を対象とした小児科外来診療では、包括診療制度として「小児科外来診療料」により保険者(都道府県、社会保険組合)から医療機関に支払が行われます。一方、「かかりつけ医」の条件を満たした場合には、小児科外来診療料の代わりに「小児かかりつけ診療料」により、小児科外来診療料+約50点(1点=10円)の診療報酬が支払われます。その条件は、一般的な開業小児科医であれば普段からおこなっている予防接種、乳幼児健診、保育園健診、発達障害や育児不安の相談などの業務の他に、時間外対応の基準があります。その内容は、「常勤医師・スタッフが常時(24時間、準深夜、休祝日を含む)の電話等によるかかりつけ患者からの対応をする。必要に応じて診療録の参照をする。」ことになっています。

多くの開業医は自宅と診療所は別が多いと思います。準深夜、休祝日の時間外に患者さん家族から医師・スタッフの自宅・携帯に突然電話がかかってきても、正確な受診歴、処方歴のあるカルテを参照しないと具体的な返答は難しいです。やり取りの正確な記録もできません。医療機関として機能していない条件下で返答して、かりに望ましくない結果となった場合に、責任を巡って後々のトラブルにつながる可能性があります。

2024年4月から医師の働き方改革が始まり、救急外来は大きな制約を受け、受診困難が生じる可能性が高いと思われます。小児の一次救急医療は、医療体勢構築だけでなく、普段からのこどもの家庭ケアと病気にかかったときの対応を保護者に十分習熟してもらうことが非常に重要と考えます。その部分が欠けると、アクセスを便利にした分だけ医療資源を浪費して追いつかなくなります。コロナ禍で登場した在宅訪問診療サービスの利用者の9割が軽症の小児だったという最近の事例もあります。厚労省のいかにも筋の悪い施策よりも、小児の「かかりつけ医」の果たす役割は、この辺にありそうに思っています。

メイアクト®倍量使用で高い薬剤血中濃度は得られるか

第3世代セフェム系抗菌薬には腸管からの吸収を改善するためにピボキシル基を組み込んだ薬剤(いわゆるPI系)があります。しかし、PI系の腸管からの吸収率(バイオアベイラビリティ)は依然として低く、たとえばCDTR-PI(セフジトレンピボキシル、商品名メイアクト®)の場合には15%程度です。この低いバイオアベイラビリティが、PI系第3世代セフェム系抗菌薬に対する強い批判の根拠になっています。
この限界に対抗するため、メイアクト®では臨床的必要性がある場合には倍量使用がガイドライン上推奨されています(参照先1)。では、メイアクト®倍量使用時の血中濃度はどのくらいになるのでしょうか。
このことを検討した報告(参照先2)では、メイアクト®倍量使用における%T>MIC(細菌の発育を阻止できる薬剤血中濃度が1日のうちで占める時間割合)で臨床的有効性が期待できる70%以上である頻度は、検討した40名中37名(92.5%)と高い結果を示しました。すなわち、少なくともメイアクト®倍量使用によれば高い血中濃度が達成できることが示唆されます。

クルミアレルギーでエピペンを準備すべき場合

クルミアレルギーはアナフィラキシーを起こしやすいことが知られていて、エピペンをあらかじめ準備しておくことがよく行われます。では、どのような場合にとくにアナフィラキシーを起こしやすいのでしょうか。クルミのアレルゲンコンポーネント(Jug r 1)の値とアナフィラキシーの関係を調べた報告があります(参照先)。

  • クルミ粗抗原に対する特異的IgE上昇(≥0.10 kU/L)の32名を対象
  • Jug r 1(中央値、四分位値)は症状ごとに、アナフィラキシー(12.9, 11.8;19.4)、血管浮腫(5.8, 3.0;9.5)、蕁麻疹(6.4, 1.8;13.3)、無症状(0.8, 0.0;3.9)であった(アナフィラキシー vs. 無症状 p<0.05)
  • クルミ粗抗原特異的IgEは各群で差を認めず

この論文からは、Jug r 1 が11.8以上となった場合にはアナフィラキシーのリスクがとくに高いことが示唆されます。

麻しんの抗体価測定とワクチン接種が必要な場合とは

2024年、麻しんの国内発生がメディアで連日大きく報道され、MRワクチン接種についての問い合わせが多く寄せられています。多いのが「麻しん抗体価が低値」である場合の追加接種に関する質問です。麻しんの感染予防のためには、過去の麻しん罹患歴あるいは2回のワクチン接種が必要かつ十分な条件です。麻しん抗体価が絶対的な判断基準になるのではありません。本当に必要とする小児の定期予防接種のためのワクチンを確保するため、不必要な抗体検査やワクチン接種を受けないようご注意下さい(参照先)。

  • 2回のワクチン接種記録がある場合、または確実な麻しん既往歴がある場合:
    抗体検査あるいは追加のワクチン接種は不要です。
  • 1回のワクチン接種記録がある場合:
    もう1回のワクチン接種を加えて終了します。この後の抗体検査は不要です。
  • 1回のワクチン接種記録がない場合:
    この場合に抗体検査を実施します。
    • 抗体価が陽性で十分(EIA法IgG 16.0以上)であれば、追加のワクチン接種は不要です。必要により4〜5年後に1回のみ追加検査を行います。
    • 抗体価が陽性だが不十分(EIA法IgG 2.0以上16.0未満)であれば、1回のワクチン接種をおこない終了します。この後の抗体検査は不要です。
    • 抗体価が陰性(EIA法IgG 2.0未満)であれば、1ヶ月以上の間隔で2回のワクチン接種をおこない終了します。この後の抗体検査は不要です。

乳児の膀胱尿管逆流症にたいする持続的抗生物質予防投与の効果

中等症以上の乳児の膀胱尿管逆流症(VUR)に、低用量の持続的抗生物質投与は尿路感染症の予防を目的としてよく行われます。しかし、その予防効果やマイナス面は研究により評価が分かれます。最近の研究報告について紹介します(参照先)。

  • 尿路感染症の既往の無いIII〜V度(=水腎症を伴う)の膀胱尿管逆流症をもつ292名の乳児(1〜5ヶ月齢、中央値3ヶ月)
  • 持続的抗生物質投与群(146名)と非治療群(146名)に無作為に割り付け24ヶ月間観察
  • 最初の尿路感染症の発生を主要評価、さらに新規腎瘢痕および腎機能(eGFR)を副次評価
  • 予防群では31名(21.2%)、非治療群では52名(35.6%)で初の尿路感染症が発生(ハザード比0.55)
  • 2年間の1名の尿路感染症を防ぐために必要な治療数 (NNT)は7名
  • 新規腎瘢痕の発生、24ヶ月時点のeGFRは両群で差が無かった
  • 予防群では非治療群に比べ、尿路感染症原因菌で緑膿菌、他の非大腸菌、抗生物質耐性がより多かった

今回の研究から、中程度以上のVURをもつ乳児に持続的抗生剤投与を行うと、尿路感染症予防効果はあるが、その効果はかなり限定的です。7名に治療を行って1名に予防効果が期待される程度です。男児の場合にはほとんど予防効果が認められないことが本文中に記載されています。一方、抗生剤使用により抗生剤耐性、緑膿菌、非大腸菌などの発生がより多くなります。したがって、予防的抗生剤治療中に尿路感染症が発生した場合には、尿培養検査をより厳格な条件(抗菌薬開始前、カテーテル尿の採取)で行う必要性が示唆されます。

小児肺炎球菌ワクチン(定期接種):2024年4月1日からの内容変更

小児肺炎球菌ワクチン(定期接種)は、従来の13価(プレベナー®)から15価(バクニュバンス®)が4月1日から使用できるようになります。これにより新たに2種類の肺炎球菌株(22F、33F)に対する免疫が付与されます。

接種回数は全4回で、接種間隔もこれまでと変更はありません。また13価から15価への乗り換えが可能です。4回の接種回数のうち1回でも15価を使用することで、22F、33Fに対する抗体価が上昇することが知られています。そのため、13価ワクチンを接種してこられてまだ4回の接種を完了していない場合、途中から15価に変更することでより高い免疫を付けることが期待されます。

当院では、2024年4月1日以降は、小児肺炎球菌ワクチンはそれまでの接種歴に関わらず原則として15価ワクチンを使用します。

12〜13歳女性へのHPVワクチン接種により子宮頸がん発生は皆無:スコットランドからの報告

HPVワクチンが子宮頸がんの発生を予防する事実は、これまでもスウェーデン、デンマーク、英国、米国などから繰り返し報告されてきました。2024年1月のスコットランドからの報告(参照先)では、2価ワクチンを受けた12〜13歳女性では接種回数に関わらず(1回以上であれば)子宮頸がんの発生がゼロでした。

これまでの研究からも、HPVワクチンが子宮頸がんを強力に予防することは確立された事実であり、もはや疑いようがありません。今回のスコットランドの研究は、さらに若い年齢で接種することにより、より高い効果が期待されるという内容です。

小児のしつこい日中の咳・喘鳴と胃食道逆流症

子どものしつこい日中の咳・喘鳴で、通常の喘息治療(吸入ステロイド剤やロイコトリエン受容体拮抗薬など)を行っても反応性不良の場合、原因として胃食道逆流症を疑ってみる必要があります。

胃食道逆流症の主な原因としては、一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)とされています。このTLESRとは、“嚥下を伴わない下部食道括約筋の弛緩”と定義され、胃酸が食道内を逆流し気道にまで到達することがあります。TLESRは胸腔・食道内圧を上昇させる種々の原因(啼泣、胃の膨満、呼吸器疾患など)により起こり易くなります。興味深いことに、日中に喘鳴を来しやすい児は夜間に喘鳴をきたしやすい児よりも、覚醒時・立位に極短時間の胃食道逆流が起こりやすいことが指摘されています(参照先)。したがって、呼吸器症状を呈する胃食道逆流症では、嘔吐などの消化器症状を呈する場合(仰臥位で出やすい)と好発時間帯や体位のパターンが異なります。
結論として、「通常の治療にもかかわらず日中に咳・喘鳴をきたしやすい児では胃食道逆流症の関与を疑う」とされます(参照先)。本症を疑った場合には、まずH2受容体拮抗薬を開始し、その効果を確認します(参照先)。

急性巣状細菌性腎炎

乳幼児期から小児期に認められる尿路感染症の一つに急性巣状細菌性腎炎(AFBN)があります。腎臓実質の局所的な感染から液状化を伴わない腫瘤を形成し、腎盂腎炎と腎膿瘍の中間の病態と考えられています。以下のような特徴があり、原因のはっきりしない発熱、炎症反応増強を見た際に本症の可能性に留意する必要があります(参照先)。

  • 検尿で異常(白血球尿、細菌尿)を認めないことがある
  • 超音波検査で異常を認めず、偽陰性(見落とし)の率が高い
  • 確定診断のために腹部造影CTが必要で、腎臓の一部に造影不良域を認める
  • 膀胱尿管逆流症(VUR)を伴う頻度が高い
  • 膀胱・尿道の異常や、排尿排便障害を伴うことがあり、AFBN再発リスクとして重要である
  • 初回感染時に十分な治療をおこなうこと、VUR、尿路異常、排尿排便障害の評価、遠隔期管理(抗菌薬予防内服の必要性)が重要

メイアクト®倍量使用時のカルニチン欠乏症

最近の小児におけるペニシリン系抗菌薬の慢性的不足により、中耳炎や鼻副鼻腔炎にこれまであまり使われてこなかったハイランクの抗菌薬(オゼックスなど)の市中使用頻度が増え、これらに対する耐性菌の拡大と難治化が懸念されます。
そんな中、セフジトレンピボキシル(CDTR-PI, 商品名メイアクト®)の倍量(18mg/kg/日)使用は、ペニシリン系抗菌薬が無効の場合に考慮する必要があります。ただし、含有するピボキシル基の代謝物が体内のカルニチンに結合して尿中に排泄されるため、薬剤性カルニチン欠乏症を起こし、低血糖、意識障害、けいれんなどの重篤な副作用の発生リスクがあります。この特性と対処法を調べてみました。

  • メイアクト®倍量(18mg/kg/日)を7〜8日間投与により、血清遊離カルニチン濃度は投与前35.69±8.60μmol/L(範囲13.70-54.50)から投与終了時11.70±4.34μmol/L(範囲3.90-26.10)に低下した。(参照先1
  • 血清遊離カルニチン濃度20μmol/L未満ではカルニチン欠乏症と診断し、レボカルニチン製剤の投与を積極的に考慮する。(参照先2
  • 血清遊離カルニチン濃度20以上36μmol/L未満の場合は、カルニチン欠乏症を発症する可能性が極めて高いと判断し、臨床症状、年齢などからレボカルニチン製剤の投与を考慮する。(参照先2
  • ピボキシル基含有抗菌薬の服用により低血糖を起こした20例の検討では、生後11ヶ月から4歳までの乳幼児が19例と集中(残りの1例は後期高齢者)しており、とくに1歳以下が14例と過半数をしめた。(参照先2
  • ピボキシル基含有抗菌薬の服用による低血糖発作などの治療には、レボカルニチン製剤40-60mg/kgを症状消失や血清遊離カルニチン濃度が正常化するまで使用する。意識障害があり経口できない場合には、初期量100mg/kg(最大6gまで)を静脈内投与、その後4時間毎に15mg/kgを追加投与する。(参照先2

以上より、メイアクト®倍量を1週間使用することでカルニチン欠乏症はほぼ必発と考えてよさそうです。とくに乳幼児の使用は相当な注意が必要で、使わなければならない場合にはレボカルニチン製剤の併用を考慮すべきです。

小児慢性便秘に対するモビコール®療法の長期安全性

モビコール®は小児慢性便秘に対して高い効果を認め、現在では2歳以上の標準的治療薬として広く用いられています。治療期間は数ヶ月から数年に及ぶことがあり、保護者の方から長期安全性について質問されることが時々あります。

この点についての研究報告があります(参照先)。以下に要点をまとめます。

  • 2歳以上の小児慢性便秘患者3,350名に平均8.7ヶ月間(範囲3−30ヶ月)、PEG (モビコール®の一般名)製剤による治療を実施した。
  • 最も多い副作用は水様下痢(10%)であり、用量を減らして消失した。
  • 他に、膨満感または鼓腸(6%)、腹痛(2%)、口渇感・疲労・吐き気(各1%)を認めた。
  • 血液検査で、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血清電解質、血中尿素窒素、血清クレアチニン、血清アルブミン、血清浸透圧は全例で正常だった。
  • 9名(11%)で肝機能ALTレベルのわずかな上昇(範囲31-45U/L)を認め、経過中に7名は正常化、1名は軽度上昇(28U/L)を認めた。
  • 3名(4%)で肝機能ASTのわずかな上昇(範囲42-52U/L)を認め、経過中に全員正常化した。

結論として、およそ2年半までの治療期間では臨床的に有意の副作用は認められず、安全性の高い治療法であることが確認されました。

5種混合ワクチン接種(定期)は2024年4月から

現行の4種混合ワクチン(百日せき、ジフテリア、破傷風、不活化ポリオ)とHibワクチンの2種類の定期接種が5種混合ワクチンに統合されます。接種本数が減って、接種時のお子さんおよび医療機関の負担が減ります。2024年4月から開始です。以下に要点をまとめました(参照先)。

  • 製剤はゴービック水性懸濁シリンジ(阪大微研/田辺三菱)とクイントバック水性懸濁注射用(KMバイオロジクス)の2種類
  • 接種開始時期/回数は、現行4種/Hibと同じ生後2ヶ月/計4回
  • 4種混合/5種混合ワクチンの交互接種は、原則として過去に接種歴のあるワクチンと同一のものを用いる。ただし、転居先の状況等で難しい場合には、交互接種が可能
  • 定期接種の終期は、生後90ヶ月(7歳6ヶ月)
  • 標準的な接種期間は、現行4種/Hibと同じ(生後2ヶ月から7ヶ月未満で開始、20日〜56日の間隔で計3回の初回免疫、4回目の追加免疫は初回免疫終了後6ヶ月〜13ヶ月)

子どもの急性咳嗽に対するハチミツの効果

ハチミツは欧米では古くから子どもの風邪に対する家庭療法として用いられています。この効果についてのシステマティックレビュー(参照先)を紹介します。

  • 899名を対象として6つの無作為化比較試験を検討
  • ハチミツと、デキストロメトルファン(メジコン®)、ジフェンヒドラミン(第1世代抗ヒスタミン薬、市販感冒薬に多く含まれる)、サルブタモール、ブロメリン(パイナップル科の植物の酵素)、無治療、およびプラセボと比較した。
  • 症状の程度を7点リッカード尺度により半定量的に評価した。
  • ハチミツは、無治療、プラセボ、ジフェンヒドラミンよりも咳の頻度を減少させるのに有効であった。(無治療:平均差(MD)-1.05、95%信頼区間(CI)-1.48から-0.62;I2 = 0%;2つの研究;154人の子供;中程度の確実性のエビデンス;プラセボ:MD -1.62、95%CI -3.02から-0.22;I2 = 0%;2つの研究;402人の子供;中程度の確実性のエビデンス;ジフェンヒドラミン: MD -0.57、95% CI -0.90から -0.24; 1つの研究;80 人の子供;低い確実性のエビデンス)
  • ハチミツは、デキストロメトルファンと咳の頻度を減少させるのに同等の効果を認めた。(MD -0.07、95%CI -1.07から0.94;I2 = 87%;2つの研究;149人の子供;低い確実性のエビデンス)
  • ハチミツは、発症後3日以内であればプラセボまたはサルブタモールよりも有効であるが、それ以降では優位性はない。

まず、ハチミツは0歳児にはボツリヌス症のリスクから使用禁忌であることに注意して下さい。それ以上の年齢の子どもで、発症初期3日以内であれば咳に対して家庭で試みて良い方法でしょう。与え方はティースプーン1杯のハチミツを、湯あるいはそれ以外の飲料に溶かす、嘗めさせるなどいずれでも構いません。これ以上続く咳には、医療機関の受診を検討して下さい。

2価/4価HPVワクチンを接種されている場合の9価ワクチン接種(いわゆる交互接種)

過去に2価/4価HPVワクチンを受けているが接種スケジュール未完了で、他院で9価ワクチンの接種を断られ当院に相談される場合があります。いわゆる交互接種のケースです。
以下にポイントをまとめました。

  • 9価ワクチンによる交互接種は国の方針としても公式に認められています(参照先)。
  • 9価ワクチンの接種により、2価/4価ワクチンに含まれていないウイルス型に対しても抗体価の大幅な上昇が認められ、より高い有効性が期待されます。
  • すでに2価/4価ワクチンで接種スケジュールを完了している場合には、追加で9価ワクチンを接種することは国際的にも認められていません。

インフルエンザ菌難治化因子と薬剤選択:バイオフィルム形成

インフルエンザ菌の難治化の要因として、①薬剤耐性化、②バイオフィルム形成、③細胞内侵入性があります(参照先1)。

このうちバイオフィルムとは、微生物や微生物が産生する物質などが集合して出来た構造体のことであり、微生物自身は産生する物質(粘着性の多糖類、タンパク、DNAなど)に覆われて、外部からの抗体、貪食細胞や薬剤などの攻撃から守られてバイオフィルム内部で増殖を繰り返します(参照先2)。実際、アモキシシリンで改善しないインフルエンザ菌による小児中耳炎では、バイオフィルム産生能が高いことが知られています(参照先1)。さらに、バイオフィルム形成インフルエンザ菌に対してアモキシシリン、セフジトレン、トスフロキサシンの殺菌性を比較したところ、トスフロキサシンのみが殺菌性を示しました(参照先3)。

以上より、アモキシシリン(ワイドシリン®)やアモキシシリン・クラブラン酸(クラバモックス®)に治療抵抗性を示す小児鼻副鼻腔炎、中耳炎の次の選択肢としては、セフジトレン(メイアクト®)よりはトスフロキサシン(オゼックス®)が考えられます。

インフルエンザ菌難治化因子と薬剤選択:細胞内侵入性

インフルエンザ菌は小児の細菌性鼻副鼻腔炎や中耳炎の原因菌として肺炎球菌についで重要な細菌です。これらの疾患に対する標準的な抗菌薬であるアモキシシリン(ワイドシリン®)やアモキシシリン・クラブラン酸(クラバモックス®、オーグメンチン®)に対してはBLNARをはじめとする一部のインフルエンザ菌が高い抵抗性を示します。したがって、これらの抗菌薬を使っても治療効果が不十分の場合、インフルエンザ菌を想定して次に何を選択するかが課題になります。ここでセフジトレン(メイアクト®)の倍量使用(18mg/kg/日)かトスフロキサシン(オゼックス®)が選択肢に上がります。

インフルエンザ菌による難治化のメカニズムの一つに、細菌の標的細胞内への侵入が知られています。セフジトレンとトスフロキサシンを比較した研究で、両者の細胞内殺菌作用をみた報告があります(参照先)。結論としてセフジトレンは細胞内殺菌作用を示さなかったのに対し、トスフロキサシンは細胞内に移行したインフルエンザ菌に対しても殺菌作用を示しました。これはセフジトレンを含むβラクタム系抗菌薬では元々細胞内移行性が乏しいために、有効な殺菌作用を示さなかったものと考えられます。

モイゼルト®軟膏が生後3ヶ月から使えるようになりました

アトピー性皮膚炎の治療薬で非ステロイド外用薬であるモイゼルト®軟膏は、炎症が治まったあとの維持療法期に皮膚の状態を安定化させる効果があります。これまで対象年齢は2歳以上でしたが、2023年12月から生後3ヶ月以上で使えるようになりました。

アトピー性皮膚炎の発症時期は生後2ヶ月頃が多く、今後の使用方法としては、

①ステロイド外用薬を10日前後連日使用して炎症をしっかり抑えたあとにモイゼルト軟膏につなげる
②プロアクティブ療法でステロイド外用薬と保湿剤を数日おきの交互に使用されるところを、保湿剤の代わりにモイゼルト®軟膏を使用する
などが考えられます。

保湿剤単独に比べればモイゼルト®軟膏は炎症をより強く抑え、しかもステロイド剤と異なり長期の連続使用が可能な安全性に優れます。これまでの治療法に補助的に用いることで、より安定した効果が長期にわたり維持することが期待されます。

胃腸炎関連けいれん

乳幼児が胃腸炎に罹患した際に合併することのあるけいれん性疾患です。以下のような特徴があります(参照先)。

  • 好発年齢は6ヶ月〜3歳
  • けいれんは通常発熱を伴わず、嘔吐や下痢がみられてから2日〜5日程度経過してから起こることが多い
  • けいれんは基本的に短時間(30秒〜3分)であるが、複数回起こりやすい(群発)ことが特徴
  • けいれんとけいれんの間は意識清明であることを確認することが重要(そうでない場合は脳炎、脳症の可能性を考える)
  • 治療はけいれん群発を抑制することが主な目的で、カルバマゼピン少量短期間経口投与(5mg/kg/回 1日1回 1日〜3日間投与)が有効
  • 熱性けいれんに使用されるジアゼパム、ミダゾラムは無効である
  • 一般的に予後は良好

鼻にできるとびひ

とびひ(伝染性膿痂疹)はブドウ球菌、連鎖球菌が原因の皮膚の感染症です。体幹部や四肢、ときに鼻孔や肛門周囲にもみられます。

このうち鼻孔の場合は、膿性の滲出物が色つきの鼻汁と間違われて、「かぜの治療を受けているが一向に洟が止まらない」といって来られる場合があります。鼻孔の内側には数ミリ程度めくれこんだ皮膚の部分(鼻前庭)があり、ここにブドウ球菌の感染がおきます。鼻孔とその周囲では膿汁、痂皮、衛星病変の皮疹を認め、膿汁を吸引するとき激烈な痛みを伴い、底に真っ赤になった鼻前庭皮膚が観察できます。

治療は、通常のとびひと同様に、まず優しく石けん洗浄をおこない膿汁や痂皮などをきれいに除去し、ついで抗菌外用薬を塗布します。この際、鼻孔の内側にも綿棒などを入れて、しっかり塗ることが必要です。

耳鼻科受診と聴診

患者さんで、同じ病名の症状(はな、せきなど)で耳鼻科と小児科の2科を同日に受診される方がたまにいます。このような行為は、同一医療機関内であれば「同日複数科受診」と判断され、一科のみの受診と見なされ医療費請求は削減(=医療機関側の持ち出し)されます。

そこで、なぜ同日に耳鼻科のつぎに小児科も受診するのかを問うと、「耳鼻科では胸の聴診をせず、診療があっという間に終わるから」という答えが返ってきます。おそらく、この逆バージョン耳鼻科版で、「小児科では耳をみてくれないから」という答えもありそうです。

咳が問題の診療で、胸の聴診をしないで済ます、というのが私にはほとんど信じられませんが、実際ほとんどの実地耳鼻科診療では胸部聴診は長く行われてこなかったようです(参照先)。これだと、咳嗽の原因として副鼻腔炎は想定しても、喘息や肺炎など、気管支や肺の病気は初めから全部無視する、ということになります。

私は、胸部聴診は当然ですが、耳鏡診察も原則として行います。鼻アレルギーの疑いには前鼻鏡診察も加えるようにしています。耳垢で詰まっているときは制限ある診療時間の中では深追いせず、耳については翌日耳鼻科を受診するように指示します。副鼻腔炎の疑いがある場合には、副鼻腔超音波検査を行います。

これら、耳・鼻を胸と一緒に診察を繰り返すことで、病気の正しい診断や病態の理解が深まることを幾度となく経験してきました。

同一病名・同一日複数科受診は、医療費の単なる無駄遣いですので、行わないようにして下さい。受診にあたっては、どの医療機関から受診するのが最も合理的であるか、よく検討して下さい。より総合的な診療体勢のある医療機関から始められるようお勧めします。

診療所は儲けすぎか? 財務省財政審議会資料と厚労省資料の比較検討

2023年11月1日の財務省財政審議会において、「医科診療所の経常利益率が8.8%と高すぎるので一般企業並みの3%台にするため、来年度の診療報酬改定においては診療所向けの診療報酬を5.5%引き下げるべきである」とする答申が出されました。街中の一診療所の経営者としては非常に違和感を覚える内容であったため、発表されている内容を確認しました(参照先1)。

財務省の資料には、「一般診療所(医療法人)」とあります。つまり、当院のような法人化していない個人立の診療所は含まれていません。財務省の資料によれば、これら診療所(18,207法人)の医業収益(年間売上)は、平均1.68〜1.88億円とされています。

一方、厚労省が診療所全体(82,151カ所)について調査した資料(「施設単位でみる医療費等の分布の状況」平成29年度版 参照先2)では、医業収益による施設数ヒストグラムは以下になります。

医業収益による施設数

厚労省の資料によれば、診療所の年間売上は平均約1億円、中央値7,400万円、最頻値5,700万円になり、経営実感に近い値です。この資料(平成29年)のあと、コロナ禍を経ているのでこの値よりも一時的にはさらに下がっている可能性があります。このヒストグラム上に財務省の“診療所”の平均値を置くと、ごく上位のセレブ診療所を代表したデータであることが示唆されます。
このような極端に偏ったサンプリングデータをもとに診療報酬の引き下げを強行すれば、それよりもずっと下位をしめる大多数の普通の診療所が大きな打撃を受けることは火を見るより明らかです。

βラクタム系抗菌薬不足の構造的背景

現在の医薬品不足で特に深刻なのは、ペニシリン系やセファロスポリン系などの臨床に必須のβラクタム系抗菌薬の不足です。近隣薬局の在庫状況を確認しながら、綱渡りの診療が毎日続いています。

これらの医薬品は使用実績が長く、薬価(公定価格)は極端に低く抑えられています。ペニシリン系の錠剤では1錠あたり10円前後です。そのため、薬品生産は原薬(6APA, 7ACA)価格の上昇に大きく影響されます。

現在、日本のβラクタム系抗菌薬の原薬は100%中国製です。そのため円安はそのまま原薬価格の上昇に繋がります。一方、原薬自体の製造原価も上昇傾向が続いています。嘗ては日本国内でも原薬の生産が行われていましたが、2000年代の中国メーカーのダンピングにより国内の原薬製造企業は競争力を失い撤退しました。その後、中国国内での人件費上昇、環境対策費用、製薬製造環境の規制強化、製造所の集約化などにより原薬価格の上昇が続いています。国際的にもβラクタム系抗菌薬の原薬生産が中国系の数社に集中しているために、大規模な事故やパンデミック感染症の勃発などの偶発的要因により原薬供給が制限されると国際的な争奪戦が起こります。しかし、諸外国に比べて厳しい日本の品質要求、時代錯誤的に煩雑な薬事申請制度が、国際的獲得競争において日本を不利にしています(参照先1)。

このようにβラクタム系抗菌薬の供給不足には構造的背景があります。ようやく、国内でもペニシリン原薬製造を2025年より再開するという計画が決まりました(参照先2)。しかし、安定的な薬品供給がいつになるのかは不明です。

乳児の胃食道逆流症の非薬物療法

乳児の胃食道逆流症の内科的治療には、非薬物療法と薬物(H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害剤)療法があります。このうち、非薬物療法としては以下があります(参照先1)。

  • 40度に起こした半坐位を食後30分程度とらせる
  • ミルクにとろみ剤を加えてとろみをつける
    以前利用できたARミルクは、現在販売中止になって利用できません。
  • 牛乳アレルギー治療用ミルクの使用
    胃食道逆流症に牛乳アレルギーを合併する率は16%〜55%と非常に頻繁に見られます(参照先2)。そのため通常の治療で抵抗性の場合には、牛乳アレルギーの関与を疑います。牛乳アレルギー治療用ミルクを4〜8週間使用して、効果の有無を判定します。治療用ミルクには、加水分解乳(ミルフィーHP®、ニューMA1®)やアミノ酸乳(エレメンタルフォーミュラ®)、調整粉末大豆乳(ボンラクトi )があります。

医薬品不足に対する厚労大臣の会見から見えること

武見厚労大臣が2023年11月7日に会見を行い、現在の深刻な医薬品不足に対して24の製薬各社に対して要請を行いました。その中で、「現在供給が不足し不採算品と考えられる薬については、来年度の薬価改定での対応も検討している」と述べました(参照先)。

この会見の背後にあるのは、現在の医薬品供給不足は、採算割れの薬価が付いた汎用医薬品を中心に起きている、という事実です。実際、不足している咳止め、去痰薬、抗菌薬などは、いずれも1錠あたり数円からせいぜい数十円の製品がほとんどです。これは、菓子1粒の値段(森永チョコボール1粒84.5円、森永ラムネ1粒82円、いずれも税込み)よりもかなり安いです。

医療費抑制を金科玉条にして、ジェネリック医薬品のシェアを80%にまで数年間で急激に増大させたのは厚労省(<財務省)です。そのうち3割を不採算品にしたのも急激な薬価抑制政策です。現在の広汎な医薬品不足は、稚拙な政策誘導によりもたらされた人災であることを、厚労大臣も認識していることが示唆されます。

モイゼルト®軟膏は皮膚バリア機能を改善する可能性がある

モイゼルト®軟膏を使っているアトピー性皮膚炎のお子さんの保護者の方から、「使ってから、肌がモチモチ、しっとりしてきた」という感想をいただくことがあります。

肌のモチモチ感(弾力性)を生み出す重要な因子として、皮膚角層細胞膜のすぐ外側を取り巻く主要な構成蛋白であるロリクリン(Loricrin, 語源はLorica=ラテン語で兜の意)があります。不溶性で、他の蛋白と強く連結し細胞膜を補強し、ループ状のアミノ酸配列で弾力性を生み出します。
一方、肌のしっとり感を生み出す要素の一つとして「天然保湿因子」があります。角質細胞内に存在し、細胞内に長時間水を保持する作用があります。フィラグリン(Filaggrin, 語源はケラチン線維=Filamentを凝集=Aggregation)の分解産物である遊離アミノ酸は天然保湿因子として作用します。フィラグリンはこの他、細胞質内でケラチンによる微細線維束を作り細胞骨格保持に寄与します(参照先1)。

最近の報告で、モイゼルト®軟膏(ジファミラスト)は、これらロリクリンとフィラグリンの発現をmRNAレベルとタンパク質レベルで上昇させることが示されました(参照先2)。これらの重要なタンパク質を増やして皮膚角層の健全性と保湿性を向上させ、皮膚バリア機能へのプラス効果を示唆する重要な内容と思います。

子どもが強くおなかを打ったときの注意点

子どもは、腹部を直接的に打撃されると内臓に損傷(腹部鈍的外傷)を受けやすいことが知られています。蹴られる、物がお腹に強くぶつかる、などで起こります。具体的には、空手などの運動時のキック、自転車ハンドル、ブランコや鉄棒、跳び箱の角、首からぶら下げた水筒などによる事例が知られています。
お腹の打撲のあと手遅れにならないため、受診する重要な目安は次の点です(参照先)。

① 打撲直後、もしくは1、2時間以内に吐いた
② 症状はなく元気だが、お腹に打撲痕がある
③ 打撲後に顔色が悪い
④ 尿の色がいつもと違う
⑤ 打撲後も腹痛が続いている

子どもたちにも、「転んだとき強くお腹をぶつけると、後で具合が悪くなることがある」「転んでどこをぶつけたか、すぐに大人に伝える」等、言い聞かせるようにして下さい。

4歳未満にはポップコーンを与えないで

日本小児科学会誌(2023年9月1日発刊)に掲載された、「未破裂ポップコーンの誤嚥による1歳9ヶ月児の窒息事故」の報告です(参照先)。

ポップコーンは子どもでは窒息リスクの高い食品です。とくに未破裂コーンは表面が丸く平滑で、硬くて嚙み切りづらいため,窒息につながる危険性が高くなります。4歳未満の子どもには、ポップコーンを与えないで下さい。

アタマジラミの対処法

アタマジラミは小学生以下の子どもで集団発生し、年間を通じて相談されることのある刺咬症です。家庭での対処が中心になります。以下に要点をまとめます。

  • 頭髪に寄生して、頭皮から吸血し、痒みや湿疹を起こします。
  • 卵は0.8mm、約7日間で孵化し、幼虫は吸血を繰り返し10〜14日で成虫(体長2~3mm)になります。
  • 卵は淡褐色から白色で、後頭部、側頭部、耳後部の毛髪の付け根付近に多く見られます。
  • 卵は毛髪にしっかり付着します。フケや頭皮鱗屑(ヘアーキャスト)は簡単に外れる点、あるいは皮膚科や小児科でルーペを用いて観察し区別できます。
  • 子どもにアタマジラミがいると、寝具、帽子、マフラー、タオル、ブラシなどを介して家族に感染していることが多いです。

対処法:

  1. 毎日丁寧に洗髪をして、成虫や幼虫をすべて洗い流す。
  2. 頭髪を短くして、毎日すき櫛で髪をとき、成虫、幼虫、卵を取り除く。
  3. 身の回りの物(寝具、衣類、タオル、ブラシなど)は専用にする。
  4. 市販のフェノトリン配合シャンプー(スミスリン®Lシャンプー)を3日に1回、3〜4回繰り返して使う。
  5. フェノトリン抵抗性の場合には、市販のジメチコン配合ローション(アースシラミとりローション)を使用する。
  6. 治療が開始されれば、登校、登園は可能、プール使用は可能。

参照先:

  1. https://caps-clinic.jp/atamajirami/
  2. 夏秋 優. Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 改訂第2版. 秀潤社, 2023, pp132-133.

小児副鼻腔炎における超音波検査の診断特性:CTとの比較

小児副鼻腔炎の診断には、耳鼻科ではX線検査が多く行われています。一方、超音波検査は小児科、耳鼻科で用いられることがあり、当院でも採用しています。両者の診断結果は、ときに不一致が経験されます。小児副鼻腔炎における両者の診断精度について既報告を調べてみました。

副鼻腔CTを基準とした場合:

上顎洞超音波検査感度92.6%特異度100%参照先1
上顎洞X線検査感度81.1%特異度72.7%参照先2

他の報告でも上顎洞X線検査の感度は75%(参照先3)とされ、X線検査の感度は70−80%程度と思われます。少なくとも超音波検査はX線検査よりも感度において優れていると考えられます。したがって、すでに行われたX線検査で副鼻腔炎とされなくとも、長く続く咳から副鼻腔炎の可能性がある場合には、より感度の高い超音波検査により確認すべきです。

小児副鼻腔炎における超音波検査法の特性

小児副鼻腔炎の診断は、臨床症状と経過からほとんどの場合に可能です。しかし、他の遷延性咳嗽の原因疾患(気管支喘息、感染後咳嗽、心因性咳嗽など)との鑑別を目的として、画像検査が行われる場合があります。頬に超音波プローブを当てて行う上顎洞超音波検査はX線検査と異なり放射線被曝を伴わず、小児にも負担をかけず簡便に施行できます。一方、治療にともない臨床症状が消失した後でも、超音波検査では陽性所見が残ることをしばしば経験します。この検査法の診断特性についての報告を紹介します(参照先)。

  • 臨床症状・鼻内所見陽性時点で、超音波陽性 113/121(93.4%)
  • 臨床症状・鼻内所見陰性時点で、超音波陰性 203/353(57.5%)

すなわち、臨床症状・鼻内所見に対する感度は93.4%と非常に優れているが、臨床所見が陰性となった時点でも半分弱で超音波所見が陽性になり、特異度に限界があることが示唆されます。
しかし、この臨床症状陰性で超音波陽性であった150例では、その後3週間以内に再燃したのが61例(40.7%)であったのに対し、超音波陰性であった203例では再燃が8例(3.9%)のみでした。すなわち、症状消失時の超音波陽性所見の有無で、早期再燃の予後を予測できる可能性が示唆されます。

アトピー性皮膚炎ステロイド外用薬の減量法:プロアクティブ vs. ランクダウン

アトピー性皮膚炎のステロイド外用治療の維持期に、外用薬の減量を進める方法として、プロアクティブ療法(塗る間隔を徐々に空けていく)とランクダウン療法(ステロイド剤の強さを段々と下げていく)があります。両者を比較した研究(参照先)によれば、ランクダウン療法がプロアクティブ療法に比べてより再発する傾向があり、ランクダウン療法では経過中に痒みの程度が有意に上昇しました。
手湿疹などで中等症から重症の皮疹の場合に、ランクダウンを行うとそのあとで掻爬がひどくなって皮疹が悪化することはよく経験されます。現在であれば、モイゼルト軟膏などを併用しつつプロアクティブ療法で進める方がより安定した治療経過が得られると思います。

ゼラチンアレルギーとワクチン接種

ゼラチンアレルギー疑いのお子さんの保護者の方からワクチン接種について質問を受けました。
以前は、いくつかのワクチンに添加剤としてゼラチンが含まれているものがありました。ワクチン接種後のアナフィラキシー対策としてゼラチンフリーへの転換が行われ、現在は国内承認のワクチンではゼラチンを含むものは黄熱ワクチンのみになっています(参照先1参照先2)。したがって、通常使用される定期および任意接種ワクチンにはゼラチンは含まれていません。

医薬品不足問題の根幹

2023年春以降、医薬品不足が急速に広がり頻繁に支障をきたすようになっています。この問題は数年前からありましたが、これまで大手メディアで取り上げられることはほとんどありませんでした。最近になり、少し報道されるようになりました(参照先1参照先2参照先3)。
この問題の根幹には、国による過去20年間にわたる薬価抑制を一義とした医療費抑制政策があります。厚労省は2015年にジェネリック医薬品のシェア拡大(2020年までに80%にする目標設定)、2016年に薬価切り下げの強化(薬価改訂頻度をそれまでの2年に1回から毎年にする)を開始しました。その結果、2022年度には約80%のシェアがジェネリックになりましたが、反面3割のジェネリック医薬品が不採算品目になっています。各社の不採算品目は製造中止、出荷中止になり、穴埋めとして他社の代替品の需要が増大します。しかし、そのほとんどが小規模で200社が乱立するジェネリック医薬品業界では、新発品で収入を得ても、既発品は薬価がどんどん切り下げられ収入が得られないため、工場内の同一ラインで共用生産による多品種少量生産が行われています。このため、代替品の急激な需要増大には対応できず、ドミノ倒し的に各社で出荷調整が頻発し、医薬品の不足が連鎖的に波及する構造になっています。この数年間のジェネリック医薬品各社による不正事件多発の背景には、収益性悪化が品質に対する投資を制約していることがあります。
さらに、2020年以降の新型コロナ禍とコロナ後感染症拡大による医薬品需要増大、最近の円安・物価高による製造コストの上昇といったマイナス要因がさらに追い打ちをかけ、事態を悪化させています。現在の状況は、薬価抑制を一義としたこれまでの厚生政策の破綻を示唆しています。

RSウイルス・ライノウイルス・エンテロウイルスと新型コロナウイルスの重複感染による小児重症化

新型コロナ感染症のパンデミック期にはインフルエンザの流行は抑えられていた一方、RSウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルスによる呼吸器感染はみられました。この時期の米国で、これらのウイルスと新型コロナウイルスの重複感染による小児重症化にかんする研究結果を紹介します(参照先)。

  • 2020年3月〜2022年2月に入院した18歳未満のSARS-CoV-2 感染症患者で他の呼吸器ウイルス検査を行った2659名を対象
  • SARS-CoV-2と他のウイルスの重複感染537名(以下重複群)、SARS-CoV-2単一感染2122名(以下単一群)
  • 重複群の感染ウイルスの内訳:RSウイルス7%、インフルエンザ1%、ライノウイルスまたはエンテロウイルス15%、その他10%
  • 重症呼吸器疾患(ICUでCPAP/BiPAP/人工呼吸器を使用したものと定義)合併に関係したのは、①2歳未満のRSウイルス(オッズ比1.9)、②4歳未満のライノウイルスまたはエンテロウイルス(オッズ比2.4)との重複感染であった
  • 重複群と単一群で院内死亡率に差は認めなかった

RSウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルスは小児の上気道感染症の原因となる代表的ウイルスですが、これらと新型コロナウイルスが重複感染すると、急性呼吸不全、気管支喘息発作、気管支炎、細気管支炎などの合併による呼吸器重症化リスクが約2倍上昇することに留意すべきです。

インフルエンザと新型コロナを重複感染した小児は重症化しやすい

2023年夏以降のインフルエンザ流行は2009年大流行のように秋冬にかけてさらに拡大する可能性が指摘されています。これにともない、新型コロナ感染を同時にうける重複感染のリスクも懸念されます。両者が重複感染した場合の特性について、米国から2021年10月〜2022年4月の調査報告があります(参照先)。

  • 18歳未満のインフルエンザ感染による入院575名、うち32名は新型コロナとの重複感染(以下重複群)、543名はインフルエンザの単独感染(以下単独群)だった
  • 重複群では単独群に比べてインフルエンザワクチン接種率が低かった(17.4% vs 42.4%, p=0.02)
  • 重複群は単独群に比べてRSウイルスも重複感染している率が高かった(10.7% vs 1.3%, p<0.01)
  • 重複群は単独群に比べて人工呼吸器の使用率が高かった(12.5% vs 4.2%, p=0.03)
  • 両群とも、院内死亡はなかった

インフルエンザと新型コロナの重複感染した小児はインフルエンザ単独感染に比べて重症化しやすいことが示唆されます。重複感染を避けるために、インフルエンザワクチンの積極的接種が強く望まれます。

呼吸器感染症入院小児ではウイルス重複感染が約4割にみられる

2023年4月以降、小児感染症の爆発的流行が続いています。新型コロナパンデミック以前およびパンデミック期に呼吸器感染症で入院となった小児について多種類のウイルス検索をおこない、単一感染か重複感染かについて検討した興味深い日本のデータがあったので紹介します(参照先1)。

  • 福島県内の1カ所の二次医療機関で2017年9月から2021年12月に調査
  • 対象は15歳未満で入院時に呼吸器症状を持つ小児
  • SARS-CoV-2に感染した小児およびSARS-CoV-2と接触した小児は対象から除外
  • 検索対象ウイルスは、小児呼吸器感染症の主な原因となる、RSウイルス, インフルエンザウイルス, コロナウイルス, ヒトメタニューモウイルス, パラインフルエンザウイルス, ライノウイルス, アデノウイルス, ボカウイルス
  • 新型コロナパンデミック前の2年間(2018年、2019年)では、ウイルス検出例のうち重複感染の占める割合は、約4割であった(42.0%、39.5%)(参照先2
  • 新型コロナ流行の起きた2年間(2020年、2021年)では、各ウイルスの検出数は大幅に減少し、重複感染の占める割合も減少した(24.3%、28.0%)(参照先2

2023年以降、感染対策の緩和、集団免疫状態の低下などにより多種類の小児呼吸器ウイルス感染症の同時流行が起きています。このような環境下では、入院を必要とする重症例では重複感染が高率に想定されることに留意すべきです。

精索静脈瘤

10歳すぎの男子で、左陰のうや鼠径管に累々とした膨らみが見られます。腹圧をかけると大きさが変化します。左側が90%、右側はまれです。発症時期は10歳未満ではほとんど見られず、10−15歳で増加します。成人男性の15%に見られます。
原因は、左精巣静脈に逆流を起こす静脈弁の機能不全です。左精巣静脈は左腎静脈に流れ込み、左腎静脈は上腸間膜動脈と大動脈の間に挟まれ静脈圧が上昇するため(ナットクラッカー現象)、左精巣周囲に静脈瘤ができやすくなります。
一番の問題点は、将来の男性不妊の原因になりうることです。治療は左精巣静脈をしばって、他の迂回路を発達させることが行われます(参照先)。

2023年インフルエンザ流行は2009年パンデミックと似ている

現在(2023年)流行しているインフルエンザの動向予測が東京小児科医会感染症予防検討委員会から9月28日に報告されました(参照先)。これによると、2009年のインフルエンザ世界的大流行(新型インフルエンザあるいは豚インフルエンザと呼ばれたAH1pdm09によるもの)とよく似ています。すなわち、通常の季節性インフルエンザよりも流行が早く始まり、大規模かつ長期間続くものです。高齢者、基礎疾患のある成人、小児では気管支喘息など呼吸器系基礎疾患、インフルエンザ脳症のハイリスク年齢(2〜4歳)はとくに厳重な注意と対策が必要です。

10月から接種の始まったインフルエンザワクチンはAH1pdm09とAH3亜型(A香港型)に対応しています。本年度、インフルエンザワクチンは潤沢に供給されており、積極的な接種が強く望まれます。

小児インフルエンザでは吸入薬イナビルは二峰性発熱が多い

インフルエンザ吸入治療薬であるイナビルは、1回の吸入で済む簡便さがあり成人にはよく使われます。しかし、小児ではイナビル吸入2−3日後に再発熱(二峰性発熱)を認めることが少なからず経験されます。年齢は10歳未満だけでなく、10歳以上でも認められます。過去の学会発表では、インフルエンザ吸入薬であるリレンザ(5日間吸入)に比べて、二峰性発熱のリスクが5.8倍高く、さらに低年齢ほど二峰性発熱が起こりやすいことが示されています(参照先)。二峰性発熱は、インフルエンザ経過中の重症化と紛らわしいだけでなく、登園・登校の再開が遅れる原因になります。原因として、吸入1回のみでは(とくに低年齢では)吸入が完全にできていない可能性が考えられます。以上より、当院では小児インフルエンザ治療薬としてイナビルは原則として推奨しません。

アセトン血性嘔吐症(周期性嘔吐症):家庭での初期対応

古くは自家中毒と呼ばれていた病態で、10歳までのやせ型、繊細な性格、第一子や末っ子、男子にやや多いなどの特徴があります。何らかの原因(感染症やイベントなど)で糖分の摂取が制限(とくに夕食を摂らず寝た翌朝に多い)されることが誘因になります。糖質の摂取制限により低血糖になり、それを補うためエネルギー源として体内の脂肪を消費し、その結果血液中のケトン体が上昇します。ケトン体は吐き気と腹痛の原因になり、頻回の嘔吐が始まります。嘔吐によりさらに低血糖が悪化し、悪循環が成立します。

家庭での初期対応としては、脱水の補正よりは血糖を上げることを優先します。少量ずつ糖分の高いものを頻回(15分おき)に与えます。ラムネ、飴、チョコレート、カルピス、ヤクルトなどがおすすめです。逆に、水、お茶、スポーツ飲料(糖分約5%)は糖分が少なく不適当です。吐き気止め薬(ナウゼリン)は、感染性胃腸炎による嘔吐に比べると効果が劣ります。確実に効果が期待できるのは医療機関を受診して糖分の入った点滴を受けることですが、数時間かかります。その前に、家庭では誘因を回避するように注意し、初期に糖分摂取に努めて下さい。

緑豆もやしアレルギー

市場に出回っているもやしの90%は緑豆もやしであり、マメ科であり大豆もやしとは異なるため大豆アレルギーのある場合にも食べることができます。
ところが、最近緑豆もやしによるアレルギーが多く報告されるようになりました。花粉症の一種であるハンノキアレルギーがある場合、緑豆もやしで花粉・食物アレルギー症候群をおこすことがあります。症状は口腔、喉、口唇の違和感です。緑豆もやしアレルギーは大豆の主要コンポーネントアレルゲンの一つであるGlym4 と交差反応性があり、高率にGlym4陽性になります(参照先)。

2023年度の秋までにインフルエンザに罹った場合、10月からのインフルエンザワクチンは接種すべきか

2022−23年シーズン(2022年9月4日〜2023年9月1日)は、夏の終わりに至ってもインフルエンザの流行が治まらないまま次シーズンに突入するという前例のない感染状況となりました。このため最近インフルエンザに罹った方から、 10月から開始されるインフルエンザワクチンの接種は必要かというご質問をいただきます。

2022年−23年シーズンにおいて、感染の多くを占めるA型ではAH1pdm09とAH3亜型(A香港型)の2種類が流行しました。10月から接種予定のワクチン株は、AH1pdm09については流行株と遺伝子的に近縁の株、AH3亜型については流行株の一部と遺伝子的に近縁の株が選択されています(参照先)。同じA型であってもAH1pdm09とAH3亜型は別系統であり、同じシーズンに2度罹ることが起こりえます。したがって、仮に秋までにインフルエンザに罹患したとしても、2種類の流行予想株に対応したインフルエンザワクチンを接種する積極的な意義があります。

新しい15価肺炎球菌ワクチン(バクニュバンス®)について

現在の定期接種で使用される肺炎球菌ワクチンは13価(プレベナー®)で、13種類の高病原性肺炎球菌血清型に対応しています。これにさらに2価(血清型22F、33F)を加えた15価肺炎球菌ワクチン(バクニュバンス®)が、高齢者または肺炎球菌感染リスクの高い成人には2023年4月から、小児には2023年6月から使用できるようになりました(参照先)。

いずれも現時点では任意接種であり、1回あたり9,000円から12,000円の費用が掛かることにご注意下さい。15価肺炎球菌ワクチンは13価に比較して、小児の侵襲性肺炎球菌感染症では6%分のより優れた発症予防効果があると報告されています(2023年8月23日岩田敏先生Web講演会報告)。

接種スケジュールは、生後2ヶ月以降の標準的な場合、13価ワクチンと同様の4回で実施できます。

かぜの子どもの色つき鼻汁は抗菌薬開始の基準になるか

小児のかぜでは、経過が長くなり急性副鼻腔炎が疑われるようになると、鼻汁に色が付くことはしばしば認められます。この鼻汁の色を根拠に、抗菌薬の開始を求める保護者がたまにおられます。

では、小児急性副鼻腔炎で鼻汁に色が付いたら、ただちに抗菌薬を開始すべきなのでしょうか。

最近の報告によれば、急性上気道炎症状を呈する小児で10日以上症状改善の認められない、または二重悪化を認めて抗菌薬(アモキシシリン・クラブラン酸配合薬)の適応と判断され開始した場合、鼻汁の色の有無は、抗菌薬の治療効果に差を認めなかったとされています。また、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス菌のいずれかが鼻咽頭スワブで陽性となった場合はそうで無かった場合に比べて、抗菌薬の効果を認めました(参照先)。

以上より、鼻汁の色が付いていたとしてもすぐに抗菌薬開始とはならないことが示唆されます。

モイゼルト軟膏の使い方(患者用てびき)

非ステロイド外用薬で、塗る場所、塗る期間、塗る回数に制限がないのがステロイド外用薬と違います。
炎症を抑える力はステロイド外用薬に比べて弱いため、炎症を抑え込むには不十分ですが、いったん抑えたあとに維持する目的に用います。

① 皮疹のある部位に、はじめステロイド外用薬をおよそ10日間(きれいになってからプラス5日間)、1日2回、たっぷり塗ります。
② 皮疹部位が完全にきれいになってから、モイゼルト軟膏に切り替え、1日最低2回、毎日塗り続けます。
③ モイゼルト軟膏だけでは、痒みや皮疹の再発が抑えられない場合には、週2~3回ステロイド外用薬を併用します。
④ 落ち着いてきたら、徐々にステロイド外用薬の使用間隔を空けていきます。
⑤ 手湿疹など、皮疹のとくに強い部位には、1日5~10回モイゼルト軟膏を塗って下さい。
⑥ 小学生以上であれば、モイゼルト軟膏を自分用に持って、痒い部位に自分で塗るように指導して下さい。
⑦ 当院では、ステロイド外用薬、モイゼルト軟膏ともに保湿剤(ヒルドイドソフト軟膏)と混合して処方しますので、保湿剤を重ねて塗ることは不要です。

小児慢性副鼻腔炎に対するマクロライド療法の要点

小児では集団保育などの反復感染の原因となる環境要因があり、急性細菌性鼻副鼻腔炎はしばしば反復化、遷延化、慢性化します。遷延化した小児副鼻腔炎に対して、はじめに原因となる病原菌に対して有効な抗菌薬を十分量使うことで、多くの場合に症状の大幅な改善が得られますが、しばしば鼻粘膜の過分泌状態が残ります。この過分泌に対してはマクロライド少量療法が有効です。以下にその要点を示します(参照先)。

  • 使用薬剤:14員環マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど)
  • 適応となる副鼻腔炎のタイプ:過分泌症状が主体の慢性副鼻腔炎
  • 使用量:通常使用量の1/2~1/3
  • 投与期間:原則として3ヶ月(必要により6ヶ月まで)
  • 再投与:再投与しても、前回と同様の効果が期待される

小児の慢性副鼻腔炎は好中球性炎症を主体とした過分泌が本態です。マクロライドは粘液産生の抑制、炎症性サイトカインの抑制、好中球・マクロファージの遊走抑制、などの作用を介して小児慢性副鼻腔炎に対して高い有効性を発揮します。抗菌薬の長期使用に伴い耐性菌の誘導が懸念されますが、小児慢性副鼻腔炎に対してマクロライドを2ヶ月以上使用した鼻咽腔検出菌の成績では、病原菌が減少し正常細菌叢が増加し、むしろ鼻咽腔細菌叢の正常化がもたらされると考えられます(参照先)。

小児の急性細菌性鼻副鼻腔炎に対する適切な初期抗菌薬治療

当院では他の医療機関で初期治療を受けたが軽快せず、一ヶ月以上遷延した急性細菌性鼻副鼻腔炎 (ABRS) の小児をしばしば経験します。このような遷延化を防ぐためには初期に適切な抗菌薬治療が行われることが重要です。治療開始時期、薬剤選択、治療期間、併用療法などについて参考になる米国のガイドラインを紹介します(参照先)。

  • 抗菌薬初期治療を開始する適応
    • 臨床的な改善の兆候がないまま続く、急性鼻副鼻腔炎と一致する持続的な症状または所見が10日以上続く
    • 発症時に高熱(39℃以上)と膿性鼻漏または顔面痛の重篤な症状または所見が、病気の初期の3〜4日間持続する
    • 通常のウイルス性上気道感染が5〜6日間続き、当初は改善していたが、新たに発熱、頭痛、鼻漏増加の症状または所見が悪化する(「二重悪化」)
  • 初期の抗菌薬治療としてアモキシシリン単剤ではなくアモキシシリン・クラブラン酸が経験的抗菌療法として推奨される
  • アモキシシリン・クラブラン酸の適応対象
    高度な侵襲性ペニシリン非感受性肺炎球菌の地理的な流行率が高い地域の小児および成人、重症感染症、保育施設への通園、2歳未満または65歳以上の年齢、最近の入院、過去1ヵ月以内の抗生物質使用、または免疫抑制されている患者
  • ABRSの初期の抗菌療法には、呼吸器フルオロキノロン(トスフロキサシンなど)ではなくβ-ラクタム系薬剤(アモキシシリン・クラブラン酸)が推奨される
  • マクロライド系(クラリスロマイシンとアジスロマイシン)は肺炎球菌の高い耐性率のため、推奨されない
  • ST合剤(TSM/SMX)は肺炎球菌とインフルエンザ菌の耐性率が高いため、推奨されない
  • 第2世代および第3世代の経口セフェム系は、肺炎球菌に対する耐性率が様々なため、ABRSの単剤療法としてはもはや推奨されない
  • ABRSの小児に対しては、10〜14日間の抗菌薬治療期間が推奨される
  • ABRSの成人にたいしては、生理的食塩水または高張食塩水を用いた鼻洗浄が副次的治療として推奨される
  • アレルギー性鼻炎の既往歴のある患者を主に対象とし、ABRSの治療においてステロイド点鼻は抗生物質の補助療法として推奨される
  • 局所または経口の充血除去剤や抗ヒスタミン薬はABRSの副次的治療として推奨されない

麻しんワクチン接種歴の生年月日別早見表

最近、国内で麻しんが流行しており、これまでに2回の麻しんワクチン接種が済んでいない場合には追加接種が推奨されます。東京小児科医会公衆衛生委員会から接種歴の生年月日別早見表が提供されました。保護者世代の方もご自分の接種歴の参考にしてください。

乳幼児遷延性鼻副鼻腔炎の原因とその対策

乳幼児の上気道炎(鼻副鼻腔炎)はしばしば遷延化します。当院では、はな、咳が1ヶ月以上も改善せず受診される乳幼児の診療に日々あたっており、以下の方針で臨んでいます。

遷延化の原因として、もともと2歳未満では免疫能が不十分で感染に対して脆弱であること、繰り返し感染を受けやすい環境(集団保育児、あるいは集団保育されているきょうだいの存在)に置かれることが重要です。鼻汁中には、病原体(ウイルスや細菌)、炎症細胞と産生物質(好中球プロテアーゼ、ロイコトリエンなど)、サイトカインなどが含まれ、局所の炎症持続以外にも中耳や気管支に広がり合併症(中耳炎、下気道炎など)の原因となります。遷延化危険因子がある場合には、家庭で電動吸引器による鼻洗浄吸引をまめに行い、鼻汁の貯留を放置しないことが重要です。鼻洗浄吸引により鼻粘膜線毛の動きが回復し、鼻孔側への鼻汁の排泄が促進されます。

遷延性鼻副鼻腔炎の原因病原体として肺炎球菌がとくに重要です。肺炎球菌ワクチンは病原性の高い型に絞ってターゲットとしているため、全ての肺炎球菌株をカバーしているわけでありません。抗菌薬の効きにくいペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)や低感受性菌(PISP)に対しては、抗菌薬AMPC(アモキシシリン、ワイドシリン®)の高用量(60~75mg/kg/日)が有効です。我が国の小児科、耳鼻科外来で頻用されている第3世代セフェム系(メイアクト®、フロモックス®など)やマクロライド系(クラリス®、ジスロマック®など)は耐性肺炎球菌への効果はほとんど期待できません。しばしば合併感染するモラクセラ・カタラーリス菌はペニシリンを分解する酵素(βラクタマーゼ)を産生し、AMPCの効果を減弱します。高用量ペニシリンで効果が不十分の場合には、βラクタマーゼを抑えるクラブラン酸を配合したAMPC/CVA(クラバモックス®、オーグメンチン®)を使用します。

有効な抗菌薬で病原菌を排除したあとも、鼻副鼻腔粘膜上皮では杯細胞化生、上皮タイトジャンクション障害、腺細胞分泌亢進などにより分泌過剰状態が残り、はなみずが治りきらない状態がしばらく続きます。この病態に対しては、鼻汁分泌を抑えるマクロライド少量療法を一定期間追加継続することが有効です。

ナッツアレルギーはアナフィラキシーショックを起こしやすい

近年、我が国ではナッツアレルギーが急増しており、最新の調査結果では食物アレルギー全体の中で鶏卵、牛乳についで3番目に多くなっています。さらに、これらではいずれもアナフィラキシーショックに至る率が比較的高いことが認められます。牛乳、小麦、ピーナッツと同等ないしそれ以上、鶏卵、イクラ、エビ、カニなどよりは高いショック率になっています(参照先)。

 全体数ショック数ショック率
クルミ4635812.5%
カシューナッツ1743017.2%
マカダミア45511.1%
アーモンド34720.6%
ピスタチオ22627.3%
ペカン19315.8%
鶏卵20281567.7%
牛乳113114412.7%
小麦5339818.4%
ピーナッツ3704612.4%
イクラ300206.7%
エビ152138.6%
カニ4224.8%
キウイ8778.0%
大豆79810.1%
ソバ69811.6%

魚アレルギーについて

魚を食べて蕁麻疹がでたり、吐いたりする「魚アレルギー」は、食物アレルギー全体のなかでは比較的まれですが、成人になると多く見られるようになってきます。小児科でアレルギーを専門とされる医師のブログに詳しい解説が載せられていたので、要点を紹介します(参照先)。

  • 成人になってから発症する原因として、真の魚アレルギーではなくて、魚の寄生虫のアニサキスに対するアレルギーである可能性がある。
  • 典型的な魚アレルギーの原因となる主要タンパクとして、パルブアルブミンと魚コラーゲンがある。
  • パルブアルブミンも魚コラーゲンも魚種間の相同性が高いため、一つの魚種にアレルギーがあると、ほかの魚にもアレルギーであることが多い。
  • タラやタイなどの白身魚はマグロやカツオなどの赤身魚に比べてパルブアルブミンの含有量が高い。このほか、魚の部位によってもパルブアルブミンの含有量は異なる(頭部>尾部、腹部>背部)。
  • パルブアルブミンは熱に抵抗性で加熱調理しても残るが、水溶性でちくわなどの練り物には少ない。
  • 魚コラーゲンは水に不溶性であり、練り物でもアレルギーを起こす。
  • 魚アレルギーと間違われるものとして、「ヒスタミン中毒」があり、赤身魚、青魚に多く含まれるヒスチジンが不適切な温度管理によりヒスタミンに変わり、そのための中毒症状を起こす。
  • アニサキスはイカや青魚(サバ、アジ、イワシ、サンマなど)に寄生率が高く、生食により胃腸壁に侵入して「アニサキス症」を起こすほか、アニサキスの虫体成分に対するアレルギーの原因となる。

食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)の対処方針

FPIESでは主に卵黄の摂取1~4時間後に頻回の嘔吐を認めます。卵白を主体とした通常の即時型アレルギーと異なりIgE抗体を介さず起きるため、じんま疹や喘鳴を認めず、アドレナリン投与が無効です。したがって、通常の食物アレルギーに対する対処方針とは異なるため、本症に対する治療指針が日本の国立成育医療センターから発表されました(参照先)。
軽症から中等症までは経口または経静脈の水分補給、重症例ではさらにステロイドの静脈内投与が指示されています。

BCGワクチンは新型コロナの発症予防および重症化予防のいずれにも効果がない

コロナ禍の初期に、BCGワクチンが新型コロナに対して有効であるという情報が流れました。2023年4月27日に発表された論文で、3988名を対象にした二重盲検ランダム化比較試験が行われ、発症および重症化のいずれに対しても予防効果を認めないという結果が示されました(参照先)。

子宮頸がんで逝った敏腕女性プロデューサー

2023年5月4日にニッポン放送でオンエアされた井出智さんの最後のメッセージをradikoで聴きました。番組パーソナリティは宮地真緒、沖縄で緩和医療を受けてきた井出さんはリモートで参加され、「子宮頸がんはワクチンで予防できること、そのHPVワクチンのことを一人でも多くの人に伝えたい」としっかりとした口調で述べられ、番組収録数時間後の夜、逝去されました(参照先)。

子宮頸部腺がんの特徴とHPVワクチンによる予防

子宮頸がんの中で最も多い組織型は扁平上皮がんと呼ばれるものですが、年々増加が続いている型として腺がんがあります。つぎのような特徴を持ちます(参照先1参照先2)。

  • 現在は、子宮頸がんの中の約25%を占めるに至っている
  • 原因は扁平上皮がんと同じくHPV感染によるが、とくに18型、16型によるものが多い
  • 30歳代を中心とした若い世代に多い
  • 子宮の入り口にできる扁平上皮がんと異なり、外から見えにくい子宮頸管の中にできるため、子宮がん検診では見つけにくい
  • 抗がん剤や放射線治療が効きにくい
  • 同一臨床病期では、扁平上皮がんに比べて予後が不良である

したがって、子宮頸部腺がんに対しては検診で発見することは困難であり、HPVワクチンによる予防がきわめて重要になります。

「排尿がまん訓練」は夜尿症の改善には無効である

夜尿症への効果を期待して、「排尿がまん訓練」が指導されていることがあります。日中、できるだけ排尿を我慢すると、次第に膀胱容量が大きくなって夜尿症が治る、というものです。本当に、効果があるのでしょうか?

これまでの研究で、昼間の下部尿路症状のない通常の夜尿症(単一症候性夜尿症)について、がまん訓練をおこなうと機能的最大膀胱容量(昼間のがまん尿量)は増大するが、夜尿日数の改善には全く効果がないことが示されています(参照先1)。日本の現行のガイドランでも、単一症候性夜尿症に対してがまん訓練を行わないよう記載されています(参照先2)。

小児の便秘に食物繊維、水分、プレバイオティクス、プロバイオティクスの積極的摂取は効果がない

小児の便秘にたいして食物繊維や水分、プレバイオティクス、プロバイオティクスの積極的摂取をするべきか、相談を受けることがあります。2014年に発表された欧州と米国の専門家委員会合同ガイドライン(参照先)によれば、いずれも通常の食事や水分が摂れていれば問題なく、積極的に与えても便秘に対する効果は期待できないとされています。

9価HPVワクチン2回接種の適切な間隔:6ヶ月 vs. 12ヶ月

2023年4月から日本でも9価HPVワクチンの定期接種が始まり、9〜14歳では2回接種が採用されました。この接種間隔は、初回接種から2回目は6〜12ヶ月後と規定されています。では、1回目と2回目の間隔は短いと長い、どちらが適切でしょうか。

最近の論文では、9〜14歳の男女に9価ワクチン2回接種を実施した場合、12ヶ月間隔が6ヶ月間隔に比べ、接種後3年間の抗体価が有意に高く維持されるという結果が示されています(参照先)。

健康な小児・若者に対してコロナワクチンの優先度は低い:WHOの新見解

2023年3月28日にWHOが新型コロナワクチンの適応に関する新見解を発表しました。
この中で、健康な小児および思春期若者(6ヶ月〜17歳)について、以下のように述べています(参照先)。

  • 初回および追加接種は安全で効果があることは認める
  • しかし、この年代での新型コロナ重症化リスクは低い
  • 接種実施を考える国は、重症化リスク、費用対効果、他の保健上の優先課題を考慮すべき
  • これまで確立された他の一般的な小児ワクチンの意義に比べれば、コロナワクチンを接種する意義は遙かに低い

以上から、重症化の乏しいこの年代の新型コロナ感染症に対して、莫大なコストが掛かる広範かつ反復のワクチン接種の意義は乏しい、という見解と理解しました。

夜尿症の自然歴

夜尿症は中学卒業までに90%以上が自然治癒します(参照先)。すなわち、放っておいてもほとんど直る予後良好な病態です。現在は、抗利尿ホルモン療法やアラーム療法などが治療法の主体ですが、いずれも自然治癒を多少早める程度の意義です。
「焦らず」・「怒らず」・「夜中に起こさず」の3原則で、ゆっくりと付き合って下さい。

ミニリンメルトOD錠服用の10箇条

夜尿症の治療に用いる抗利尿ホルモン剤であるミニリンメルト®OD錠は、服用条件を厳格に守ることで所定の効果が期待できます。夜尿症治療のエキスパートの推奨を紹介します(参照先)。 

• 夕食終了から服用まで
1. 夕食後から就寝までの水分摂取は200mL以下(またはキューブ氷を数個まで)
2. 夕食後から服用まで2時間あける
3. 歯磨きは服用前に済ませる
• 服用のしかた
4. 直前に開封する
5. 舌の下に置き、たまってくる唾液で溶けるのを1分間待ち、水を使わず飲む
6. OD錠は噛まない、すぐに飲み込まない
• 服用から就寝まで
7. 寝てから間もなく夜尿する場合は、就寝1時間前に服用する
8. 明け方に夜尿する場合は、就寝直前に服用する
• 効果不十分の場合
9. 120μグラムで開始し、効果不十分であれば1~2週後に240μグラムに増量する
10. 服用した場合と、服用しなかった場合のそれぞれ数日間について翌朝起床時尿の尿比重平均値を比較する(適正な服薬条件の確認)

参照先
西崎直人:夜尿症診療リアルメソッド. 中外医学社, 2022.

コレクチム軟膏とヒルドイドソフト軟膏は混合できる

コレクチム®軟膏とヒルドイド®ソフト軟膏を混合できるかを、コレクチム®軟膏販売元の鳥居薬品に確認しました。その結果、0.5%製剤とヒルドイドソフト軟膏を混合した2および4週間の観察で、混合性、色、におい、分離において変化なし、残存率99.6%、の回答を得ました。

コレクチム®軟膏とヒルドイド®ソフト軟膏を混合して塗りやすくなることは、小児アトピー性皮膚炎の治療を家庭で継続する上で大きなメリットです。ただし、本剤では1回あたりの使用量に上限設定が設けられています(体表面積の30%まで:生後6ヶ月~2歳=2g 3~5歳=3g 6~10歳=4g 成人=5g)。すなわち、1日2回塗布する場合、1ヶ月処方量として小児では120~240g、成人では300gが上限になります。

モイゼルト軟膏を使いやすくするポイント

アトピー性皮膚炎の治療薬であるモイゼルト®軟膏を日常使用する場合、製剤(10gチューブ)のままでは塗りにくい問題があります。2023年3月20日に行われた八王子医師会主催Web講演会で国立成育医療センター福家辰樹先生から、現在までの使用経験にもとづく以下の情報が提供されていました。

① 単独で、あるいはステイロド外用薬や保湿剤と併用して、寛解維持期に用いる
② 1%製剤と0.3%製剤のうち、小児の導入時には1%製剤から使用する
③ いずれの製剤もヒルドイド®ソフト軟膏と混合して使用できる
④ 症状に応じて、塗る回数を通常の1日2回から5ないし10回に増やす
⑤ 目に使う場合、眼を閉じた上から眼瞼縁まで塗るようにする

とくに③は、体幹、四肢などの広い範囲に毎日使う場合には重要です。④は、コロナ禍で頻発した小児の手湿疹に対する使い方として有用です。

9価HPVワクチンの2回接種が決定(更新版)

2023年3月7日の厚労省専門部会で、9歳〜14歳の9価HPVワクチン接種回数は2回接種にすることが決まりました。1回目は15歳の誕生日前とし、1回目と2回目の間は5ヶ月以上あける必要があります。これはこの年齢における国際的標準接種方法です(参照先)。当院もこれまで2回接種で行ってきました。

熱性けいれんに関するよくあるQ&A

熱性けいれんで受診した救急外来の対応、説明が様々で、保護者の方から熱性けいれん後の当院外来でよく寄せられる質問内容には以下のようなものがあります。日本小児神経学会「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」(診断と治療社)を参照しました。

Q1.熱性けいれんの再発予防のために解熱剤は必要か
A1.発熱時の解熱剤使用により熱性けいれん再発を予防できるというエビデンスも、逆に解熱剤使用後の熱の再上昇によりけいれんを再発させやすくするというエビデンスもない。他の発熱疾患と同様に、患者さん本人の苦痛や不快感を軽減するために使用するという理解でよい。

Q2.病院到着時に熱性けいれんが止まっている場合、外来で抗けいれん剤(ジアゼパム)を使用した方がよいか
A2.外来で熱性けいれん全般に対してルチーンに使用する必要はない。使用することで一定程度の24時間以内の熱性けいれん再発予防効果は期待できる反面、神経学的異常所見や意識レベルの低下がマスクされて髄膜炎や急性脳症の診断に影響する懸念がある。医療機関の体制や自宅と医療機関の距離、家族の心配などを考慮して決める。

Q3.熱性けいれん既往がある小児に発熱時のジアゼパムの使用は必要か、その使用基準
A3.熱性けいれんは基本的に予後良好な良性疾患である。ジアゼパムによる眠気、ふらつきなどの高い有害事象発生率、髄膜炎などの見逃しのリスクなどからルチーンに使用する必要はない。
しかし、以下の1)または2)の場合に使用する。
1) 遷延性発作(持続時間15分以上)
2)次のうちの2つ以上を満たした熱性けいれんが2回以上起こった場合
① 部分発作または24時間以内に反復する発作
② 熱性けいれん前から存在する神経学的異常、発達遅滞
③ 熱性けいれんまたはてんかんの家族歴
④ 初回発作が生後12ヶ月未満
⑤ 発熱後1時間未満での発作
⑥ 38℃未満の発熱に伴う発作


小児の新型コロナ遺伝子検査のてびき

小児の新型コロナ遺伝子検査のてびき

唾液による新型コロナウイルスPCR検査

唾液による新型コロナウイルスPCR検査

鼻腔ぬぐい液による新型コロナウイルス検査

鼻腔ぬぐい液による新型コロナウイルス検査

新型コロナウイルス感染症疑い受診用問診票

新型コロナウイルス感染症疑い受診用問診票
(PDF形式Word形式)

子どもの便秘治療中のモビコール®服薬調整法

子どもの慢性便秘治療では、「溜め込まない排便習慣の獲得」が服薬を中止する前の段階として重要です。すなわち、直腸に便が入り便意を感じたら、溜め込まずにすぐにトイレに行く習慣を身につけることです。
モビコール®で便秘治療中、便が溜まっている所見(排便がない、硬い便、大きな便)のいずれかが続けて認められたら、以下のようにします(参照先)。

  • 2日続けて便が溜まっているときは、3日目にモビコール®を1包増やし、そのまま続ける
  • 下痢になったら、翌日から1包減らす

参照先 十河 剛:子供の便秘はこう診る! 南山堂, 2020, p107.

HPV9価ワクチン公的接種を決めた厚労省会議の続報(改訂版)

HPV9価ワクチンの公的接種が2023年4月1日から開始されることが決定された厚労省専門部会の資料が公開されたました(参照先)。その内容で、重要と思われるポイントは以下です。

  • 過去に2価/4価ワクチン接種されたが未完了の場合、9価ワクチンに変更(交互接種)することを認める。
  • 9価ワクチン2回接種については、現在申請中の製造販売承認後に決定する。
  • 規定回数を完了している場合には、追加分は定期接種に含めない。
  • キャッチアップ接種で過去の接種歴が不明の場合には、初回接種から開始することを認める。

牛乳アレルギーによる小児慢性便秘

牛乳アレルギーによる消化器症状は下痢、嘔吐がよく知られていますが、がんこな慢性便秘を呈することがあります(参照先1参照先2)。

  • 離乳食開始前に通常の治療に抵抗するがんこな便秘を認めた場合、原因となりうる器質的疾患(腸管肛門奇形、ヒルシュスプルング病など)を除外した上で、人工乳の摂取歴から本症を疑ってみる。
  • 便秘の発症機序として、主に細胞性免疫の遅発型(Ⅳ型)アレルギーによる腸管の炎症があり、一部に即時型(Ⅰ型)アレルギーの関与も認められる。
  • 診断は、患児の乳製品除去(母乳栄養が行われていれば母親の乳製品摂取も制限)により便秘症状の改善を認めることで行う。
  • 治療は、牛乳アレルギー用治療乳の使用や母乳栄養を行い、段階的な乳製品の経口摂取による経口免疫療法を行う。

便秘治療がうまくいっているかの具体的目安

子どもの慢性便秘は、10人中1.5~2人に見られる頻度の高い疾患です。便秘の治療過程で、治療が順調に進んでいるかが分かると、おうちで服薬の調節をしていただく上で役立ちます。便秘治療のエキスパートによる解説書に示された内容を紹介します(参照先)。

下記が達成できていることが確認できれば、治療は順調に進んでいるとみなす。

ゴール1:便塞栓除去
便塞栓除去ができたことは、排便時のいきみがなくなる、便漏れがなくなる、腹部に硬い便塊を触知しなくなる、などで確認する。

ゴール2:苦痛なく排便できる
「いきんでもうんちが出ない」ということがなく、トイレットトレーニング前の子であれば、知らない間におむつにうんちがでている。
トイレットトレーニング後の子であれば、便意を感じたらスルっとうんちがでる。
お尻が切れて血が出るということがない。
お尻を痛がることがない。

ゴール3:溜め込まない排便習慣の獲得
① うんちがパンツに付着することがない。
② うんちを我慢していない。便意を催したら(おなかが痛くなったら)すぐにトイレに行っている。
③ 硬い便(Bristol便スケール1〜3)を出すことがない。
④ 大きな、もしくは太いうんちが出ることがない。
⑤ 毎日、まとまった排便がある。
上記、5項目がすべてできている。

ゴール4:服薬中止
「服薬が中止できる」とは、服薬や浣腸、坐薬を完全に止めた状態で、数ヶ月から1年間観察し、ゴール3が継続できていることが確認できた状態である。

参照先
十河 剛:子供の便秘はこう診る! 南山堂, 2020, p77.

幼児学童の肛門周囲の慢性的皮膚炎は高度便秘のサイン

2~3歳以上になって通常はおむつ皮膚炎を起こす年齢でもないのに、慢性的に肛門周囲の皮膚ただれ(皮膚びらん)を見ることがあります。こんなとき、重症の便秘を疑う必要があります。

便秘が高度になって、肛門直上の直腸内が硬くて大きな便塊によりほとんど塞がれた状態(便塞栓)になると、上方からの糞便の液体成分(便汁)だけが押し出され、便塊の脇をすり抜けて肛門から絶えず漏れ出すようになります。便汁はアルカリ性なので、常に接触する肛門周囲には皮膚炎が起こり、皮膚びらんになります。こんな肛門周辺にはいつも便汁や小さな便塊が付着し、おむつや下着を交換してもすぐに糞便で汚れるようになります。一見すると、柔らかい便が少量ずつ頻回にでるため、便秘なのに下痢による便漏らしと誤解されることも多いです。

このような場合、原因を解決せずに皮膚炎の外用薬を塗っていても改善しません。便塞栓の除去から始まる慢性便秘を治療することで、皮膚びらんも治ります。

文京区では任意9価HPVワクチンの償還払いはない

2023年4月1日から9 価HPVワクチンの公費接種が始まります。これまで、任意9価ワクチンを受けられた方へ接種費用の償還払いが行われるかは自治体ごとに異なります。文京区では償還払いは行わない、という方針を2月21日に行われた文京区医療機関向け説明会で確認しました。

2023年4月から四種混合ワクチンの開始月齢が2ヶ月に変更

2023年4月から四種混合ワクチンの接種開始月齢が現在の3ヶ月から2ヶ月に繰り上がります。これは、近年中に導入予定の五種混合(四種+ヒブ)ワクチンの開始月齢が2ヶ月になることに合わせた対応です。
また、これに合わせた新しい予防接種スケジュールが公開されました。

コロナ感染関連の子どもの死をどうやって防ぐ

新型コロナウイルス感染症で子どもは一般に重症化しにくいですが、全体の感染者数が増えれば重症例や死亡例の絶対数は不可避的に増えてきます。国立感染研が2022年末、コロナに罹って死亡した20歳未満62名について分析した結果を報告しました(参照先1)。
この内容について長崎大学小児科森内浩幸先生の指摘が重要な視点を提供していると思われますので紹介します。これ以外にも興味深い論点が含まれています。是非、一読を勧めます(参照先2参照先3)。

調査結果の概要:

  1. 2022年1月1日〜9月30日で新型コロナによる死亡と判断されたのは50名。
  2. このうち、病院到着時で既に死亡が22名(44%)。
  3. 中枢神経系(19名、おそらく殆どが急性脳症)や循環器系(9名、おそらく急性心筋炎やそれらによる急性心不全・不整脈)が多い。
  4. 死亡例の7割は発症0〜2 日。

森内先生の指摘:

1. 着院時死亡の割合が異常に高い
新型インフルエンザの時までは円滑に行われてきた子どもの医療アクセスに、新型コロナでは支障が起きていることが示唆される。新型コロナでも重症化は起こるが、インフルエンザやRSなどの既存ウイルス感染症よりも重症度が高いわけではない。急性脳症を疑わせる症状(うわごとをずっと言う、意識が朦朧、けいれんが続く、など)が子どもにでても、すぐに病院にかかれないコロナ禍特有の事情(発熱外来、救急外来受診の困難、救急車がすぐに来ない、など)が背景にあるだろう。また、テナントビル診で発熱患者を診ることに対する周辺住民の忌避、「クリニックでもコロナ疑いの患者を診るときにフルの個人用防護具を装着しなければならない」とする行政の原則などが、一般診療所をコロナ診療から敬遠させている。

2. ワクチンの重症化予防効果についてはこの調査では不明
ワクチン接種対象年齢にある死亡者(26名)のうち、未接種が88%(23名)、接種が12%(3名)。これは当時の子ども全体の接種率(10数%)と差はない。したがってこの結果からはワクチンが重症化予防に効くとも、逆に効かないとも言えない。

そして、重症化を何かしら疑う徴候や明らかな徴候が現れたときに医療機関(かかりつけ医、2次・3次医療機関)にすみやかにかかれるよう、現行のルールや社会の対応を変更することが今後重要と指摘されています。

家庭での新型コロナ抗原検査の診断精度は発症からの経過日数に大きく影響される

発症からの経過日数による家庭での抗原検査キットの診断精度(PCRに対する陽性率)に関する米国からの報告です(参照先)。
これによれば、発症0日36%、1日57%、2日70%と上昇し、3・4日でピーク(77%)に達します。また、症状の有無やワクチン接種歴の有無にも陽性率は大きく影響されます。発症3日以内で症状があるが抗原検査が陰性の場合、1ないし2日の間隔をあけて検査を繰り返し行うことが推奨されます。

新型コロナ・インフル同時検査キットの一般使用解禁

新型コロナウイルスとインフルエンザを一体にした抗原検査キットについて、一般用医薬品(OTC)として使用できる方針を2022年11月22日に厚労省が決定しました(参照先)。
これは一回の鼻腔検体自己採取によりコロナ・インフルの判定を同時に行うもので、陽性だった場合、現行の電話/オンライン診療を利用して受診しなくとも治療薬の処方が受けられるようになります。

日本のオミクロン株とインフルエンザの年齢別死亡率の比較

2022年1月〜7月までの国内データを元に、日本における年齢別年間死亡者数を比較した報告です(参照先)。これによれば、1〜19歳においてオミクロン株による死亡率はインフルエンザを下回るということが示唆されます。さらに、この研究のデザインでは元々新型コロナウイルスのリスクをより過大に評価するバイアスが想定されるため、69歳以下においてはオミクロン株の死亡リスクはインフルエンザを上回ることはないと結論されています。

9価HPVワクチン公的接種の開始は2023年4月1日から

2023年4月1日から、9価ワクチンの公的接種が、定期接種(小学6年〜高校1年)の女性を対象に開始されることが11月8日決定されました(参照先)。

クリによるアレルギー

クリによる食物アレルギーでは、以下の点に注意する必要があります(参照先)。

  • 症状は、口腔を中心とした症状(舌やのどの違和感)の場合、全身症状(皮膚・目症状、気道症状、意識消失など)の場合、その両方の場合がある。
  • クリは、ラテックス(天然ゴムに含まれる)とフルーツの両方にアレルギーを示す(ラテックスフルーツ症候群)ハイリスク食物の一つである。
  • クリにアレルギーがある場合、バナナ、アボガド、キウイフルーツにもアレルギー症状がでることがある。
  • 加熱済みクリ(天津甘栗、栗きんとん、栗ご飯、栗入りケーキなど)でも症状がでる。

症状から本症を疑った場合、診断のために、クリの実を使った皮膚プリックテスト、血液検査(特異的IgE測定)を行います。

9~10月に小児の喘息発作はなぜ多い

9月中旬以降、喘息発作を起こす小児患者が急増しています。秋の小児喘息発作の増加の背景には、ダニとライノウイルスという2つの大きな要因があります。

ダニは、寝具などで真夏の間に繁殖し、秋になり気温が下がると大量死します。この大量に発生する死骸と糞がアレルゲンとなって家屋内に飛散し、年間を通じて秋がダニアレルゲンのピークとなります。吸入されたダニアレルゲンは、気道上皮でアレルギー性炎症を起こし喘息発作を引き起こします。とくに、ダニ由来プロテアーゼに対する自然免疫系の反応(気道上皮細胞、好酸球、好塩基球、マスト細胞の活性化、気道平滑筋収縮反応の増強)を介して、獲得免疫系が未発達で自然免疫系が主要な乳幼児においてもダニによる下気道炎症が起こります(参照先1)。

ライノウイルスは春と秋に流行する代表的なかぜウイルスです。RSウイルスと並んで気管支上皮に対する親和性が高く、下気道炎症を引き起こしやすいウイルスです。そのため喘息発作の発症に深く関わっており、喘息発作を起こした小児の2/3にライノウイルスが検出されます。気道上皮にあるライノウイルス受容体はICAM-1ですが、このICAM-1はアレルギー性鼻炎、気管支喘息などの小児によく見られる種々の病態にともない発現が亢進し、ライノウイルスの感染が起こりやすくなります(参照先2)。さらに、新型コロナウイルス感染症流行下で、他の呼吸器ウイルスは検出率が低下したのに対して、10歳未満ではライノウイルスの検出率が著しく増加したという日本の報告があります(参照先3)。この背景には新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスと異なり、エンベロープを持たないライノウイルスではアルコール消毒が無効であることが関連しているかもしれません。

HPV9価ワクチン定期接種開始は2023年4月以降の早い時期から

2022年10月4日、「HPV9価ワクチン定期接種開始は2023年4月以降の早い時期から」と報道されました(参照先)。

啼泣時に口唇が非対称になる新生児

普段は気づかないが、泣いたり笑ったりしたときに一方の口角が下がって口唇の形が非対称になるものです。先天性片側下口唇麻痺(CULLP、他にasymmetric crying face (ACF)、顔面神経下顎縁枝麻痺、口角・下口唇下制筋麻痺、口角下制筋欠損、などとも呼ばれる)です(参照先1)。原因は、口の周囲を形成する筋肉の一部(口角下制筋)の形成不全と推定されています。表情を作ったときに口角の下がらない側が患側です。先天性心疾患の合併が約10%に認められるため精査が必要です。

成長に伴って大きな表情を作ることが減り、本人も表情に気をつけて目立たなくなるため、経過をみることが多くは行われます(参照先2)。重症例には形成外科で手術を行うことがありますが、適応年齢は小学校高学年以降とされています(参照先3)。

5~11歳のオミクロン株感染後の再感染リスク

新型コロナウイルス感染の経験者が増えて、新規に発熱した場合に新型コロナの再感染であるリスクはどのくらいなのかという質問がよく寄せられます。実際、数ヶ月間隔で2回感染した方を外来で経験するようになりました。
米国からの報告では、5~11歳でBA.2感染から4ヶ月経過すると次のBA.2再感染に対する予防効果はワクチン接種無しで60%、ワクチン接種ありで70%に低下します(参照先)。日本で大流行したBA.5はBA.2よりも免疫逃避をよりしやすいことが知られており、再感染のしやすさはより急速に進行することが想定されます。したがって、感染の既往があっても2ヶ月以上経過していれば再感染の可能性を十分に考慮する必要があると考えます。

銀杏(ぎんなん)は5歳以下には食べさせないで

銀杏食中毒は、ほとんどが小児に起こります。5~6個程度でも起こすことがあります。5歳以下(症例の約2/3をしめる)には与えないようにして下さい(参照先)。

  • 症状:けいれん、意識消失です。死亡の報告もあります。
  • 発現時間:摂取後、数時間が多いです。
  • 中毒の原因:銀杏に含まれる4-O-メチルピリドキシン(MPN)という、ビタミンB6に極めて似た化学物質です。MPNはビタミンB6の作用を阻害し、ビタミンB6欠乏症状を起こします。このうち中枢神経にある抑制性神経伝達物質のGABAの生合成を阻害して、中枢神経の異常興奮を引き起こします。MPNは加熱しても分解されません。
  • 中毒の治療:ビタミンB6製剤を投与します。

赤ちゃんの「予防接種風景」撮影の法的リスク

予防接種を受ける赤ちゃんの泣く姿の動画がSNSで人気を集め、インスタグラムなどで公開されています。付き添いの保護者が突然スマホやビデオカメラを構えることがあり、こちらから制止させていただくことが当院でも時々あります。
このような行為にともなう法的リスクについて、医療問題を扱う弁護士の見解を紹介します(参照先)。

  • 医療機関側で一番大きい法的リスクは、撮影動画・音声等がネット上に公開されることにより侵害される個人情報とプライバシーの問題
  • 医療分野では、とくに厳格な個人情報の適切な取り扱いがガイドライン上も求められる
  • 撮影された動画に、他の患者さんの個人情報が入り込んでしまう可能性
  • 動画に職員が映り込み、職員のプライバシー権が侵害される可能性
  • 医療機関には録画・録音を禁止する直接的な法律はないが、施設管理権があり医療機関ごとの基準・判断で撮影・録音を制限することができる
  • 事前に院内掲示として、許可のない撮影・録音等を禁止する文言を出しておくことが重要

尿路感染症のスクリーニングのための検査紙法の診断特性

尿路感染症のスクリーニングを目的として、検査紙法が使われることがあります。その項目で尿亜硝酸塩試験は細菌の検出を、尿エステラーゼ試験は白血球の検出を目的とします。両者の試験を組み合わせた場合の感度は91.3%、特異度は67.4%と報告されています(参照先)。ここで、検査紙法検査を受ける前に尿路感染症である確率を0.1%, 1%, 5%, 20%, 50%と仮定した場合、検査結果が陽性あるいは陰性と出た場合にどのくらい本当の尿路感染症であるかを計算してみました。

検査前に尿路感染症である確率検査後に本当に尿路感染症である確率
検査陽性の場合検査陰性の場合
0.1%0.3%0.0%
1.0%2.8%0.1%
5.0%12.8%0.7%
20.0%41.2%3.1%
50.0%73.7%11.4%

すなわち、検査前の症状等からかなり尿路感染症が疑わしい場合(確率50%)には、検査陽性となった7割で真に尿路感染症であり、逆に陰性となった場合の9割は真に陰性と考えてよいことになります。しかし、それ以下の確率の場合には、仮に検査陽性と出ても実際には尿路感染症ではない(偽陽性)可能性が圧倒的に高くなります。

外来受診をする発熱の乳幼児を対象として、尿路感染症(腎盂腎炎)が発熱の原因である確率は実際にはきわめて稀と考えられるため、スクリーニングのために検査紙法をおこないかりに陽性と出ても、そのほとんどは偽陽性であると考えられます。

新型コロナの経口抗ウイルス薬ラゲブリオ®の一般流通開始

2022年9月16日にラゲブリオ®(参照先1)の一般流通が開始され、一般の医療機関でも通常の医薬品と同様に処方ができるようになりました(参照先2)。以下のように、高齢、基礎疾患等のハイリスク条件が無くとも処方を受けることができます。

  • 18歳以上の新型コロナウイルス感染症の検査陽性確定例
  • 妊婦および本剤に過敏症既往を除いて、使用可能
  • 投与は1日2回計5日間(1回4カプセル=800mg)
  • 患者同意書の取得は、口頭で省略可
  • 当面、薬品の処方にかかる費用は公費対象

乳児アトピー性皮膚炎の首回りのコントロール

早期乳児期のアトピー性皮膚炎で、首回りの皮膚炎が治療に抵抗性のことがあります。これは、首回りに脂肪がたっぷりついて皺が深くなり、皮膚同士が絶えず擦れ続けることが原因と考えられます。しかも、首の皮膚が薄いことを懸念して4群(マイルドクラス)のステロイド外用薬がしばしば使われ、炎症が十分にコントロールされないことも一因です。
このような場合、次のような対策が有効です。

  • 使用するステロイド外用薬は3群(ストロングクラス)にして、十分な期間、皺の奥までしっかり塗り、いったん炎症を完全に抑える
  • 炎症が抑えられたあとはプロアクティブ療法に移行して、ステロイドを塗る間隔を徐々に空けていく
  • プロアクティブ療法のステロイドを塗らない日には、保湿剤の代わりにモイゼルト®(ジファミラスト)軟膏またはコレクチム®(デルコシチニブ)軟膏を使い、炎症抑制を補助する
  • 首回りにアトピー性皮膚炎用包帯(チュビファスト®)を併用して、皮膚の物理的刺戟を抑える

2022/23シーズンのインフルエンザワクチン供給量は大幅に増加

今年度のインフルエンザワクチン供給量は、昨年シーズンの1.36倍と大幅に増加する見通しとなりました(参照先)。すでに2022年4月には、南半球のオーストラリアでインフルエンザの流行が起きています。日本でも2年間流行がなかったあとで、大規模なインフルエンザの流行が懸念されます。積極的なワクチン接種をお勧めします。

乳児期から遷延する湿疹はアレルギー疾患の発生リスクを押し上げる

アトピー性皮膚炎の患児では、荒れた皮膚を介して種々のアレルゲンに対して経皮感作が成立し、食物アレルギーや気管支喘息などアレルギー疾患を次々と発症する「アレルギーマーチ」を起こすことが知られています。湿疹の発症時期、罹患期間とアレルギー疾患発生の関係について、日本の1施設で出産した一般集団の子どもを、出生時から13年間追跡調査した前向きコホート研究の結果が報告されたので、紹介します(参照先)。

  • 新生児期に研究対象となった1,550名のうち、13年間の血液検査とアンケート調査を完了し解析対象となったのは468名(女児50.0%)
  • 湿疹の時期により4種の病型に分類した。(1)持続型:1歳時点と13歳時点に湿疹がある(6.8%)、(2)早期寛解型:1歳時点にのみ湿疹がある(23.7%)、(3)遅発型:13歳時点でのみ湿疹がある(5.1%)、(4)湿疹なし(64.3%)
  • 湿疹なしの群と比較して、持続型では、鼻炎(オッズ比20.3)、喘鳴(5.61)、リンゴ・桃による口腔アレルギー症状(5.05)、花粉症(3.02)が有意に増加した。
  • 早期寛解型でも、鼻炎、花粉症、口腔アレルギー症状は増加したが、持続型に比べると程度は低かった。遅発型では、アレルギー疾患の有意の増加はなかった。
  • 食物アレルゲン感作では、持続型でブラックタイガーエビ、クルミ、キウイによる感作が増加した。早期寛解型、遅発型では増加はなかった。
  • 吸入アレルゲンについては、持続型で15のアレルゲンによる感作、早期寛解型では7のアレルゲンによる感作が増加した。遅発型では増加はなかった。

以上より、乳児期に湿疹が発生した場合には、アレルギー疾患の予防として、湿疹の治療を徹底し遷延化させないことの重要性が示唆されます。

子どもの病気とセルフケアの重要性

子どもの病気では、自宅でおこなうセルフケアがとても重要です。

治療を継続することで良好な状態を維持できる慢性疾患では、自己判断で治療を中断すると、予想外の急激な悪化を招くリスクがあります。気管支喘息では、自己中断のために喘息発作の重積状態を招き、緊急入院に繋がることが時々経験されます。アトピー性皮膚炎や慢性便秘では、治療の中断によりそれまで良好についていたコントロールが崩れ、元の木阿弥になることがしばしばです。アレルギー性鼻炎の舌下免疫療法では、治療の中断により期待される治療効果に到達できない結果になります。

セルフケアの重要性は急性疾患でも同様です。子どもの鼻副鼻腔炎は、免疫力の不十分な乳幼児期に、感染機会の蔓延する集団保育環境に置かれると、再発性、遷延性の経過をとり、抗菌薬の使用がしばしば必要になります。軽い上気道炎の段階で、家庭での鼻洗浄吸引を積極的におこなうことで、合併症(中耳炎、下気道炎など)の発生や抗菌薬の使用が劇的に減ることが知られています。

本人が対処のできない乳幼児期では、保護者がセルフケアの主役とならざるを得ません。医療者の側からは、保護者の継続意欲を削がないような負担の少ない方法を工夫して、分かりやすいアドバイスをおこなうことが重要です。子どもが成長して小学生くらいになると、治療の主体を段々と本人に移行することが大切になってきます。自分から進んで薬を飲む、吸入をする、塗り薬を塗る、などの習慣が確立すると、保護者の負担は大幅に減ります。この段階では、本人任せに放置するのではなく、逆にしょっちゅう叱るのでもなく、生活のルチーン・ルールとして組み込んでいくことが効果的です。

子どもの眼の周りの皮膚炎に何を使うか

涙かぶれ、アトピー性皮膚炎や花粉症などが原因となる、眼の周りの皮膚炎の相談は多いです。以下の対処方法があります。

  1. プロペトの頻回塗り
    高純度のワセリン軟膏です。乳児の涙による接触性皮膚炎の場合、軽症であれば本剤を頻回に塗ることで改善します。塗る回数は1日10~20回位を勧めています。
  2. ステロイド外用薬の短期使用
    4群ステロイド軟膏(ロコイド®)を1日2回連日きちんと塗ることで、数日間でほとんどの場合に炎症を押さえ込むことができます。眼圧上昇の副作用があるため、連続使用は最長14日間までです。
    なお、更に作用の弱い眼科用ステロイド軟膏(ネオメドロールEE軟膏)が使われることがありますが、混合抗生剤(フラジオマイシン)による接触性皮膚炎をしばしば起こすため、お勧めしません。
  3. プロトピック®軟膏0.03%小児用
    非ステロイド外用薬です。ステロイド外用薬と並んで、眼の周囲皮膚炎には高い効果を発揮します。ステロイドのような眼圧上昇の副作用はなく、長期間の使用ができます。開始数日間は、炎症のある皮膚では刺激感があるので、①寝てから使用する、②ステロイド外用薬の使用を数日間先行させる、③保湿剤を塗った上に塗る、などの対策をします。2歳未満では使用できません。
  4. コレクチム®軟膏0.25%
    非ステロイド外用薬です。ロコイド®、プロトピック®より抗炎症作用は弱いですが、長期使用が可能で、皮膚刺激感がない利点があります。実際の使用では、炎症が弱い場合にははじめから使用する、炎症が強い場合はステロイド外用薬で炎症をいったん押さえ込み、そのあと本剤に移行する使い方が考えられます。発売開始(2021年6月)からまだ日が浅いので、今後の使用経験の蓄積が求められます。

5~11歳のオミクロン株感染におけるファイザーワクチンの重症化予防効果

基礎疾患のある小児を主な対象としたファイザーワクチン2回接種により、オミクロン株感染による入院リスクは68%減少することを示した米国からの報告です(参照先)。

対象:COVID-19患者1,185名(基礎疾患78%)、対照群1,627名(基礎疾患67%)
入院リスクに対するワクチン効果VE%(括弧内はワクチン接種からの期間)

VE %
Omicron predominant
5-11 yrs (median 34 days)68
12-18 yrs (2-22 weeks)43
12-18 yrs (23-44 weeks)38
Delta predominant
12-18 yrs (2-22 weeks)93
12-18 yrs (23-44 weeks)92

アトピー性皮膚炎における発汗異常

アトピー性皮膚炎では発汗量が減少する異常が存在します。汗は、気化熱による体温調節、皮膚保湿の他、ダニや細菌に対する感染防御作用により、皮膚を健康な状態に保つことに寄与します。アトピー性皮膚炎における発汗低下には以下の原因が含まれます(参照先1参照先2)。

A) 角栓やムコ多糖類による汗管、汗孔の閉塞
B) 汗管周囲組織への汗の漏出
C) アレルギー性炎症や自律神経不均衡のもたらすヒスタミンによる汗腺分泌の抑制

汗腺の閉塞は角層バリアー構造の障害により引き起こされるため、普段からの保湿スキンケアが重要です。また、過剰な汗を皮膚表面に長時間放置することでも汗腺の閉塞が起こります。したがって、汗をかいたあとは放置せず、汗の溜まりやすい首回り、肘、膝のくぼみを中心に濡れタオルで吸い取る、シャワーで洗いながすなどして、そのあと油性成分の少ない保湿剤(フォーム剤)を使って下さい(参照先3)。

新しいアトピー性皮膚炎外用薬をどう使う

非ステロイド系のアトピー性皮膚炎外用薬(コレクチム®軟膏、モイゼルト®軟膏)の使用経験が当院でも増えてきて、上手な使い方が少しずつ分かってきました。以下の原則で使ってみて下さい。

  • いずれもステロイド外用薬に比べて抗炎症作用は弱く、炎症急性期の沈静化(寛解導入)には不向きだが、炎症抑制状態の維持(寛解維持)に向いている
  • コレクチム®軟膏はステロイド4群(ロコイド®)と保湿剤の中間、モイゼルト®軟膏はステロイド3群(リンデロン®)と4群の中間の抗炎症作用を持つ
  • 従来のステロイド外用薬と保湿剤のコンビネーションによるリアクティブ療法(皮疹がでたらステロイドを短期間使用)、あるいはプロアクティブ療法(皮疹のでる部位に一定間隔でステロイドを使用)のやり方で、コレクチム®軟膏やモイゼルト®軟膏を保湿剤の代わりに用いることで安定した状態をより長く維持できる
  • 一方で効果や副作用の点で問題があれば、他方を試してみる
  • いずれも部位や連続使用期間については特に制約なく使用できる

オミクロン株BA.5はBA.2よりも免疫逃避しやすい

現在(2022年7月12日)、日本の新型コロナウイルス感染症の急激な拡大(第7波)にはオミクロン株BA.5への置き換わりが関与していると考えられています。
このBA.5の免疫逃避の特性について2022年7月7日付け米国からの報告が出ましたので紹介します(参照先)。

従来株の中和抗体価(1と表示)に対する変異各株の相対値

従来株BA.1BA.2BA.4/BA.5
ファイザー3回目接種後の中和抗体価10.160.140.05
BA.1/BA.2既感染者の中和抗体価10.160.170.05

この結果からは、BA.5は現在日本で主流のBA.2よりもワクチン接種と自然感染による免疫から逃避しやすいことが示唆されます。したがって、ワクチン3回接種後やBA.1、BA.2感染既往歴があっても、BA.5への感染リスクに十分注意する必要があります。

文京区HPVワクチン任意接種費用の償還払いの開始

1997年4月2日〜2005年4月1日生まれの女性で、定期接種の対象年齢を過ぎて任意接種でHPVワクチンを受けた方を対象に、接種費用の償還払いが2022年7月1日から始まります。ご希望の方は、以下を準備して文京区まで申し込んで下さい(参照先)。

• 母子手帳のHPVワクチン接種記録の該当ページのコピーと領収書
• 期限は2025年3月まで
• 2価・4価ワクチンを対象

2価、4価HPVワクチン接種部分完了後に9価ワクチンに変更した場合の効果

過去に2価または4価ワクチン接種を受けたが規定回数を未完了で、その後9価ワクチンに変更して完了した場合の効果と安全性については、これまでに報告があります(参照先1参照先2参照先3)。
その結果では、9価ワクチン接種後に2/4価ワクチンに含まれないウイルス型(31/33/45/52/58)についても抗体価が上昇していました。これは、2/4価ワクチンの接種により、これらに含まれないウイルス型についても部分的な免疫が付与(クロスプロテクション効果)されていたためと考えられています。
当院では、キャッチアップ接種世代で過去に2/4価ワクチン接種をうけたが未完了で、今回9価ワクチンで完了することを希望される場合には、任意接種(1回あたり税込み29,000円)で受けられるようにします。

ナッツアレルギーが急増している

最近、ナッツアレルギーの子どもを外来で頻繁に経験するようになりました。実際、我が国の食物アレルギーの原因として2021年度には卵、牛乳についで第3位を占めるに至っています(参照先)。このナッツアレルギーの半分以上はクルミが原因です。この他、カシューナッツ、ピーナッツ、アーモンドなども多く認められます。このうちアナフィラキシーを起こしやすいものとして、クルミ、カシューナッツ、ピーナッツは要注意です。また、近い関係にありアレルギー症状をともに出しやすいものとして、クルミとペカンナッツ、カシューナッツとピスタチオのつながりがあります。
当院外来で行う検査として、これらのナッツそのものを用いた皮膚テスト(プリックテスト)と血液検査(特異的IgE抗体定量検査)があります。血液検査では、特にアレルギー症状の発現に密接に関係するタンパク質(アレルゲンコンポーネント、具体的にはクルミではJug r1、ピーナッツはAra h2、カシューナッツはAna o3)に対する抗体の値を調べて、これらが非常に高い場合には食物経口負荷試験を行わずにそのまま摂取の停止(食物除去)が判断されることがあります。値が中程度の場合には、摂取の可否を判断するための経口負荷試験を目的として総合病院小児科のアレルギー専門外来に紹介します。

HPVワクチン薬害説の新聞報道はどのように形成されたか

「HPVワクチンによる薬害被害」を2013年以降大々的に報じ、世間に印象づけた大手メディアの責任は重大です。当時の記事内容の大半は、現在の科学的エビデンスからは否定される、当時の記者たちの先入観がもたらした誤報でした。
この一方的な論調への転換点となった2013年3月8日の朝日新聞社の記事以降、他の大手メディアが追従し、印象(空気)に支配された記事がどのように広がっていったかの検証は、当事者であるメディアからは出てきません。しかし、医療報道事故の具体例として、正確に記録され、後世の反省材料として活用されるべきものです。この検証を扱った記事を紹介します(参照先1参照先2)。

子どもの鼻吸引のコツ

家庭で行う鼻吸引についてのよくある質問と対策です。

“吸引器の選択は?”
電源をコンセントから取る家庭用電動吸引器がお勧めです。このタイプであれば、メーカーによる吸引力の差はほとんどありません。当院には貸し出し器の用意があります。口吸いの簡易型は吸引する人の感染リスクから使わないで下さい。電池式のものは吸引力が弱くて実用に耐えません。

“吸引を痛がったり、鼻血がでたりするので怖い”
鼻腔は垂直に奥(鼻咽頭)に向かいます。また左右鼻腔の中央には鼻中隔があります。この鼻中隔に吸引管先端(オリーブ)を当てると、疼痛や出血の原因になります。オリーブは顔面に対して垂直から同側目頭の角度(すなわちやや外向き)に向け、鼻中隔をこすらないようにします。

“暴れて吸えない”
鼻出血を避けるため、頭部をしっかり固定することが大切です。ひとりで吸引する場合は、吸引する人が両足を床に伸ばして座り、谷間を作り、仰向けにした子どもの頭部をこちら、胴体・足を向こう側にして両足でしっかり挟みこみ、頭部を抑えて吸引します。

“吸ってもあまり引けてこない”
1.まず、鼻孔にしっかり密着するサイズのオリーブを用意してください。購入した吸引器に付いてきたものでは合わない場合には、極小から大まで数種類のサイズがネットから購入できます。オリーブの材質はシリコン、ガラスがありますが、どちらでも構いません。
2.吸引前にはあらかじめ生理食塩水ミストを鼻腔内に吹いて、4~5分程度待ち鼻汁を柔らかくしてから吸引してください。生後7ヶ月以降であればスプレー(ベビーミスト®、サイナスミスト®)、それ以前であればネブライザーを用います。ネブライザー装置は当院から貸し出し、ネブライザー液は当院外来で処方できます。
3.オリーブ先端を鼻孔にしっかりはめ込んで、漏れのないようにします。オリーブを上下左右にゆっくり回すよう軽く振りながら吸引します。左右往復を3~4回繰り返すと、奥にある鼻汁までしっかりとれます。

“吸引する回数やタイミングは?”
鼻汁がたまらないようにするためには、休日であれば1日5~10回くらい頻繁にやってください。登園している日は、起床後、帰宅直後、就寝前は必ずやってください。

アトピー性皮膚炎の新しい治療薬:モイゼルト®軟膏

ジファミラスト(モイゼルト®軟膏)は、これまでのアトピー性皮膚炎外用薬とは異なる作用機序=PDE4(ホスホジエステラーゼ4)阻害作用を持つ製剤です。PDEはcAMPを分解する酵素ですが、これを阻害することで細胞内のcAMP濃度が上昇し、そのことで種々の炎症性サイトカインの産生が抑制されます。炎症性サイトカインは、アトピー性皮膚炎におけるアレルギー炎症、痒み、皮膚バリアー機能障害の成因に深く関わっています。
モイゼルト®軟膏の強さはステロイド外用薬の3群(リンデロン®)と4群(ロコイド®)の中間程度とされ、中等症までのアトピー性皮膚炎であれば連日使用による寛解導入が可能と考えられます(参照先)。その後、皮膚の炎症状態が落ち着けば、同じモイゼルト®軟膏を用いたプロアクティブ療法により数日毎の塗布で寛解維持に移行することが期待されます。モイゼルト®軟膏には0.3%と1.0%の2種類の製剤があり、0.3%は2歳以上、1.0%は15歳以上(症状により2歳以上)で使用できます。
ステロイド外用薬と異なり連続使用できる期間や使用部位に関する制限は少ないため、学童期以降のアトピー性皮膚炎で外用薬の自己管理が重要な時期に有用性が期待されます。

乳幼児便秘にともなう肛門の出っ張り

便秘の乳幼児で肛門の周囲に出っ張りができ、「痔でないか」と相談を受けることがあります。これはいわゆる痔(いぼ痔)ではなく増殖した皮膚によるもので、「見張りイボ」と呼ばれます(参照先)。
原因は、乳幼児の便秘が見過ごされるか適切な治療が行われなかったために硬便の状態が続き、肛門が繰り返し切れ、反応性に皮膚が増殖したことによるものです。したがって、適切な便秘の治療により柔らかい便の状態を維持することが対策の基本になります。これに、肛門に塗る軟膏(強力ポステリザン®)も、炎症を抑え便の通過をスムーズにする目的で併用されます。
見張りイボは外科的な切除の対象ではありません。便の状態を良好に保つことで、ゆっくりと縮小していきます。

2価HPVワクチン接種9年後でも16/18型HPV感染は完璧に予防される

思春期に受けた2価ワクチン後、9年を経過して25歳に至った時点で16/18型感染は完璧に予防されているという、新潟市の女性を対象にした研究報告です(参照先1)。さらにワクチン株に含まれない31/45/52型についても69%の感染予防効果(クロスプロテクション効果)が認められました。
さらに同じ研究グループからの他の報告では、ハイリスクHPV感染のピークは23〜26歳にあるとされており(参照先2)、感染リスクの高い年代においてHPVワクチンが高い効果を発揮することが示唆されます。

幼児期のおしゃぶり使用は反復性中耳炎のリスクになる

指しゃぶりを避ける目的で、1歳以上でおしゃぶりが使われていることがあります。この年齢層では、おしゃぶりの使用により反復性中耳炎のリスクが1.9倍になることが示されています(参照先)。この研究結果から、中耳炎を経験した乳幼児では、それ以降のおしゃぶりの使用は中止すべきであることが示唆されます。

カンガルー抱きは股関節脱臼の原因になる

生後1~3ヶ月の赤ちゃんの両下肢を伸ばした状態にし続けると、股関節の脱臼を誘発する原因になります。両下肢を伸ばした状態にするカンガルー抱き(横抱きスリングの使用)は、絶対に避けて下さい。
また、顔の向き癖のある場合も、向いた逆側の下肢が立て膝肢位になり股関節が脱臼しやすくなります。向き癖は積極的に直すようにして下さい(参照先)。

血液型はいつ頃調べるのがよい?

血液型の判定は以下の理由で新生児期には通常行われず、年長時に別の採血する機会に合わせて一緒に行うことが多いです。では、何歳頃に調べるのが適当なのでしょうか。

血液型(ABO型)の判定は、赤血球の膜表面にある抗原(A抗原およびB抗原)を調べるおもて試験と、血液の液体成分(血漿)に含まれる抗体(抗A抗体および抗B抗体)を調べるうら試験のペアで行われます。ところが、新生児期には血漿中の抗体の産生が不十分であるとともに、母体から移行した抗体の影響も加わるために、うら試験が不正確になります。また、新生児期には赤血球表面の抗原の強さも不十分で、おもて試験も不正確になります。おもて試験、うら試験とも正確に判定できるためには4歳以上が望ましいとされています(参照先)。

子どもの事故の事例集

子どもの事故の原因は様々です。こちらがびっくりするような予想外の原因もしばしばです。日本小児科学会のホームページに事故事例集のサイト(参照先)があります。事故原因の内容は多岐にわたり、予測が難しいことが理解できます。知っているだけでも予防する上で十分に役立ちます。ぜひ参考にして下さい。

WHOがHPVワクチン単回接種を原則として推奨

2022年4月11日、WHO予防接種諮問委員会(SAGE)は「HPVワクチン接種は原則1回を推奨する」と発表しました。その根拠として、単回接種と2ないし3回接種とでは有効性に差が認められないためとしています。この新方針は、ワクチン接種コストが大きな影響力をもつ低中所得国において普及を促進する可能性があります。さらに、国による長期接種中止政策により多くの未接種者を発生させてきた日本でも、子宮頸がん患者の増大を食い止めるため、「なるべく早く、なるべく多くの人に1回接種を」という方向性が今後検討されるべきです(参照先1参照先2)。

2種類の帯状疱疹ワクチン比較

帯状疱疹の発症予防および帯状疱疹後神経痛抑制に効果のあるワクチンは現在2種類あります。生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン)(参照先1)と、不活化帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)です。シングリックス®はより高い有効性が認められ(参照先2参照先3)、接種8年後でも発症予防効果の持続(84.1%)が確認されています(参照先4)。いずれも50歳以上が対象となります。生ワクチンは5,000円(文京区の助成有、税込)、シングリックス®は20,000円(文京区助成有、税込、2回接種あたり)がかかります。
ご希望の場合は当院まで電話でお申し込み下さい。

乾燥弱毒生水痘ワクチンシングリックス
発症予防効果55.4-65.5%96.6-97.9%
神経痛抑制効果65.7-66.8%71.2-100%
接種方法皮下注筋注
接種回数1回2回(2ヶ月後2回目)
費用5,000円20,000円(2回あたり)

乳幼児のオミクロン株感染はクループに注意

オミクロン株は従来株に比べて肺胞への親和性は低く重症化しにくい一方、上気道への親和性が高いことが知られています。元々気道の狭小な乳幼児では、クループによる急激な上気道閉塞の発生と重症化に注意すべきです。2022年4月15日付の米国からの報告です(参照先)。

子どもの日焼け対策

外来でよく話題になるテーマです。基本的には、ビタミンDの摂取が重要な乳幼児期早期は「物理的な紫外線対策が中心」になります。日焼け止めはしばしば接触性皮膚炎の原因となり、アトピー性皮膚炎のある場合はとくに注意が必要です。使うのであればノンケミカルの製品を選び、病変のある部位には塗布を避けてください(参照先)。

保育園児のかぜに対する家庭ケア教育の効果

保育所に通う乳幼児はしばしばかぜを引きます。これに対する保護者を対象とした家庭ケア教育の効果をみたポルトガルからの報告を紹介します。対象は保育所に通う3歳以下で、1ヶ月間の観察結果です(参照先)。

対照群(n=38)ケア教育群(n=34)p値
下気道感染症の合併29.4%10.7%0.116
急性中耳炎の合併32.4%7.1%0.026
医療機関の受診70.6%42.9%0.039
抗菌薬の使用44.1%7.1%0.001
保育所を休んだ総日数55日22日0.061
保護者休職の総日数31日20日0.511
鼻洗浄吸引の実施44.1%78.6%0.009

ここにある家庭ケア教育とは、小児の上気道感染症の理解、抗菌薬の適正な使い方、鼻洗浄吸引の仕方などを保護者に対して行うものです。これにより、家庭における鼻洗浄吸引の実施頻度は8割程度になり、急性中耳炎の合併、抗菌薬の使用は激減し、医療機関の受診、保育所を休んだ日数、下気道感染症の合併もほぼ半減することが示されています。
保護者の理解をサポートする外来での説明と、保護者が子どものかぜのケアに積極的に関わることの重要性を示唆しています。

HPVワクチン定期接種の個別勧奨対象者

文京区では2022年7月下旬から以下の年齢の女子に個別勧奨(各戸あての予診票とリーフレットの送付)が始まります(参照先)。

2022年度:
2006年4月2日〜2010年4月1日生まれ(中学1年から高校1年までの4学年)

2023年度:
2010年4月2日〜2011年4月1日生まれ(中学1年の1学年)

2024年度以降、同様に毎年中学1年になる時点で送付

なお、定期接種は小学6年から高校1年の女子であれば区からの通知が無くても接種を受けることができます。予診票は実施医療機関に配置してあります。リーフレットはこちら(概要版詳細版)です。

小児の心因性咳嗽

小児の長引く咳の原因として、ときに認められる疾患です。特異的な診断方法は無く、臨床症状や心理的要因などを参考に、他の疾患を除外して診断に至ります。以下のような特徴があります(参照先1)。

  • 年齢分布は4歳から18歳未満で、ピークは8歳にある
  • 女性が男性の1.4倍多い
  • 咳嗽持続期間は2ヶ月以上が63%(うち2年以上37%)
  • 咳嗽の性質は、乾性咳嗽63%、クループ様32%、咳払い21%
  • 睡眠中には咳嗽が認められない
  • 食事中や何かに熱中している時、人の居ない場面ではでないことがある
  • 先行する呼吸器疾患の罹患が、発症の契機(せきへの囚われ)になることがある

本人および保護者に「呼吸器に問題となるような病気があるために咳が生じているのではないこと」および「わざと咳をしているのではなく、心理的な状態が咳として現れていること」を十分に理解してもらうことが、症状改善のステップとして大切です。さらに心理療法カウンセリングを目的として、心身症専門医への紹介も行われます(参照先2)。

HHE: 予防接種後に出現する低緊張・低反応性症状

早期乳児の予防接種後に稀にみられる反応としてHHE(hypotonic-hyporesponsive episode)があります。以下の特徴があります(参照先)。

  • 生後6~8週後の初回予防接種後に見られることが多い
  • 突然の筋緊張低下、反応性低下、蒼白またはチアノーゼが、接種6~30分後に出現する
  • 特別な治療を加えなくても自然に回復する
  • 初期対応としてはショックに準じて呼吸、循環状態の評価と補助を行う
  • 原因は不明
  • 百日咳ワクチンを含んだワクチンに多い
  • 発生頻度は1歳未満の10万接種あたり2.2回
  • 鑑別診断はアナフィラキシー、てんかん発作など

小児の口囲皮膚炎の対策

小児の口囲にみられる皮膚炎は唾液や食品による接触性皮膚炎によるものが多く、通常は食事前後のアズノール®軟膏の塗布などで対処します。程度が強い場合にはマイルドクラスのステロイド外用薬(ロコイド®軟膏など)を短期間(最長2週間以内)使用します。

ステロイド外用薬を使用しても一時的寛解と増悪を繰り返す場合には、ステロイドの長期使用自体や他の物質の慢性的暴露(フッ素歯科製品、日焼け止めなど)が難治化の原因(毛包の細菌叢の変化や真菌感染など)となっていることがあります(参照先1)。この場合には、①ステロイド外用薬の使用を中止、ならびに②フッ素を含んだ歯科製品(歯磨きなど)の使用を中止します(参照先2)。その場合の治療は、タクロリムス軟膏(プロトピック®軟膏、2歳以上で適応)単独、あるいはマクロライド系経口抗菌薬(クラリス®など)の併用などが行われます。前者のプロトピック®軟膏単独使用で約70%の完全寛解が得られます(参照先1)。

最近のアトピー性皮膚炎の新薬の中で、小児の口囲皮膚炎に効果が期待できるものがあります。コレクチム®軟膏は、抗炎症作用はロコイド®軟膏と保湿剤の中間程度ですが、乳幼児の口囲皮膚炎にかなり有効性が期待されます。炎症の強い時期はステロイド外用薬を用いて寛解導入し、炎症が安定した寛解維持期からコレクチム®軟膏を使用する方法が考えられます。適切な使用方法を決めるため、今後の臨床経験の蓄積が必要です。

9価HPVワクチンの公的接種化決まる

2022年3月4日の厚労省専門部会(第18回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会)において、9価ワクチンを公的接種に加える方針が決定されました(参照先1)。世界的に9価ワクチンの争奪戦が起きており、定期接種化のためには国内で十分な供給量が安定して確保できるかがポイントですが、製造販売元のMSDは「2023年頃」と回答しています(参照先2)。現時点では、9価ワクチンの定期接種がいつから開始されるかは未定です(参照先3)。

新型コロナファイザーワクチン2回接種の小児における効果

5~11歳を対象にしたファイザー製小児用ワクチンの2回接種が始まっています。この小児用ワクチンの有効成分は12歳以上で使用される成人用ワクチンの1/3 です。これを含めた小児におけるファイザーワクチンの臨床的効果について、米国CDCから2022年3月4日付の報告(救急外来受診患者の後ろ向き研究)が出されました(参照先1)。

オミクロン株が流行の主体である場合、2回接種2週〜2ないし5ヶ月後におけるワクチン効果(VE%)は、非接種に比べて発症を34〜51%減少させるとされます。これらは、デルタ株における効果(85〜92%減少)に比べてかなり低い値です。

さらにCDCから2022年3月11日付の別の報告(接種・非接種群の前向きコホート研究)では次の結果でした(参照先2)。ここでも、2回接種3〜5ヶ月後までのオミクロン株への感染予防効果はほぼ同様の31~59%減少になっていました。

予防接種のキャッチアップスケジュール

何らかの理由で予防接種時期が遅れた場合、接種完了の最終年齢及び接種間隔については、日本小児科学会のキャッチアップスケジュールの一覧を参照してください(参照先)。

新型コロナウイルス感染をのりこえるための説明書(オミクロン株編)

長野県にある諏訪中央病院総合診療科の玉井道裕先生が2022年1月18日に発表された解説です(参照先)。オミクロン株についての最新のエビデンスがイラストで分かり易く紹介されています。15頁には、この時期に「いつものかぜ」にかかったら、コロナ(オミクロン)と考えよ、とあります。

ステロイド剤外用で湿疹が治らない場合

アトピー性皮膚炎をはじめとする湿疹の正常化には最大2週間のステロイド剤外用で十分、とされています。しかしステロイド外用で湿疹が治らない場合、以下のような原因が考えられます(参照先)。

① 診断が間違っている。
② 原因が除去されていない。
③ 塗り方が間違っている。

小児の場合、①については湿疹と区別が付きにくく頻度の高い疾患として皮膚真菌症があります。この診断のためには、1)病巣の角質を削って顕微鏡で観察し、真菌の菌体を確認する、2)適切な強さのステロイドを適切な塗り方で最大2週間使用し、治癒しない場合に皮膚真菌症を疑い抗真菌薬を使用する(診断的治療)、という2つのアプローチがあります。1)の検査で正確な結果が得られるには熟練を必要とし、主に皮膚科で行われる方法です。2)はより一般的な方法で、医師の監督下で期間を限定して試みるのであれば安全で有用な方法です。

②の場合に多いのは接触性皮膚炎です。ステロイド外用で一旦良くなっても、原因物質が除去されていなければ、繰り返し炎症が再発します。衣類の素材や使用する洗剤、体液(唾液やし尿)、薬(手指消毒薬や日焼け止め等)など、原因になりそうな物質を思い起こすことが重要です。

塗り方では、1)正しい量、2)正しい期間、3)正しい強さの薬、がポイントです。1)では外用薬0.5gを大人の手のひら2枚分の広さに塗るのが適切です(専用計量スプーンを当院外来または薬局から入手可)。2)の期間は、「皮膚がきれい・つるつる・柔らかくなってからプラス5日塗り続けて一旦止める」です。3)は原則として体幹部、四肢はリンデロン相当(3群ステロイド)、顔面はロコイド相当(4群ステロイド)を使用します。

参照先:
松田光弘:誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた. pp63-66, 医学書院, 2022

HPVワクチン接種中止により子宮頸部細胞診異常率が上昇

2013年のHPVワクチン勧奨中止政策開始により接種率の急減した世代で、中止7年後の2020年(20歳時)の子宮頸がん検診における細胞診異常率が上昇している事実が報告されました(参照先)。

  • 国内24自治体(人口の1割に相当)の2009年〜2020年におこなわれた子宮頸がん検診データを解析
  • 16歳までのHPVワクチン接種率、および20歳時点の細胞診異常率を各年毎に集計
  • HPVワクチン接種が62.1%に行われていた1999年生まれでは細胞診異常率が3.94%であったのに対し、接種率が10.2%に減少した2000年生まれでは異常率5.04%に増加した
  • 2020年における細胞診異常率は、ワクチン接種が開始される2013年までに認められていた細胞診異常率の年次増加傾向の延長線上に一致した

HPVワクチン接種中止により、すでに子宮頸がん発症増加の直接的な影響が出始めていることを示唆する内容であり、予防対策(HPVワクチン接種と検診実施)を強力に行う必要があります。

オミクロン株の最新情報

国立感染研による最新情報です(参照先)。

  • デルタ株に比べて感染しやすさは2.0~2.9倍
  • デルタ株に比べて重症化しにくい可能性が示唆される(確定的でない)
  • オミクロン株感染例と同一空間を共有した場合、マスク着用の有無や接触時間に関わらず検査を行うことが望ましい

身体症状症について:HPVワクチン“副反応”の本態

2013年以降HPVワクチンの“副反応”と報道されてきた症状について、じつはワクチン接種とは関係なく、接種しなかった人にも同じ症状が同じ頻度で起こることが2015年に名古屋市で実施された7万人規模の調査で確認されています(参照先1)。この疾患像について解説します(参照先2, 参照先3)。

  1. 身体症状症(診察や検査をしても原因不明の身体症状[機能性身体症状]があり、患者がその症状について過剰な感情、念慮、苦痛をいだき、とらわれる点に特徴がある)が、問題となった症状の本態と考えられている。
  2. 機能性身体症状それ自体は、思春期女性ではしばしば(10%以上)経験される。思春期でも、年齢の上のほうが出やすい。
  3. 身体症状症は、もともと本人に不安傾向があるところに、生活上で体験する怪我やいじめなどの急性のストレスが加わることが誘因になる。保護者に背景因子(不安になりやすい、子どものストレスを受け止められない、うつなどの精神疾患、家庭内の不和、など)があると、悪い方向にはたらく。
  4. 保護者に特定の傾向(心理的治療を拒否する、原因究明にこだわり病院を転々とする、自らの作り上げたストーリーに固執する、病状に対する心理的社会的な洞察が欠如している、など)があると、難治化しやすい。
  5. 医師の対応(患者の訴えに対して頭ごなしの否定、身体的原因究明に偏った診療とたらい回し、など)や、メディアの情報(“ぜんぶワクチンのせい”にする記事や映像)も、発症の引き金や難治化の要因になる。
  6. 行動療法などの心身医学的な介入が多くの場合に有効である(参照先4)。

以上より、HPVワクチン接種を受けるにあたっては、本人と保護者が不安や恐怖心を抱かないように「ワクチンの意義や内容をよく理解して、前向きな気持で安心して接種にのぞむ」ことが重要です。
さらに、当院では接種が不快な体験とならないよう、以下の対策をとります。

  1. 接種年齢はなるべく低くする(11〜12歳頃)。
  2. 疼痛を起こしにくい製剤を選ぶ(4価は2価よりも疼痛が少ない)。
  3. 疼痛の生じやすい皮下注を避ける。上腕三角筋の中央部で十分な深さ(およそ20mm程度)で筋注すれば、ほとんど疼痛は生じない。
  4. 身体症状症が疑われる場合には、本症を総合的に診療する専門医療機関へすみやかに紹介する。
  5. HPVワクチンに対して根拠のない不安を煽る言説に対しては、ひとつひとつ根拠を示しながら否定し続けて、接種対象者と保護者の正しい理解と不安解消をはかる。

HPVワクチンキャッチアップ接種最終方針

2021年12月23日の厚労省の予防接種・ワクチン分科会で、厚労省によるHPVワクチン積極的勧奨中止政策(2013年6月〜2022年3月)の対象となった方々への無料接種の対象として、以下の方針が決定されました(参照先)。

接種対象:1997年度〜2005年度(1997年4月2日〜2006年4月1日)生まれの9学年女子
(さらに、2006年度〜2007年度生まれ女子も2024年までに順次無料接種対象に含める)
接種期間:2022年4月〜2025年3月の3年間

子どもの鼻副鼻腔炎が遷延化する理由

子どもの鼻副鼻腔炎はしばしば遷延化、慢性化します。この成因について紹介します(参照先)。

  1. 鼻副鼻腔に慢性炎症を引き起こす外的因子として、ウイルス、細菌感染によるものと吸入性抗原によるⅠ型アレルギーがある
  2. 内的因子としては局所や全身の免疫反応、栄養状態、生活環境が影響する
  3. 炎症性粘膜病変は、粘液や滲出液の分泌亢進をともない、この分泌液、種々の炎症性物質、浸潤細胞、剥脱上皮などからなる病的気道液ができる
  4. 病的気道液は、粘液線毛輸送機能や鼻をかむことで機械的に排除されるが、この排泄機構に障害が起きると病的気道液の貯留が起き、鼻副鼻腔粘膜の正常化が障害され、炎症が遷延化する

これらの成因に関連して、小児では次の事項があげられます。

  • 集団保育は、ウイルスや細菌の反復性曝露環境である
  • 2歳未満では免疫能が低く、反復感染を起こしやすい
  • アレルギー性鼻炎は最近では低年齢化が顕著である
  • アレルギー性鼻炎による粘膜腫脹により病的気道液が排除されにくくなる
  • 乳幼児は鼻をかむことができないため、病的気道液が溜まりやすい
  • 吸引器や生理食塩水スプレー(粘膜線毛運動の回復効果がある)の使用は、病的気道液の排除に効果が期待される

定期HPVワクチン個別勧奨再開は2022年4月から

現在もHPVワクチンは定期接種であり無料で受けられますが、8年以上に及ぶ厚労省の積極的勧奨中止政策により個別勧奨が停止されていたため、ほとんど接種されない事態が続いていました。2021年11月26日付け厚労省健康局長名通知によりこれまでの勧奨中止政策は撤回され、個別勧奨再開の方針が各自治体に示されました(参照先1)。

この通知の中で、2022年以降の個別勧奨の対象として、定期接種年齢に入る13歳と、定期接種年齢から外れる16歳の定期接種期間の入り口と出口の2学年のみが例として提示されています。しかし、これまで個別勧奨の書類(予診票と説明書)を送付されてこなかった14〜15歳も含めた定期接種全学年を対象とすべきです。日本で積極的勧奨が中止された2013年度に13歳だった女性(すなわち2000年度生まれの女性)では子宮頸がん罹患のリスクがすでに増大してきている具体的事実が報告されおり(参照先2)、公衆衛生上の緊急事態に相当します。具体的な個別勧奨の方式は最終的には各自治体が決定しますが、本来受けられる筈だった接種対象者がもれなく受けられるようにするべきです。

その高い有効性、安全性により世界中で普及するHPVワクチンが、今後わが国でも広く実施されることを強く願います。

HPVワクチン積極的勧奨再開に反対する反ワクチン団体の見解

厚労省によるHPVワクチン積極的勧奨の再開方針決定後、薬害オンブズパーソン会議が反対声明を発表しました(参照先1)。これまでHPVワクチン反対をずっと続けていたある野党政党も賛成に転じる(参照先2)など、社会的にHPVワクチン支持の流れが広がる中、今後も反対を続ける彼らの見解を検討しました。

“8年の間に臨床医らによっておこなわれた多くの研究が免疫介在性の神経障害を示す“

ここで言う“臨床医らによる多くの研究”とは、いずれも症例報告か、それらのレビューに過ぎません。 免疫介在性の神経障害を立証した科学論文は皆無で、エビデンスはありません。

“救済制度における障害認定を受ける頻度が他のワクチンに比べて桁違いに高い”

日本のワクチン救済制度では、(明らかに因果関係がない場合を除いて)接種後の有害事象は因果関係の有無に関わらず原則として救済の対象とされます。接種後の有害事象はワクチンが原因となる副反応を必ずしも意味せず、対象年齢、性差の大きく異なる他のワクチンとの頻度比較は無意味です。むしろ、救済制度が本来の趣旨に近く機能していることを示唆します。

“免疫学的に脆弱な人々の集団内での割合は極めて小さく、疫学調査では有意差が出にくい”

HPVワクチン接種後の症状について「免疫介在性の神経障害であり、これに稀な遺伝的多型が関与する」というエビデンスはありません。そのために通常の疫学的調査では有意差が出にくいというのも憶測に過ぎません。

“国が勧奨再開にあたり安全性確保のための体制整備を強調するのは、HPVワクチンの安全性に問題があることを認めていることを意味する”

接種対象年齢の思春期女子は機能性身体症状のハイリスク群であり、種々のストレスを契機として身体症状症発症に至ることがあることは、思春期医学ではよく知られた事実です。思春期女子を対象にする場合、慎重なワクチン接種を行う制度整備の必要性は当然です。

“子宮頸がんは感染から発症までの期間が長く、接種・非接種に影響する種々のバイアスがあるため、厳格な無作為臨床研究によらない比較対照研究(スウェーデン研究、イギリス研究)ではHPVワクチンによる有効性を結論できない”

欧米のトップジャーナル(スウェーデン研究のニューイングランドジャーナルオブメディシン、イギリス研究のランセット)は、対象疾患の特性に制約された研究方法の選択を承認し、指摘にあるような種々のバイアスに対して、年齢や社会的背景による調整が加えられた統計学的検討を行った結果で明らかにされたHPVワクチンの有効性を結論した論文の掲載を認めました。

“30歳時点での子宮頸がん発症を評価のエンドポイントとする両研究では、ワクチンによる発症予防効果が認められたからといって、生涯罹患率の減少を意味しない”

生涯罹患率も一つのエンドポイントに過ぎません。両研究の子宮頸がん発症予防のほかにも、感染予防、前がん病変(CIN3)予防についてHPVワクチン接種の高い効果が多数の研究でこれまで繰り返し確認されています。主張する生涯罹患率への効果を評価できるのは、少なくとも50年以上先になります。

“子宮頸がんの予防は、副反応がなく、科学的にも予防効果が実証された検診を重視するべき”

日本の子宮頸がん検診は、種々の啓発運動にもかかわらず受診率は40%程度です。前がん病変およびそれ以上の疑いがある場合には子宮頸部円錐切除術が行われ、断端陽性の場合には子宮摘出術になります。近年、日本では子宮頸部の早期がん(上皮内がん)が若い世代で急増しており、検診のみでは多くの早期がんが見落とされて対応が不十分になります。円錐切除術後にも月経困難症や早産・流産が起こりやすくなるリスクがあり、“副反応がない”ことはありません。HPVワクチン接種は、早期がんになる前に予防する1次予防であり、検診と相補的に活用されるべきです。

全体を見ると、HPVワクチンの副反応については、“頻度が他のワクチンよりも桁違いに高い”と言う一方、“統計的有意差が出ない程度の稀な免疫学的脆弱性”をあげ、言っていることが支離滅裂です。また、有効性を支持するエビデンスを貶めようと躍起ですが、示された有効性自体を否定することに失敗しています。8年間に揃ったエビデンスに照らせば、彼らの主張の大半は似非科学であり虚偽であることが明らかです。

HPVワクチンの積極的勧奨再開を厚労省が決定

2021年11月12日、厚労省の「副反応検討部会」・「食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」の合同開催会議で、HPVワクチンの積極的勧奨の再開が決定しました(参照先1参照先2)。今後、積極的勧奨中止(2013年6月)により定期接種を受ける機会を逸した人に対して、無料接種の再機会(キャッチアップ接種)を可能にする救済措置が、「予防接種・ワクチン分科会」で検討されます。

厚労省のHPVワクチン政策の誤りが、8年間を費やしてようやく公的に是正されることを、まず歓迎したいと思います。ただし、キャッチアップ接種の対象となる2022年中に17〜25歳となる未接種女性では、HPV感染によるがん発生の過程が進行中です。これからワクチン接種を受けても、16歳以下の接種に比べて発症するリスクが高くなります。そのため検診を確実に受けてもらうなどの対策が必要です。

HPVワクチン1回接種の感染予防効果は3回接種に劣らない

日本では、HPVワクチンの積極的勧奨の再開、およびキャッチアップ無料接種の開始が近い将来に予定されています。しかし、定期接種対象者に加えて8年分の未接種者に接種を行えば、一挙にワクチン不足に陥るかもしれません。このことで標準よりも少ない接種回数となった場合、ワクチン効果への影響が懸念されます。
これに関連して、4価HPVワクチンの異なる接種回数による感染予防効果を比較した成績がインドから報告されたので紹介します(参照先)。

  • 3回接種4348名、2回接種(6ヶ月間隔)4980名、2回接種(2ヶ月間隔)3452名、1回接種4949名を平均9年間経過観察*
     *年1回採取の子宮頸部標本について21種HPV遺伝子型の解析
  • HPV16/18型の持続感染を予防する効果(括弧内95%信頼区間)
     1回接種 95.4%(85.0-99.9)
     2回接種 93.1%(77.3-99.8)
     3回接種 93.3%(77.5-99.7)

以上より、1回接種であってもそれ以上の接種回数に劣らない感染予防効果が認められることが示されました。ワクチン不足に対しては、まず1回の接種をより多くの対象者に行うという方針の選択もありうると考えます。

若いときのHPVワクチン接種による高い子宮頸がん予防効果

英国から報告された接種年齢別の2価ワクチンの予防効果です(参照先1)。

接種年齢
12〜13歳14〜16歳16〜18歳
子宮頸がん87%62%34%
高度異形成・上皮内がん97%75%39%

2020年のスウェーデンからの報告(参照先2)に続いて、HPVワクチンの高い予防効果が示されました。いずれも若いときの接種が極めて効果的であることを示しています。

子どもの気管支喘息は大人になると治るのか?

気管支喘息のお子さんの保護者の方から、「成長したら治るのでしょうか?」という質問をいただきます。小児喘息の長期予後(30〜42年後)について検討した結果を紹介します(参照先)。

  • 成人期に寛解状態(無症状かつ吸入ステロイド剤使用無し)にあるのは、全体の約50%。このうち完全に治ったのは20%に過ぎず、残り30%では検査上の異常(肺機能異常、気道過敏性、またはその両方)を伴っていた。
  • 全体の約30%(うち13%は吸入ステロイド剤使用)で、成人期にも症状が認められた。
  • 残りの約20%では、無症状だが吸入ステロイド剤を使用していた。
  • 小児期の重症度は、成人期に持ち越された。

以上より、小児気管支喘息は成人期までに治るのは高々半分であり意外と少なく、乳幼児期から積極的治療や環境整備により良好な状態に保つことが、成人期に持ち越さないために重要であることが示唆されます。

タクロリムス(プロトピック®)軟膏と紫外線

タクロリムス軟膏を塗った部位に長時間の日光照射は避けるよう添付文書上には注意記載があり、薬局で指導されることがあります。その背景について解説します。

タクロリムス軟膏では紫外線と反応して薬剤性光線過敏症が生じることはありません(参照先1)。むしろ注意記載の背景となったと考えられるのは、紫外線が表皮に強くあたるとDNAに損傷が起き、皮膚がんの発生につながる紫外線発がんの問題があります。タクロリムス軟膏は免疫抑制剤であるため、この紫外線発がんに促進的に働く可能性を発売前には懸念されていました。

しかし、広く使用されるようになった後の大規模研究およびメタ解析では、タクロリムス軟膏およびこれと同等薬剤のピメクロリムス(エリデル)クリームの使用に伴う皮膚がんの増加リスクは認められなかった、と結論されています(参照先2参照先3参照先4)。したがって、紫外線の当たる顔面および頸部についても、タクロリムス軟膏は安心して使用することができる強いエビデンスがあります。

肺炎のない小児急性気管支炎に対する抗菌薬の使用は無効である

小児の急性気管支炎に対する経口抗菌薬の使用は、厚労省の抗菌薬適正使用ガイドライン上は原則として不要であるとされています(参照先1)。しかし、現実には小児気管支炎に経口抗菌薬はしばしば使用されており、一方でその有効性に関するエビデンスはほとんどありませんでした。肺炎を合併しない小児下気道感染症(気管支炎)に対して抗菌薬(AMPC:アモキシシリン)の投与が症状持続期間を短縮するか、を検討した英国のランダム化比較試験が報告されたので紹介します(参照先2)。

  • 対象は生後6ヶ月〜12歳の発症21日未満の肺炎のない急性下気道感染症
  • 抗菌薬群(AMPC 50mg/kg/日x7日間、n=221)またはプラセボ群(n=211)に無作為に割り付け
  • 臨床症状の各項目(咳、痰、息切れ、喘鳴、鼻閉または鼻汁、睡眠障害、全般的体調不良、発熱、通常の活動ができない)について保護者が0〜6の7段階スコアで評価
  • さらに、臨床的により重症を示唆する所見をもつ5つのサブグループ(胸部異常徴候、発熱、体調不良、喀痰または喘鳴、息切れ)についても同様に比較した
  • 対象全体で、「3=やや重い」以上の症状が持続した期間は抗菌薬群中央値5日(四分位範囲4〜11日)、プラセボ群6日(4〜15日)、ハザード比1.13(95%信頼区間0.90-1.42)で差は無かった
  • 5つのサブグループのいずれでも「やや重い」以上の症状持続期間に差が無かった

以上より、合併症のない小児下気道感染症に対する抗菌薬の投与は臨床的な有効性を認めなかった、と結論しています。したがって、小児気管支炎に抗菌薬を使用する際には、その理由(肺炎など合併症の存在)を明瞭にする必要があると考えます。

小児で使えるアトピー性皮膚炎の飲み薬

国内で12歳以上に適応のあるアトピー性皮膚炎の飲み薬が出てきました。

  • ウパダシチニブ(リンヴォック):アッヴィ合同会社
  • アブロシチニブ(サイバインコ):ファイザー

これらはヤヌスキナーゼ(JAK)1を特に強く抑える作用があります。JAK1阻害薬は、細胞表面にあるサイトカイン(IL-4, IL-13, IL-31など)受容体から細胞内シグナル伝達に必要なリン酸化の過程を抑え、炎症の発生、皮膚バリア機能(フィラグリン発現)の低下、かゆみの誘発を抑制します。

ステロイド外用薬など従来の治療法でコントロールが困難な中等症から重症のアトピー性皮膚炎が適応とされます。1日1回の服用で、従来治療との併用が可能です。主な副作用は悪心、にきび、などです。アブロシチニブの第3相臨床試験では、プラセボおよび抗体注射薬デュピリマブ(デュピクセント)との比較が行われ、アブロシチニブ通常量でデュピリマブと同等、倍量ではデュピリマブよりも高い臨床的効果が認められています(参照先)。

乳児排便困難症

主に生後6ヶ月(最長9ヶ月)未満で、どろどろの便なのに息んだり泣いたりしながら、なかなか(10〜20分間くらい)排便できないことがあります。これを乳児排便困難症(infant dyschezia)とよび、頻度は生後6ヶ月未満で2〜3%とされています(参照先)。これは腹圧のかけ方と骨盤底の筋肉を弛緩させる協調が未熟のために起こり、病的なものではありません。成長とともに解消されます。肛門刺激や下剤の使用は不要です。かえって肛門刺激を繰り返すと児が刺激を待つようになり、逆効果とされています。

HPVワクチン空白の8年間に起きたこと

HPVワクチン接種の積極的勧奨中止8年の間に起きた変化にかんして、長崎大学小児科森内浩幸先生の指摘を紹介します(参照先)。

  1. 「予防接種に関連したストレスが様々な症状を引き起こすこと」の認識が進んだ
    典型的には、接種時の緊張やストレスなどで、血圧低下や脈拍の減少が起きる血管迷走神経反射があります。現在は、予防接種に関連したストレスが関与した反応を一括して予防接種ストレス関連反応Immunization Stress Related Responses (ISRR)と呼んでいます。次に述べる機能性身体症状もISRRの一つとして認められることがあります。
  2. 「思春期の女子では機能性身体症状がしばしば認められること」の認識が進んだ
    機能性身体症状とは、身体的な観点からの診察や検査を行っても明らかな異常や病変が認められない身体症状、を指します(固定化、高度化した場合を身体症状症と呼びます)。名古屋スタディでは、HPVワクチン接種の有無に関わらず同じ頻度で機能性身体症状が認められることが示されました。現在では、HPVワクチン接種後に認められる症状の多くが機能性身体症状と考えられています。
  3. 子宮頸がん発症前予備軍が積み上がってきている
    ウイルスに感染してから発症するまで10年近くかかる子宮頸がんの性質からみて、発症前予備軍がこの間に積み上がってきています。この結果として、今後は臨床的に発症する患者の増加につながると考えられます。発症前に具体的に打てる対策の実施が必要です。

HPVワクチン信頼回復のための6つの提言

HPVワクチンの積極的勧奨再開の具体的な日程がようやく見えてきました。
しかし、これまで8年以上もの間、厚生労働省はワクチンの信頼喪失と接種中止状態を放置し、日本の若い女性たちに子宮頸がん罹患のコストを負わせ続けてきました。
この極めて異例な事態にかんして、ハーバード公衆衛生大学院のHPVワクチン研究グループは、日本でHPVワクチンの接種率が70%から1%未満まで急激に低下し、その後もずっと続いた原因を分析し、HPVワクチン信頼回復のための6つの提言を論文にまとめて発表したので紹介します(参照先)。

  1. 厚労省は、専門部会の委員として、HPVワクチンの臨床的重要性と予防的役割を認識した専門家(子宮頸がんに精通した産婦人科医、積極的勧奨中止により5,000〜5,700名の追加死亡をもたらすとした研究者等)を加える。
  2. 地方自治体は、地元の医療専門家の支援を受けてHPVワクチンの積極的推奨を行う。
  3. 学会は関連学会と協力して、政府に対してHPVワクチン政策決定に関わる要望を提出する。学会と医療従事者は、接種対象者と保護者に対してHPVワクチンの安全性と有効性について教育する。
  4. 政治家は、HPVワクチンに関する幅広い市民の意見と専門家の見解を集約して、政府に対し積極的に政策立案をおこなう。
  5. 市民社会(患者グループや個人)は、子宮頸がんに関する認識を高めること、HPVワクチンの意義と安全性を社会に広めることに貢献できる。たとえば、子宮頸がん経験者やHPVワクチン接種体験者の経験を共有することは有用である。
  6. マスメディアは、科学的根拠のあるバランスのとれた報道を行い、市民が科学的研究内容を理解できるように助ける。このことで、HPVワクチンに関する社会的信頼度が向上する。

反ワクチンという疑似科学に科学的に向き合う

反ワクチンとは、「ワクチン接種は人にとって有害である」という前提のもと、社会や個人に対してワクチンの危険性を訴える主張です。世界的に運動が展開され、単なる個人の信条の問題に留まらず、一見科学的知見に基づくかのような主張を展開します。その内容は、おおむね以下に集約されます。

A) ワクチン接種するよりも、感染症に自然罹患したほうがよい
B) ワクチン接種により深刻な副反応が引き起こされる
C) ワクチンの効果を実感できない
D) 医師や製薬会社の陰謀によって、本来必要のないワクチンを打たされる

これらは、対象となる感染症の過小評価、信頼できるデータの欠如、データ解釈の錯誤(あるいは意図的な誤用)、反証不能な「万能理論」の提示*、検証できない「陰謀論」の主張、などの共通した欠陥を抱えていて、典型的な疑似科学です。

反ワクチンについての詳しい解説(参照先1)、および科学と疑似科学を見分けるトレーニングのためのオンライン教材(参照先2)をあげておきます。この中では反HPVワクチンについても具体的に取り上げられています。

*HPVワクチン薬害説として提唱されるHANS仮説や、”特定の稀なHLA型(想像上)が自己免疫性発症に関与するので、症状の有意性は通常の統計学的検討では分からない”(薬害オンブズパーソン会議別府宏圀氏の主張)などは、いずれも理論全体が当人の空想の上に構築された妄想でしかないため、他からは反証不能な「万能理論」の例です。。

子育て世代を直撃する子宮頸がん

国立がん研究センターがん対策情報センターの提供するグラフデータベースというウェブサービスがあります(参照先1)。これを利用すると、国内の悪性腫瘍の様々なデータを、こちらで条件を設定してグラフとして可視化できます。

1995年以降の20年間における子宮頸がんの年代別罹患数を表示してみました。設定条件は、「罹患全国」「年齢内訳 積上げ棒グラフ」「数」「子宮頸部(上皮内がん含む)」「年 1995年〜2015年」「年齢 20-24歳から85歳以上まで」としました。

出てきたグラフ(参照先2)を見ると、2006年頃を境にモスグリーンで示される45〜49歳以下の世代が急増しているのがよく分かります。2015年時点では、全体に占める割合は、20〜49歳が73%、20〜39歳で44%でした。子宮頸がんは、子育て世代の女性を直撃することが一目瞭然です。

さらに、設定条件を「子宮頸部(上皮内がん含む)」から「子宮頸部」(=浸潤がん)に変更して、浸潤がんのグラフを出してみました(参照先3)。両方のグラフを比較すると、最近はとくに「49歳以下」で「上皮内がんを含む」場合が急増しています。両者を1995年と2013年で比較します(単位 名)。

上皮内がん含む浸潤がん
49歳以下50歳以上49歳以下50歳以上
2013年25,0008,0005,0006,000
1995年7,5005,5003,5004,500
17,5002,5001,5001,500
3.31.51.41.3

近年は、全年齢で浸潤がんも1.3倍増えているが、とくに49歳以下で「上皮内がんを含む」と「浸潤がん」の差、すなわち上皮内がんが約5倍増えています。

日本の子宮頸がん検診実施率は徐々に増えながらも最近まで40%前後の低い水準でずっと推移しており、これ以上大幅に増やすことは困難です。上皮内がんが近年のように急速に増加しても検診のみを予防対策としておくと、検診では拾いきれない分が市中で積み重なっていくことになります。これは検診が浸潤がんに進む直前の病変をみつけて、それ以上の進展を阻止する2次予防を目的とすることによる限界です。ここに、ワクチンにより子宮頸がんの原因であるHPV感染自体を抑える1次予防を組み合わせる意義があります。

HPVワクチンによる神経障害説の否定

HPVワクチン後に認められる多様な神経症状の説明として、自己免疫機序を介した神経障害説(HANS)が一部の医学者により2014年以来提唱されています。しかし、現在までこの説を実証した科学的論文報告は皆無です。

近畿大学微生物学角田郁生先生による2020年9月第39回日本思春期学会で行われた講演では、以下の根拠によりHPVワクチンによる神経障害は否定的であるとされています。この講演は、スライドおよびテキスト(参照先)あるいは動画(以下QRコード)で見ることができます。

  • HPVワクチンは生ワクチンではなく、ウイルス感染による障害は起こらない
  • HPVワクチンを構成するL1蛋白は宿主細胞と分子相同性はなく、交差免疫による組織障害は起こらない
  • HPVワクチンによる高度の神経炎症は起きないため、バイスタンダー殺傷およびエピトープ拡散は起こらない
  • 2価と4価ワクチンでは含まれるアジュバンドが異なるため、HPVワクチンとしての共通した副作用は起こらない
  • HPVワクチンによる神経障害の動物実験は再現性がない

もう一つの「名古屋スタディ」

2018年に発表されたいわゆる「名古屋スタディ」鈴木貞夫論文では、思春期の女性における全身の疼痛を主とする症状の出現頻度はHPVワクチン接種の有無は関係しないと結論されています(参照先1)。

とても異例のことですが、この研究と同じデータセットを用いて、全く逆の結論を導き出したもう一つの論文が2019年に出されています(参照先2)。著者は八重ゆかり、椿広計で、反HPVワクチン活動を行っている薬害オンブズパーソン会議のメンバーです。鈴木論文の発表後に執筆されたもので、内容はその内容を否定するものになっています。当然、著者には利益相反(COI)が存在しますが、八重論文中ではこのCOIは表明されていません。

八重論文には結論に直結する重要な部分で不適切なデータの扱い(不正)が行われており、その点について鈴木先生が雑誌(JJNS, 日本看護科学学会の英文誌)編集部に送ったレターで詳細に述べられています(原文参照先3日本語版参照先4)。同誌には、同時に八重氏の反論も載せられていますが、指摘されたデータ解析方法の問題点については何ら具体的な反論や説明がなされていません(参照先5)。奇妙なことに、八重氏は雑誌編集部と投稿前にやりとりしたことも文中で述べており、八重氏、編集部とも公正さを欠いています。通常の学術上の論争であれば徹底して議論が行われ、問題が解消されない論文については撤回され再検討が行われますが、この場合には編集部の判断で議論は打ち切りになり、その後も放置されています。一方に便宜をはかる編集姿勢は科学的中立性を欠いた対応であり、学会誌を名乗るには不適格と考えます。

この八重論文は現在行われている「HPVワクチン薬害訴訟」で、原告側弁護団から証拠として提出されています。学術論文を、あらかじめ何らかの結論を持っていてそれに沿わせたり、政治的意図を持って発表する人がいることは事実です。学術論文は発表されたものがすべて真実ということではありません。その後でも、しっかり議論をおこない、内容の正否を明らかにすることはとても重要です。

正確なHPVワクチン情報を提供するママサイトの記事

前回、あるママサイトで不正確な情報を提供している問題を取り上げました。しかし、全部がそうというわけではありません。
慶応大学名誉教授吉村泰典先生が監修されたミキハウス「出産準備サイト」の記事では、子宮頸がんとHPVワクチンのエビデンスが分かり易く紹介されています(参照先1参照先2)。

ママサイトにおけるHPVワクチン記事の内容検討

来年度にもHPVワクチン積極的勧奨の再開が予想されています。再開後、ワクチン接種が順調に受け入れられるためには、正しい情報の共有が重要です。そこで、最近のママサイト(参照先)で、非専門家のライターが書いた記事の内容を検討しました。

“現在高校1年生の女子が公費で受けられるリミットは9月末”

通常であれば9月末までに1回目を開始し、6か月後の3月末までに3回を完了する必要があります。ただし、現在は新型コロナ感染症流行中の特例措置として、「感染を懸念して接種のための受診を控えた」という理由があれば高校1年生を超えても公費の対象となります。

“ワクチンによって発がん性のあるHPV感染の原因を50〜70%防ぐ”

これは2価/4価ワクチンが発がん性HPVの約60%をカバーすることを指しています。最近の研究では、4価ワクチンを17歳未満で接種すると88%の発症予防効果があります。さらに、9価ワクチンは発がん性HPVの90%をカバーし、より高い効果が期待されます。

“厚生労働省は「副反応の頻度が明らかになった」として、2013年「国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではない」と国民に通知”

厚労省が積極的勧奨の中止を自治体に通知したのは、「副反応の頻度が明らかになった」からではありません。国の研究班が有害事象の頻度をまとめたのは、中止して3年半後の2016年12月末です。中止したのは2013年6月ですが、その直前に起きたメディアのHPV副反応キャンペーンに強く影響されたためで、この時点では有害事象の実態は明らかではありませんでした。

“ワクチンによる副反応。接種を受けた部分の痛みや腫れなどの症状だけでなく、1万人あたり5人の割合で重篤(じゅうとく)な症状の報告もある”

厚労省によれば、全身の疼痛を主とする症状を含めた入院を要する重篤と判断された頻度は1万人あたり5人とされています。しかし、名古屋市における7万人規模の調査により、これらの症状はワクチン接種を受けなかった同世代の女子にも同じ頻度で認められ、ワクチン接種の有無には関係がなかったことが結論されています。

“偏った考えに固執する前に、多様な考えがあることを理解しておくことも大切でしょう。まずは幅広い情報を集めること。そして自分とは違う考えにもしっかり耳を傾けた上で、最終的な結論を出してみては”

その通りですが、不正確な情報を提供して、よく考えて判断せよと言っても正しい結論には至りません。メディアであれ、ネットであれ、表現する人は正確な情報提供に努めるべきです。

HPVワクチンの積極的勧奨再開をめぐる最近の動向 続報

2021年10月から厚労省副反応検討部会でHPVワクチン積極的勧奨の再開について審議が始まることになりました。これは、いったん審議先送りを表明し批判を受けた田村厚労大臣が、10月中の早い時期に審議を開始することを9月17日に表明しました(参照先)。副反応検討部会で専門家により了承され、積極的勧奨の再開が自治体に通知されることになりますが、再開自体がいつからになるかは不明です。
積極的勧奨の再開後は、現在90%ほどの自治体HP上に見られる「積極的にはお勧めしていません」の文言は消えることになります。ワクチンへの恐怖心を誘発するこの表現が保護者や本人に接種をためらわせる原因になっているため、まずは重要な一歩と考えます。

若い女性のがんの断トツ1位は子宮頸がん

子宮頸がんは他のがんと異なり、発症のピークは30歳台後半から40歳代前半であり、「マザーキラー」の別名で呼ばれます。20〜39歳の女性がんでは、子宮頸がんは2位の乳がんのおよそ倍です。この傾向は2000年以降とくに顕著になっています(参照先)。子宮頸がんのほとんどの原因であるHPVの感染率は20〜30歳代の男女とも30%と高頻度です。思春期にワクチン接種を済ませておくことで、HPV感染とそれに続く子宮頸がんの発症を90%程度予防します。

小児における新型コロナ抗原定性検査の診断特性

新型コロナウイルスの抗原定性検査は、すぐに結果が得られるため広く行われています。しかし、その検査精度はどんな特徴があるのでしょう。

抗原定性検査と感染判定の標準とされているPCR検査を比較した成績を紹介します(参照先1)。

対象:2020年11月25日〜12月9日に米国ロサンゼルス郡で、迅速抗原定性検査と起床時唾液PCR検査を779名小児に実施し、結果を比較した。

PCR/抗原検査一致率
PCR陽性例(n=226)56.2%
有症状(n=87)64.4%
無症状(n=139)51.1%
PCR陰性例(n=548)98.4%
有症状(n=95)95.8%
無症状(n=453)98.9%

この結果から、抗原検査は「PCR陽性で無症状」では48.9%(100%-51.1%)のPCR陽性を見落とし、有症状であっても35.6%(100%-64.4%)を見落としました。したがって、抗原検査が陰性であっても2〜3回に1回はPCR陽性を見落とすことがわかりました。
具体的には、臨床情報からコロナ感染が半々(50%)の確率で疑われた場合、抗原検査陽性ならばほぼ(97%)PCR陽性と考えてよいが、抗原検査陰性では3割のPCR陽性見落としが発生します(参照先2)。さらに、家族内感染や濃厚接触歴から感染の疑いがかなり高い(80%)場合、抗原検査陰性であっても6割強のPCR陽性見落としになります(参照先3)。
以上より、抗原検査陽性の場合にはほぼPCR陽性と判断してもよいが、抗原検査陰性の場合にはかなりの確率でPCR陽性を見落とす可能性があり、PCR検査を追加して確認する必要があります。

HPVワクチンの積極的勧奨再開をめぐる最近の動向

HPVワクチンの積極的勧奨の再開が2021年10月までに実施されるのではないかという観測が出ています(参照先1)。

報道によれば、世界では9価ワクチンが主流となっている環境で、日本で未だに使われている4価ワクチンを製造している製薬企業MSDは、日本の厚労省から2021年10月までの勧奨再開、2022年4月までのキャッチアップ接種開始に向けた準備の要請を受け、需要に応える量のワクチン製造を完了、配備したとしています。これに対して、田村厚生労働大臣は本来関係のないコロナ対応に伴う厚労省ワクチン検討部会の繁忙を理由に、HPVワクチン積極的勧奨再開の時期について判断を先送りしました(参照先2)。

仮に2021年10月までに積極的勧奨が再開されない場合には、これまで日本向けに製造され配備された大量のワクチンは2022年4月から順次廃棄処分される予定です。HPVワクチンは世界で8億回以上接種され、有効性と安全性から世界中で需要が高まり、とくに9価ワクチンを巡って争奪戦が起きています。このような状況下で日本において貴重なワクチンの大量廃棄が起これば、世界中から批判されるだけでなく、今後の9価ワクチン供給やコロナワクチンを含む他の医薬品供給にも影響がでるとMSDは警告しています(参照先3)。

以上の内容は、HPVワクチン積極的勧奨の再開は厚労省が認めざるを得ない既定事項になっていること、政策変更が最終の政治判断の段階になっていること、しかしコロナ対応でも見られた政治家の機能不全が問題決着を先延ばしにしていること、を物語っています。田村大臣は2013年の積極的勧奨中止を決定した当事者であるだけでなく、自らの政策判断の誤りにより近い将来日本でHPVワクチンが接種できなくなるリスクを冒しています(参照先4)。

新型コロナウイルス感染をのりこえるための説明書(デルタ株編)

長野県にある諏訪中央病院総合診療科の玉井道裕先生が2021年8月9日に発表された解説です(参照先)。デルタ株についての最新のエビデンスがイラストで分かり易く紹介されています。とくに、21頁にある病院内外での状況認識のギャップは、「このウイルス禍がなぜ止まらないか」の本質を捉えています。ご一読をお勧めします。

新型コロナワクチン未接種は接種完了に比べて29倍の入院リスクになる

2021年8月24日付のCDCによる報告です(参照先)。

  • 米国カリフォルニア州ロサンゼルス郡における2021年5月1日〜7月25日に新型コロナウイルス感染が確認されたのは16歳以上の43,127人(ワクチン接種完了25.3%、1回3.3%、0回71.4%)だった
  • デルタ株の占める割合は接種完了91.2%、1回88.1%、0回87.1%だった
  • 未接種者の接種完了者に対する感染率は4.9倍、入院率は29.2倍だった

以上の結果は、デルタ株感染による重症化に対してワクチン接種の高い予防効果を示しています。

接種率78%を達成したイスラエルのその後

2021年8月になりデルタ株の急速な流行を認めるようになったイスラエルの現状報告です(参照先)。

  • 8月中の2週間で、1日当たりの感染者数は2倍以上となり、世界で最も急速に感染が拡大している地域の1つになっている
  • 接種率の高い中産階級の住む郊外が流行の中心になっている
  • 6月には死者数ゼロの日も多かったが、8月の死者数は中旬までに230人以上になっている
  • 6月には一旦解除された行動規制が8月中旬に再開された
  • ファイザー製ワクチン2回接種による感染予防効果は1〜4月の95%に対し、6月下旬〜7月上旬には39%まで低下していた
  • 早い段階で接種を済ませた人では重症化予防効果も低下した可能性がある
  • 3回目の接種が7月下旬から始まり、ロックダウンの再発動が検討されている

以上の内容は、ワクチン接種のみではデルタ株の感染抑え込みが難しいことを示唆しています。

新型コロナ抗体カクテル皮下注投与の家庭内感染に対する効果

Casirivimabとimdevimabによる抗体カクテル療法は、新型コロナハイリスク患者の入院および重症化予防に有効であることが知られています。これまでは点滴静注で投与が行われていましたが、皮下注射を用いた抗体カクテル療法の家庭内感染に対する効果が報告されましたので紹介します(参照先)。

  • 家庭内感染者との接触96時間以内に無作為に割り付けて治療を行った抗体カクテル投与群(N=753, 平均43.2歳[12-87])とプラセボ投与群(N=752, 平均42.7歳[12-92])
  • 抗体カクテル療法の効果は、感染予防66.4%、発症予防81.4%であった
  • 有症状期間は、抗体カクテル療法平均1.2週(プラセボ3.2週)と短縮した
  • 高いウイルス排出量の持続期間は、抗体カクテル療法平均0.4週(プラセボ1.3週)と短縮した
  • 注射局所副反応は抗体カクテル療法4.2%、プラセボ1.5%に認めた

新型コロナウイルス感染症では家庭内感染が高率に認められ、感染拡大を抑制するうえで大きな課題です。抗体カクテル療法は、家庭内感染の感染および発症予防に有効であり、有症状期間を短縮し、ウイルス排出期間を短縮しました。また、皮下注射でも有効であることから、入院しなくとも自宅、宿泊施設、外来医療機関など種々の条件で実施できることが期待されます。

新型コロナ感染自宅療養:成人、小児の注意点、同居者の感染対策

大阪大学医学部 忽那賢志先生による2021年8月9日付の最新記事です(参照先1)。都内では自宅療養者が今後更に増加すると思われ、具体的対応策が述べられています。
小児の自宅療養については、成育医療センターの2021年8月17日記事が参考になります(参照先2

かぜの子どもにホクナリン®テープ

かぜ症状で受診した子どもの背中にホクナリン®テープが貼ってあるのをしばしば見ます。
ホクナリン®テープは、正規の製剤名はツロブテロールテープで、長時間作用性β2刺激剤の気管支拡張剤であり、気管支喘息の治療薬です。医師から「咳のひどいときに1枚貼付」と頓服薬のように処方され、家庭に大量にストックされていることがあります。保護者も「咳のくすり」と認識していることがほとんどです。
このような使い方が適切なのかについて、メタ解析結果を紹介します(参照先)。

  • 対象は気管支喘息などの気流障害をもたらす基礎疾患のない急性咳嗽あるいは急性気管支炎の成人(418名)または2歳以上小児(134名)。
  • 結果として、β2刺激剤はプラセボに比較して効果がなく、かえって咳症状が長引き、振戦や動悸などの副作用を認めた。

臨床的にも気管支喘息など気流障害のある場合にはβ2刺激剤は有効ですが、そのような基礎疾患の無い人の咳症状に対して家庭常備薬のように習慣的に使用する薬ではありません。

風邪に抗ヒスタミン薬は効くのか?

ウイルス性上気道炎である風邪に対して、市販の感冒薬のほとんどには第1世代抗ヒスタミン薬が含まれます。医師の処方にも、抗ヒスタミン薬を含んだものをしばしば認めます。
風邪の諸症状に対して抗ヒスタミン薬は効果があるのか、このエビデンスを紹介します。

風邪の鼻炎症状に対する効果

  • 抗ヒスタミン薬の世代に関係無く、単剤では無効である(参照先1)。
  • 抗ヒスタミン薬と去痰薬(ムコダイン®など)、あるいは充血除去薬(メチルエフェドリンなど)との2剤併用、これに鎮咳薬(アスベリン®など)を加えた3剤併用でも無効である(参照先1)。
  • 第1世代抗ヒスタミン薬は鼻炎症状の初期1〜2日だけ多少効く可能性がある(参照先2)。一方、眠気や口渇などの副作用がでやすく、小児では発熱時に痙攣を誘発しやすく、痙攣発作持続時間の延長作用がある(参照先3)。
  • 第2世代抗ヒスタミン薬は眠気や口渇、痙攣誘発などの副作用を抑えてあるが、風邪の鼻炎症状には効果がない(参照先1)。

風邪の咳に対する効果

  • 風邪による咳には抗ヒスタミン薬は無効である(参照先4)。
  • 2〜5歳の小児には抗ヒスタミン薬よりハチミツの効果が高かった(参照先5)。

結論として、第1世代抗ヒスタミン薬は小児の風邪による鼻汁に多少有効かもしれないが、眠気や痙攣誘発作用のため使用は推奨されません。第2世代抗ヒスタミン薬はこれらの副作用は抑えてあるが、風邪の諸症状には無効です。

保湿剤だけでアトピー性皮膚炎は予防できるか?

早期乳児でアトピー性皮膚炎をすでに発症しているのに、ステロイド外用薬の使用をためらう保護者の方は時々います。「ステロイドでない薬はありませんか?」と、ステロイド以外の可能性を求め、保湿剤だけでしばらく続けたいと希望されます。たしかに保湿剤だけでも、適正な製剤を厳格に使用すれば、弱い抗炎症作用(ロコイド®程度)を発揮することが知られています。

そこで、発症前のアトピー性皮膚炎に対する予防効果について、その発症リスクの高い児(一親等以内の主要アレルギー疾患家族歴あり)に出生早期から保湿剤を使用し続け、1歳および2歳時の発症予防効果が認められるかについて検討した結果を紹介します(参照文献)。

塗布薬剤はワセリン、塗布条件は約8割が週に3〜4回、1日1回、塗布部位は顔、四肢、体幹のいずれか2箇所でした。結果として、標準的皮膚ケア群(詳細は不明。保湿剤使用もされたと考えられる)に対して、1歳、2歳時のアトピー性皮膚炎の発症頻度に差は認めませんでした。

この研究結果の印象としては、以下のとおりです。

  • 「週に3〜4回、1日1回、体の一部だけ」のゆるいワセリン塗布では、アトピー性皮膚炎の発症予防に不十分だろう
  • 保湿成分の含まれていない保湿剤(ワセリンなど)の効果は乏しい。保湿成分の含まれている保湿剤(ヒルドイド軟膏など)の効果は別に検討する必要がある

疑問に対して明確な答えを与える、より適切な研究デザインの報告が待たれます。

デルタ株に対するファイザー製新型コロナワクチンの効果:時間的変化

イスラエル保健省による2021年7月18日付けの報告です(参照先)。2021年6月18日〜7月17日におけるワクチン効果は以下のとおりです。2回目接種完了時期により、大きく変化します。

接種完了日感染発症入院重症化
1月21日16%16%82% 86%
2月21日44%44%91%91%
3月21日67%69%89%94%
4月21日75%79%83%84%

すなわち、接種完了5〜6ヶ月時点で、入院および重症化予防効果は80%以上と高く維持されています。一方、感染および発症予防効果は16%と大幅に低下するため、感染予防対策は接種完了後も重要であることが示唆されます。

乳幼児の感染後喘鳴の機序と治療薬

乳幼児では上気道感染に続いて、気管支炎の症状である喘鳴(ゼイゼイ・ヒューヒュー)をしばしば生じます。とくに気管支に親和性の高いウイルス(RSウイルス、ライノウイルスなど)ではこの傾向は顕著です。この成因について解説します(参照先1参照先2)。

  • 乳幼児では、気管支感染の防御機構として外敵に対して抗原受容体を介した特異的な(しかし時間のかかる)獲得免疫系による応答が未熟である
  • 代わりに外敵に短時間で反応する以下の自然免疫系の機序を動員して対応する
    □ 気管支上皮は、ウイルス感染、細菌、真菌、ダニ抗原、喫煙曝露等に対して数種類のサイトカイン(IL-33, TSLP, IL-25)を産生する
    □ これらのサイトカインは直接的な作用、あるいは2型自然リンパ球(ILC2)の活性化とサイトカイン(IL-13, IL-5など)産生を介した間接的な作用で好酸球、マスト細胞、好塩基球を活性化する
    □ 活性化した好酸球、マスト細胞、好塩基球からはIL-13、ロイコトリエンが放出される
    □ IL-13、ロイコトリエンは外敵に対する排除反応として、気管支平滑筋の収縮、気道分泌亢進、気道過敏性亢進などの作用を発揮する
    □ この排除反応が過剰になると、喘鳴や呼吸困難などの症状をもたらす

上記の機序から、感染後喘鳴に対する治療薬剤は、ロイコトリエン受容体拮抗薬(シングレア®、オノン®)、気管支拡張薬(メプチン®)、吸入ステロイド剤(パルミコート®、フルタイド®、アドエア®など)が主体となります。

外来での乳幼児の耳垢除去

鼓膜観察のため耳垢除去が必要なケースは、2歳未満で3割程度とされています。しかし、特別な装備(耳鼻科用治療ユニットや手術顕微鏡など)を持たない小児科外来で、不規則な体動が避けられない乳幼児の耳垢除去を安全に短時間で行うのは課題として残されています。

近年のデジタル画像機器の普及と改良により、比較的高性能で安価な製品が使えるようになってきました。当院で採用した製品は、3.9mm外径、1080p高解像度の防水デジタルカメラの先端にLEDライトが付いています。この先頭には数種類の耳垢除去用スプーンが装着できます。根元には深挿入防止用のソフトガードが付けられます。画像はスマートフォン上に静止画あるいは動画で表示・記録されます。

なお、小児科外来での耳垢除去は鼓膜が観察できる必要最低限にとどめます。完全な除去には耳鼻科を受診して下さい。

耳垢除去

デルタ株は小中高生で広がりやすい

新型コロナウイルスデルタ株は2021年7月時点で都内でも急速に広がっています。直近の東京都における年代別流行曲線(参照先1 第42回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料)をみると、6月以降の小中高生の患者数が他の年代に比べて急激に増加しており(参照先2 図中点線右側は入力遅れから今後増加)、デルタ株の特性を反映している可能性があります。この年代は発症しても軽症がほとんどですが、それゆえに感染拡大の核になりえます。今後の感染対策やPCR検査、ワクチン接種の適応を考える上で重要な点だと思います。

ボタン電池異物の対処

子どもがボタン電池を飲み込んだり、鼻、耳に入れたりして異物となることがあります。ボタン電池は接触した粘膜に対する壊死作用があり、異物となった場合に緊急の対処が必要です(参照先)。以下の原則を参考にして下さい。

  • 耳、鼻、食道、胃などの異物には超緊急(1〜2時間以内)に対応する
  • 直径20mm以上だと消化管から排泄されない(20mm以下であれば排泄を待つ)
  • リチウム電池が特に電荷が高く、障害性が高い
  • 電池の記号の先頭にB、C、Gがあるのはリチウム電池である

子どもの新型コロナワクチン接種の考え方

感染症が発生するには「感染源」「感染経路」「感受性者(感染する可能性のある人)」の3条件が必要です。これまでの感染源対策、感染経路対策では新型コロナウイルス感染症はコントロールができませんでした。そこで、感受性者対策としてのワクチン接種が重要になります。

子どもの新型コロナワクチン接種について、感受性者対策の観点から以下の考え方が提案されています。接種するかを判断する際に、参考にして下さい。

□ 子どもの新型コロナワクチン接種の考え方(ポイント)(参照先1

□ 子どもの新型コロナワクチン接種の考え方(解説ページ)(参照先2

妊娠中、授乳中の新型コロナワクチンの接種

WHOによる2021年8月11日付けの推奨内容です(参照先)。

  • 妊娠は、非妊娠状態に比べて新型コロナウイルス感染により重篤化するリスクがある
  • 全ての妊娠女性、授乳女性へのワクチン接種を推奨する

ワクチン不安を煽るマスメディアについて

最近のコロナワクチンに関するメディアの対応は、これまでも多くのワクチンで繰り返され、人々にワクチン忌避(Vaccine hesitancy)を誘導してきました。筑波大学原田隆之先生の論考(参照先)を紹介し、その中の以下の見解を支持します。

“メディアが行うべき報道は、安直な「中立論」で表面的な権利に寄り添うことなどではない。不安を抱えている人々に、真に中立的、すなわち科学的な情報を伝えるとともに、デマを否定し、彼らが安心して決断ができるように、エビデンスに導かれた決断(Evidence-informed decision)を支援することだ。”

モラクセラ菌と子どもの上気道感染症

室内で干した生乾きの洗濯物には特有の臭いがします。衣類に付いていたモラクセラ菌は洗った後も残り、水分と皮脂よごれをエサに繁殖して産生される代謝産物が臭いの原因です。湿潤な場面の多い集団保育の環境はモラクセラ菌にとって好都合であり、5歳未満の上気道感染症検体の約50%から検出されます(参照先)。

一方、肺炎球菌、インフルエンザ菌は、集団保育をしている子どもの上気道の約90%から認められます。これらによる上気道感染症(副鼻腔炎、中耳炎)では、モラクセラ菌の混合感染がしばしば認められます。モラクセラ菌それ自体は弱毒菌ですが、ペニシリン分解酵素を産生するために混合感染の際に肺炎球菌やインフルエンザ菌に対するペニシリン(アモキシシリン)の効果を減弱します。そのため子どもの上気道感染症でアモキシシリン治療抵抗性や再発性の場合には、ペニシリン分解酵素阻害剤を配合した抗菌薬(クラバモックス®やオーグメンチン®)が必要になります。

「1万人あたり132人」vs.「1万人あたり9人」の比較

HPVワクチンに関する報道では、よくこの対比がでてきます。いずれの数値も厚労省が作成したリーフレット(参照先1)にあります。

前者は、女性が生涯で子宮頸がんに罹患する頻度、後者は“因果関係があるかどうかわからないものや、接種後短期間で回復した症状をふくめて、HPVワクチン接種後に生じた症状”(参照先1の記述)として報告された頻度です。後者には全身の疼痛・頭痛や疲労・倦怠感などが含まれますが、これらの症状は同年代のHPVワクチン接種を受けない女性にも同等の頻度で発生します(参照先2)。

したがって、「1万人あたり9人」は、HPVワクチン接種により引き起こされるリスクを正しく示したものではなく、これを子宮頸がん罹患のリスクと比較することは不適当です。ワクチン接種の有無には関係無い年齢・性に依存した紛れ込みの症状であるにも拘わらず、ワクチン接種後副反応の発生頻度という印象を与える報道内容になっています。

9価HPVワクチンは日本人子宮頸がんと前がん病変原因ウイルスの約90%をカバーする

子宮頸がんおよび前がん病変を持つ日本人40歳未満女性5,045名から検出されたウイルス型を、2/4価ワクチン(16, 18型)、および9価ワクチン(16, 18, 31, 33, 45, 52, 58型)がカバーする割合(%)として示すと以下になります(参照先)。

子宮頸がん20-24歳25-29歳30-34歳35-39歳
2/4価92.987.387.082.5
9価94.095.594.292.8
前がん病変
2/4価52.650.746.039.7
9価85.591.188.989.6

このように、9価ワクチンは子宮頸がんだけでなく、その前がん病変についても各年代にわたり90%前後の高いカバー率を示します。このデータから、中年以降の子宮頸がんについても9価ワクチンの高い予防効果が期待されます。

医療情報提供におけるメディアの限界

厚労省による2013年6月のHPVワクチン接種の勧奨中止政策の発動には、当時のメディアによる報道内容が大きく影響したことが指摘されています(参照先1)。この論文ではHPVワクチンに関する朝日・毎日・産経・読売・日経の各新聞社による全文が入手できた1126の記事について解析しています。ここで、朝日新聞2013年3月8日の記事(参照先2)が、その後のHPVワクチンの副反応やリスクが喧伝されるようになった転換点であると指摘しています。このあと、朝日新聞ではHPVワクチンの副反応を印象付ける記事が連日のように掲載されました。しかし現在まで、この一連の報道について朝日新聞社が謝罪や撤回をしたことはありません。

一方、2021年6月9日付け朝日新聞は、HPVワクチンが子宮頸がんを予防する実際の効果が国内外で次々報告されているのに、厚労省はワクチン接種の積極的勧奨控えを8年間も続けている、と報道しました(参照先3)。

自らが招いた勧奨中止の責任所在を明らかにせず、厚労省の長期勧奨控えを批判する対応からは、過去の誤報を謙虚に反省し今後の経験として活かす精神は認められません。医療情報を注目度が高いかだけで扱い、内容の正しさを科学的、客観的に分析し提供する能力を欠いたメディアの限界を示しています。

ジベルばら色粃糠疹(ばらいろ・ひこうしん)

主に思春期から30歳代に好発する、原因不明の炎症性角化性皮膚疾患です。見た目は派手ですが、基本的に自然治癒します。(参照先1参照先2

  • 最初、体幹、四肢近位部に2~5cmの比較的大きな円形〜楕円形の淡紅色皮疹(初発疹=ヘラルドパッチ)が1個出現する
  • わずかに隆起した辺縁には薄い鱗屑(カサカサ)が付着し、経過とともに中心部は黄色調になり環状になる
  • 初発疹から2~14日後に、急激に体幹、四肢近位部に初発疹と同様の形状の皮疹(長径1~2cm)が多発する
  • 通常3~6週(長くて3か月)で自然治癒し、再発することは少ない
  • 痒みなど症状により、ステロイド外用薬、抗ヒスタミン薬を使用する(ただし、ステロイドは効きにくくvery strongクラスが必要とされる)

小児の新型コロナ感染症とワクチン接種

米国では2021年5月の時点で約400万人の小児の新型コロナウイルス感染症患者が発生しています。殆どの小児患者では軽症ないし無症状ですが、数千名が入院し、数百名が死亡しています。このように小児の重症例が増えていることから、米国FDAとCDCは12歳以上のワクチン接種奨励を開始しました。現在、6か月齢以上の小児に対するワクチンの効果と安全性の治験が進行しています(参照先)。今後、日本でも変異株の拡大と小児への影響に注視する必要があります。

母乳栄養における亜鉛不足

母乳では初乳の亜鉛濃度は高いのですが、その後急速に低下し出産1か月後で育児用ミルクのレベル、出産3か月では更にその1/3程度になり亜鉛の必要量を満たさなくなります(参照先)。そのため、離乳食の開始が遅れ母乳だけで育てていると潜在的な亜鉛欠乏状態になります。さらに、早産低出生体重児、両親いずれかの遺伝的亜鉛吸収障害、母親の遺伝的低亜鉛母乳などの危険因子が加わると亜鉛欠乏症が発症することがあります。主な症状は、治りにくい皮膚炎(四肢末端、外陰部・肛門周囲、口・鼻孔周囲、眼瞼)、脱毛、下痢、成長障害、貧血、易感染性、味覚障害などです。

ファイザー、アストラゼネカCOVID-19ワクチンのインド変異株に対する有効性

英国変異株(B.1.1.7)およびインド変異株(B.1.617.2)に対するファイザーワクチン、アストラゼネカワクチン1回目接種後3週以降、2回目接種後2週以降の発症予防に関するワクチン効果(VE)は、2021年5月22日付け査読前論文で次のように示されました(参照先)。

英国変異株インド変異株
ファイザー
1回目
2回目
49.2%
93.4%
33.2%
87.9%
アストラゼネカ
1回目
2回目
51.4%
66.1%
32.9%
59.8%

インド変異株に対しては、いずれのワクチンも1回接種での発症予防効果は30%程度と低く、2回接種によりファイザー88%、アストラゼネカ60%と英国変異株の場合とほぼ同等の効果が得られることが示されました。

小児の副鼻腔炎に用いる漢方薬

味と効果の面から、小児の副鼻腔炎に対しては葛根湯加川芎辛夷(かっこんとう・か・せんきゅう・しんい)がよく用いられます。かぜ薬としてよく知られた葛根湯に、鼻粘膜に作用して鼻閉や副鼻腔排膿に効果のある「川芎」「辛夷」が加えてあります。急性・慢性鼻副鼻腔炎のいずれにも適応があります(参照先1)。単シロップを加えて全体を湯に溶かし、カルピスを少量加え冷やすと、子どもが好む飲料(マミー)の味になります。

さらに抗炎症作用のより強い薬として辛夷清肺湯(しんい・せいはいとう)があります。主に、慢性副鼻腔炎が適応となり、クラリスロマイシン少量療法で改善が不十分な場合には本剤を試みる価値があります(参照先2)。ただし、苦み、辛みが比較的強いので、服薬には条件を工夫する必要があります。

2016年に大手メディアが握りつぶしたHPVワクチン記事

読売新聞社が掲載予定を中止した読売新聞健康欄(yomiDr.)のHPVワクチン解説記事です(参照先)。執筆は長崎大学小児科森内浩幸先生です。この件が原因となり、責任編集者は担当を外され新聞社を辞職しました。

今から見ればごく当然な記事内容ですが、当時は行政だけでなく大手メディアも一緒になりHPVワクチンに関するネガティブな印象操作を展開していて、正確な情報提供を抑えていた事実を物語っています。

卵黄による消化管アレルギー

小児の卵(鶏卵)アレルギーは、卵白を摂取して1時間以内に蕁麻疹や呼吸器症状を認めるIgE依存性アレルギーが一般的です。これに対して、卵黄を摂取してから数時間以降に嘔吐や下痢などの消化器症状を認める食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES: Food protein-induced enterocolitis syndrome)が、最近日本国内で多く報告されるようになり注目されています。以下のような臨床的特徴があります(参照先1)。

  • 発症は生後8か月頃の離乳食開始後に多い
  • 症状は嘔吐(100%)、不活発(81%)、顔面蒼白(73%)、下痢(35%)、血圧低下(4%)
  • 卵黄を食べると嘔吐が誘発されるが、卵白を食べても嘔吐は見られない
  • ごく微量(0.025g=米粒の約1/10)の卵黄に反応することがある
  • IgE抗体は卵白に対して半数程度が陽性になるが、このうちで卵黄にも陽性になるのはごく一部であり、非IgE依存性アレルギーとされる
  • 発病当初は卵黄に対するFPIESだけが、経過中に卵白に対するIgE依存性アレルギーが同一患者に出てくることがある
  • 比較的治りやすい疾患で、2歳までに半数以上が、5歳までにほぼ全員が治癒するとされる(参照先2 静岡県立こども病院「こどものアレルギー」 http://www.child-allergy.jp/sch.htm

アトピー性皮膚炎乳児における鶏卵アレルギーの発症予防

乳児期の食物アレルギーの原因として最も多いのは卵(鶏卵)アレルギーです。この発症リスクとして重要なのは、アトピー性皮膚炎の存在と、卵摂取開始時期の遅れです。アトピー性皮膚炎をステロイド外用薬とスキンケアで良好にコントロールしながら、少量の卵摂取を生後6か月から開始すると、生後12か月の時点で卵アレルギーの発症が約80%抑えられることが明らかにされています(参照先1参照先2)。
その実施方法は以下のとおりで、当院外来で指導を受けられます。

  • アトピー性皮膚炎は治療により生後6か月までに寛解状態にある
  • 生後6か月から加熱全卵0.2g(加熱全卵粉末50mg)/日を3か月間継続して摂取する
  • 生後9か月から加熱全卵1.0g(加熱全卵粉末250mg)/日を3か月間継続摂取して終了する

ここで、加熱全卵0.2gとは、具体的には15分間の固ゆで卵白約0.2g(およそ米粒大=一辺約5mmの立方体)に相当します。
上記完了後に、固ゆで卵1/2個の摂取で問題が無いことを確認します。

ファイザーCOVID-19ワクチンの英国、南アフリカ変異株に対する有効性

英国変異株(B.1.1.7)および南アフリカ変異株(B.1.351)に対するファイザーワクチン2回接種2週間以後におけるワクチン効果(VE)は、2021年5月5日付けの報告で次のように示されました(参照先1)。

英国変異株南アフリカ変異株
感染89.5%75.0% 
重症化100.0%100.0%

既存株と比較して感染予防にはいずれも若干の低下は認められるものの、重症化阻止には依然として高い効果が認められます。
一方、アストラゼネカワクチンについては、南アフリカ変異株に対して有効性が認められない、と2021年3月16日付けの他の論文で指摘されました(参照先2)。

2m以上離れていても新型コロナウイルスに感染する条件

感染力の強まった変異株の拡大で、これまで以上に厳格な感染対策が必要だとされます。米国CDCの2021年5月7日付け改訂版から紹介します(参照先)。

以下の条件で感染者が滞在した場合、2m以上離れた場所でも、あるいは感染者が退出した直後でも、微細な飛沫やエアロゾル粒子により感染するリスクが生じる。

  • 換気不十分な閉鎖空間
  • 吐き出す息の量が多い(運動、歌う、叫ぶ、など)
  • これらの環境に15分以上いる

クループに対する経口ステロイド療法の改良

クループは生後6か月〜3歳頃に多く見られ、オットセイの鳴き声のような特有の咳、吸気性の呼吸障害を呈します。主にウイルス感染による声帯直下の気道粘膜の浮腫により起こります。 クループに対する経口ステロイド治療は、古典的にはデキサメタゾン0.6mg/kgの単回投与ですが、日本で通常使われるデカドロンエリキシル0.01%だと体重10kgで60mLにもなります。最近提唱されている投与量である0.15mg/kgとしても15mLとまだかなり多いです。これに対して、より実際的なプレドニゾロン3日間投与を比較した報告です(参照先)。

  • クループ患者87名をデキサメタゾン0.6mg/kg初日1回投与(続く2日は偽薬)群(n=41)とプレドニゾロン2mg/kg/日3日間投与群(n=46)に無作為に割り付け
  • 追加医療の必要性、症状持続期間、クループ咳嗽の消失頻度、保護者への負担程度、のいずれも両群間で差を認めなかった。

以上より、プレドニゾロン経口3日間投与法は従来の方法と同等の有効性を持つ治療法であることが示されました。家庭で薬剤を備えておけば、発作時の緊急時対処法として有用であると考えられます。

フォローアップミルクに切り替える必要はあるか

9/10か月健診でときどき質問される内容です。

フォローアップミルクは、牛乳と母乳で決定的に不足している成分(鉄、ビタミンD)を補強した製品で、9か月以降の使用が想定されています。通常の育児用ミルクと比べて、主な内容構成に大きな差異はありません(参照先1)。しかし、厚労省が約40年前に定めた規則により、亜鉛、銅などの微量元素の含有は育児用ミルクでは認められていますが、フォローアップミルクでは認められていません(米国ではいずれも認められています)。そのため、日本では離乳食がうまく進まない場合にフォローアップミルクで補完すると、亜鉛欠乏になるリスクがあります(参照先2)。離乳食の素材として乳製品を少量用いるのであれば、牛乳で構いません。
フォローアップミルクの使用については以下のようにまとめられ、一般的には乳幼児の育児に必須ではありません。

  • それまで使っていた育児用ミルクを、9か月に達したという理由で敢えてフォローアップミルクに変える必要はない
  • 完全母乳や混合栄養で不足しがちな鉄については離乳食の内容(赤身肉、赤身魚、レバー、小松菜、ひじき、ホウレン草等の利用)で、ビタミンDについてはその対策(日光浴、卵黄・魚・キノコ摂取、ビタミンDサプリ)で十分対処できる
  • 1歳以降は、鉄、ビタミンDに配慮した食事・対策と牛乳(カルシウムに富む)を利用する

食物アレルギーは荒れた肌から始まる

アトピー性皮膚炎は通常生後2〜6ヶ月から発症し、これに遅れて1歳頃までに食物アレルギーが出現します。アトピー性皮膚炎の肌は一番表層にある角質に隙間が空き、外部からの物質の侵入を防ぐバリアー機能が障害されています。このような皮膚では表皮からのアレルゲンの侵入に対して真皮にある免疫細胞が活性化してアレルゲンを捕捉し、アレルギー反応を起こすIgE抗体が作られます。これをアレルゲンに対する「経皮感作」と言います。経皮感作により食物蛋白(卵、乳、小麦、大豆など)への感作が成立すると、口から摂取した食物に対しても種々のアレルギー反応を起こすようになります(参照先1)。

アトピー性皮膚炎には遺伝的な素因があることが知られています。フィラグリンという蛋白質は角質のケラチンに働いて、角質の構造を強固にする機能があります。日本人のアトピー性皮膚炎の約3割にフィラグリン遺伝子異常があることが分かっています。フィラグリン遺伝子異常は、食物アレルギー発症の危険因子です(参照先2)。

以上より食物アレルギーの発症予防には、乳児期早期より積極的な保湿剤の使用により皮膚のバリアー機能を保持し、アトピー性皮膚炎が発症した場合には直ちにステロイド外用薬を中心とした適切な治療を開始し、皮膚を良好な状態に維持することが重要です。

小児副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎

小児副鼻腔炎では30%以上にアレルギー性鼻炎の合併が認められ、副鼻腔炎の成因にアレルギー性鼻炎が深く関わっていることが推定されます。

アレルギー性鼻炎は鼻腔・副鼻腔粘膜の腫脹や肥厚により、副鼻腔と鼻腔をつなぐ自然孔(ostiomeatal complex)の狭小化をもたらします。また、副鼻腔の急速な発育は5〜8歳にかけて起こるのに対して、自然孔の発育は14歳位まで一定の速度で進むため、自然孔が相対的狭小になるアンバランスがこの時期に起こりやすくなります(参照先)。これにアレルギー性鼻炎による粘膜腫脹が加わると副鼻腔からの膿性粘液の排出が一層不良になり、副鼻腔炎が遷延化しやすくなります。

アレルギー性鼻炎は近年、低年齢化が顕著になっています。アレルギー性鼻炎に対して舌下免疫療法をはじめとして早期より積極的に介入することは、小児副鼻腔炎を難治化させないために重要であると考えられます。

ファイザーCOVID-19ワクチンの臨床的有効性

イスラエルからの報告です(参照先)。

  • 2020年12月20日〜2021年2月1日に実施した接種596,618名と性別、年齢、人種、リスク因子数を一致させた非接種596,618名を比較
  • 初回接種14〜20日後、2回目接種7日目以降の結果を解析
  • 接種による予防効果(推定ワクチン効果[VE])は以下のとおり
    • 感染:初回46% 2回92%
    • 発症:初回57% 2回94%
    • 入院:初回74% 2回87%
    • 重症化:初回62% 2回92%
    • 死亡:初回72%
  • 初回接種21〜27日後は14〜20日後に比べてより高いワクチン効果を認めた
  • 性、年齢の差異、合併症の有無に関わらず同程度の高いワクチン効果を認めた

9価HPVワクチンの安全性

米国にはワクチン接種後の有害事象(因果関係の有無を問わない)を報告する制度(VAERS)が整備されています。9価HPVワクチンについての報告を紹介します(参照先)。

  • 2014〜2017年に実施された販売開始後約2,800万回接種経過時点の報告
  • 有害事象の97.4%は非重篤であった(接種100万回あたり全有害事象259件、重篤事象7件)
  • 新奇あるいは予想しない健康被害の懸念は認められなかった
  • 9価HPV ワクチンは安全に接種できる

安全な筋肉注射の手技(改訂版)

日本ではほとんどの不活化ワクチンで皮下注射が指定されてきたため、筋肉注射の安全な手技が医療従事者に共有されてきませんでした。しかし、新型コロナウイルスワクチン、HPVワクチン、髄膜炎菌ワクチンは筋肉注射で行われるため、神経損傷や血管損傷を避ける正しい知識が必要です。

  1. 接種医は接種する腕の前外側方に立つ
  2. 接種する側の上肢を伸ばし、肩の高さまで外転して上げてもらい、三角筋全体の形状を確認する
  3. 肘は曲げないで、手のひらを体幹に向けて上肢をだらりと垂らす
  4. 三角筋全体の上下、左右の中点を選んで刺入点とする(三角筋の後縁は絶対に避ける)
  5. 皮膚はつまみ上げずに20(〜25)mmの深さで垂直に刺す
  6. 血液の逆流は確認しない
  7. 注射後は揉まない

参考文献
佐藤一樹:安全で最も痛くない三角筋へのHPVワクチン筋注の実践. 診療研究2022;578:46-62.

HPV感染から子宮頸がんに至る長い道のりとその予防

ワクチン接種によりヒト・パピローマウイルス(HPV)初感染は約90%予防できます(一次予防)。HPVはDNAウイルスであり変異が少ないため、同じワクチンが長期間使用可能です。感染の場は性交渉に限られ、いったん持続感染が成立してしまうとワクチンにより排除することはできなくなるため、性交渉開始前に接種しておくことが重要です。

HPV感染により子宮頸がん発生に至る自然歴は、以下のような経過をたどります(第116回東京小児科医会学術講演会 木口一成先生の講演から引用)。

10,000名の未感染女性 → 生涯で約60%〜70%に感染(6,000名)→ 1年を超える持続感染が感染者の約10%(600名)→ 数年〜10年以上経過して異形成(前がん病変)になるのが感染者の2%(120名)→ 最終的にがんになるのが感染者の0.1%(6名)

この長いカスケードの始点(子宮粘膜面におけるウイルスの侵入)にワクチンが働くことで、感染者発生とそれ以降を大幅に抑え込むことができます。

HPVワクチンに追い風が吹き始めた

9価HPVワクチン(シルガード®9)はカバーするウイルス型が多いため、4価HPVワクチン(ガーダシル®)に比べて子宮頸がんで9.9%〜15.3%、肛門がんで8.5%〜10.4%のより高い予防効果が見込まれます(参照先)。また、HPV未感染だけでなく既感染であっても新規ウイルス感染に対する予防効果が期待されます。

9価HPVワクチンはその高い臨床的効果により注目されています。2021年2月24日発売からの3週間で、当院ではすでに22名の方が接種を受けました。その2/3は20~30歳代で、1/3は10歳代の女性でした。

一方、2021年初からの2ヶ月半で4価HPVワクチンの定期接種を受けられた方は5名になり、これまでの年間接種数並みになりました。これは、文京区が2021年1月8日から小学校6年生〜高校1年生女子のいる各戸にHPVワクチンリーフレットを送付した結果だと思います。

定期接種の対象となる10歳代前半では4価ワクチンも高い臨床的予防効果(88%)が期待できるので、定期接種を利用して無料で受けるのはよい選択だと思います。一方、20歳代後半以降ですでにHPV感染が想定される場合には、既感染があっても効果の期待できる9価ワクチンを自費で受けられるのが適切だと思います。

男も打つべきHPVワクチン

日本では、2020年12月末に男性への4価HPVワクチン(ガーダシル®)の任意接種が認められました。当院にHPVワクチン接種希望で来られる女子の保護者から、「男の子にもHPVワクチンって、男子には子宮が無いのになぜですか?」と、しばしばご質問をいただきます。

ナビタスクリニック久住英二先生の解説を紹介します(参照先)。

4価HPVワクチンは、子宮頸がんを起こすウイルス2種類(16/18型)に、尖圭コンジローマを起こす2種類(6/11型)をワクチンがカバーする対象に加えています。とくに、尖圭コンジローマの予防効果はほぼ100%です。尖圭コンジローマは良性腫瘍でありながら、摘除しても再発を繰り返し、患者さんの悩みがとても深い疾患です。

ワクチン接種後の「副反応」とは

先日、新型コロナワクチン接種後に60歳代女性が亡くなり、“国内初の接種後死亡例”として報道されていました。しかし、その死因がくも膜下出血と聞いて、ワクチン接種がなぜ脳血管の破綻に関係するのだろう、と不思議に思われた方も多かったと思います。

日本の予防接種救済制度上、予防接種後に健康状況の変化をきたした場合は(因果関係が無いことが明白な場合を除いて)因果関係の有無に関わらずすべて「副反応」として報告され、原則として救済の対象となります(参照先1)。一般に、予防接種と有害事象の因果関係を有害事象の当事者が立証することは困難であるため、救済の対象をなるべく広くカバーするという主旨で制度が組み立てられています。「副反応」は医学的には因果関係が認められた場合に用いられますが、被害者救済を目的とした行政制度上は因果関係の有無は問わない用語である点が異なります。ところが、「副反応」という日本語が“予防接種と因果関係がある”かのような印象を与えてしまうために、“すべてワクチンのせい”という誤解が発生します。

病気には好発年齢があることは周知の通りですが、これが予防接種後にたまたま発生して「副反応」とされるのを、有害事象の「紛れ込み」と呼びます。長崎大学小児科森内先生によるHPVワクチンの論説の中で分かり易く説明されています。(参照先2

生ワクチンを追加接種するタイミングはどのように決められているか

生ワクチンを2回接種する場合、それらの接種時期や間隔は対象者の年齢や目的により変えています。

MRやおたふくかぜは1歳早期に接種した後、通常就学前に2回目になります。これは、一旦付いた免疫が時間経過により低下してしまう(二次性ワクチン効果不全 [SVF, secondary vaccine failure])人に対して、2回目接種により免疫を回復させるためです。

一方、それまで接種を受けなかった学童以上の人に対してキャッチアップ接種する場合、最短4週間で2回の接種を行います。これは1回の接種では免疫が充分付かない(一次性ワクチン効果不全 [PVF, primary vaccine failure])人に対して、2回の接種で確実に免疫が付くようにするためです(参照先1)。

以下に2回接種の予防効果について示しておきます。

 1回目2回目 
麻疹・風疹95%99%参照先2
おたふくかぜ78%88%参照先4
水痘80-85%90%参照先5

HPVワクチン報道―潮目の変化

今日(令和3年3月4日)、NHK朝7時のニュースでHPVワクチンが特集で取り上げられていました。
番組内容は、「このワクチンのリスクとベネフィットについて正しく知ろう」というメッセージが貫かれていました。ワクチンの危険性と子宮頸がんの恐怖、二者択一の選択を強迫的に視聴者に迫る嘗ての報道姿勢とは随分違っていました。この変化には、過去10年間に積み上がってきたHPVワクチンに関する科学的エビデンス、とりわけワクチンによる子宮頸がん予防効果を明白に示した昨年のスウェーデンからの研究成果の影響が大きいことは疑いありません。
このワクチンを受けるかどうか、決定は実質的に保護者の判断に委ねられています。その保護者の意思決定に影響するのは周囲の社会です。定期接種の期限内に受けさせて貰えなかった女子大学生が、公費によるキャッチアップ接種の実現を求めています。事実を正しく認識し、思春期の少女たちを将来の子宮頸がんから守るのは、我々大人の責任です。

HPV母子感染症

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、産道や羊水を介して母親から新生児に感染することがあります。若年性喉頭乳頭腫の原因はHPV6型、11型であり、母親にこれらによる尖圭コンジローマがあると経腟分娩の際に児に感染します。腫瘍の好発部位は声門部であり、乳幼児期からの嗄声や呼吸困難を生じます。良性の腫瘍ですが摘除しても再発を繰り返し治療に難渋します(参照先1)。また、子宮頸がんの母親から羊水を介して児にHPVによる肺がんが生じた2例の報告が日本のグループからなされました(参照先2)。いずれもHPVワクチンによる妊娠前の感染予防が重要であることを示しています。

CDCが推奨するHPVワクチン接種スケジュール

米国CDCは11〜12歳における2回接種を最も推奨した上で、以下の接種スケジュールを勧めています(参照先)。

2回接種法(9〜14歳対象)

  • 初回接種は15歳誕生日前に実施し、2回目接種は初回後6〜12ヶ月後に実施
  • 初回と2回目の最短期間は5ヶ月間(5ヶ月以内に行った場合には、3回目接種を12週以上空けて実施)
  • 接種スケジュールが中断された場合には、中断期間の長さに関わらず中断前最後の分の繰り返し接種は行わない
  • 9〜14歳2回接種法により、後期思春期および若年成人に対する3回接種法と同等かそれ以上の免疫が得られる

3回接種法(15〜26歳対象)

  • 初回接種が15歳誕生日以降か、何らかの免疫不全状態にある場合に選択
  • 2回目は初回の1〜2ヶ月後、3回目は初回から6ヶ月後
  • 最短期間は、初回と2回目は4週間、2回目と3回目は12週間、初回と3回目は5ヶ月間空ける(これよりも短い間隔で接種した場合には、最後の投与から別の最短期間が経過してから再投与が必要)
  • 接種スケジュールが中断された場合には、中断期間の長さに関わらず中断前最後の分の繰り返し接種は行わない

新型コロナワクチンを筋肉注射でするわけ

新型コロナワクチンは筋肉注射で行われるため、この手技を映像で頻繁に見るようになりました。日本では1960〜70年代に抗菌薬や解熱剤の筋肉注射を原因とする大腿四頭筋拘縮症が多発し、そのトラウマから本来関係のないワクチンについても筋肉注射が避けられるようになりました。しかし、世界では不活化ワクチンは筋肉注射が標準です(生ワクチンは皮下注)。日本でも最近ではHPVワクチンや髄膜炎菌ワクチンは筋肉注射が指定されています。

ワクチン筋肉注射は皮下注射に比べて局所の痛みや腫れが少なく、しかも免疫を付ける能力に優れています。この手技についての分かりやすい解説を紹介します(参照先)。

早すぎる乳房発育

女の子で思春期が始まる前に乳房が腫大することがあり、「早発乳房」と呼ばれます。好発時期は、生後6ヶ月〜1歳半、および6〜7歳頃にあります。原因は明らかでなく、視床下部・下垂体・卵巣ホルモンの一過性分泌亢進や、乳腺のホルモン感受性の一過性亢進などが考えられています。

症状は一時的で1歳で始まり、殆ど2〜3歳までに消失します。6〜7歳で始まると、その後1年ほどで思春期に入ることが多いと言われます。

鑑別すべき病気として思春期早発症があり、身長の急激な増加、陰毛発育、生理などの二次性徴の出現で疑います。

9価HPVワクチンに関する最新解説

日本産科婦人科学会により9価HPVワクチンについて2021年1月8日に公開された詳しい解説です(参照先)。
HPV感染がすでに起きている人への9価ワクチンキャッチアップ接種の意義、4価ワクチンを単回接種しその後に9価ワクチンに変更して接種した場合の効果、日本人における9価ワクチンの効果などの重要なエビデンスが紹介されています。

9価HPVワクチン(シルガード®9)の接種開始と費用

2021年2月24日より、9歳以上の女性を対象に9価HPVワクチンの任意接種が可能になります。当院インターネット予約システムから予約できます。当院での接種費用は1回あたり29,000円(税込)です。

接種当日、接種を受けるご本人(または保護者)のスマートフォンから、インターネット上の登録サイト(ワクチンQダイアリー)に情報を入力する必要があります。この情報提供は厚労省の指示によるもので、個人情報は保護されます。なお、ワクチンQダイアリー・ログインページにある「新規登録」から基本情報の登録をあらかじめ済ませておくと、接種当日は予診票の入力だけで済みます。

なお、男性への9価ワクチン接種は日本ではまだ承認されていません。男性に適応の認められた4価ワクチンの接種をお勧めします。また、2価ないし4価ワクチンによる接種スケジュールをすでに完了された方が、9価ワクチンをさらに追加して接種することは推奨されていません。2価ないし4価ワクチンによる接種スケジュールを完了していない方が9価ワクチンにより接種を完了することは可能とされています(参照先)。当院はHPVワクチンの世界標準の接種スケジュールである14歳以下は2回接種、15歳以上は3回接種で実施します。

接種部位は上腕上部(肩峰から3横指下)になりますので、当日は肩が出やすい衣類(Tシャツ、タンクトップ等)を着てお越し下さい。

日本感染症学会「COVID-19ワクチンに関する提言」

新型コロナウイルスワクチンに関する学会ガイドラインです(参照先)。今後、日本で使用が予定されているmRNAワクチン(ファイザー、モデルナ)、ウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ)について、作用機序、有効性、有害事象の頻度などについての一般向けの最新の解説が要領よくなされています。

なぜHPVワクチン積極的勧奨の中止を撤回しないのか:厚労省による説明

2013年6月にHPVワクチンの積極的勧奨中止の根拠にしたワクチン副作用を否定する国内外のエビデンスは揃い、子宮頚がんの発症を予防する高い効果も確認されました。最早これ以上、勧奨中止を続ける根拠はどこにも無いように思われます。

しかし、厚労省は勧奨中止の撤回を未だにしようとしません。その理由としているのが「国民の理解がまだ足りない」からだそうです(参照先)。しかし、この定期ワクチンの存在を2013年以来接種対象者になるべく知らせない方針をとり続けてきたのは、厚労省自身に他なりません。最近になり、これまでの政策を一部変更し、自治体によるワクチン情報文書の戸別配布を認めましたが、いまだに明確な方針転換ではないために、多くの自治体の対応はこれまでと同様に接種勧奨に消極的のままであり、自治体ホームページ上では「積極的には勧めていません」の文言が残されています。一方、厚労省作成の最近のHPVワクチン解説リーフレットでは、この文言をなるべく目立たなくする姑息な対策が取られており、勧奨中止政策の破綻と変更の必要性を認識していることがうかがわれます。

2013年以降、メディアが拡散させたHPVワクチンへの不信感、恐怖心は人々の間に根強く残っています。かりに積極的勧奨が再開されたとしても、接種率向上には相当な困難が予想されます。ワクチンへの正しい理解を広めたいのであれば、厚労省が行ってきた勧奨中止政策や接種に不安を与える表現をまず止め、ついでワクチンの有効性と安全性について分かりやすく、教育の場や種々の媒体を活用して、効果的に大規模に宣伝することが重要です。

間違ったこれまでの政策判断を変えないことを前提とした対応からは、厚労省自らが作った袋小路から抜け出すことはできません。これからの日本の若い女性を子宮頸がんから守るために、明確な政策変更が必要です。

アトピー性皮膚炎の参考書

マンガでわかる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア
堀向健太、青鹿ユウ著

アトピー性皮膚炎の症状、成因、治療について広く説明してあります。文章は平易で漫画も加えてあり一般向けですが、内容は具体的で相当に詳しく最新の情報も記載してあり、医師が読んでも参考になります。著者が前任した成育医療センターアレルギー科の診療方針に沿っており、当院の治療法もこれに準じています。

アトピー性皮膚炎治療用の筒状包帯(Tubifast®)

伸縮性にすぐれたアトピー性皮膚炎治療用の筒状の包帯です。ステロイド外用剤や保湿剤を塗った患部皮膚を覆うよう、水で濡らしたものに乾燥したものを被せる(wet wrap)、あるいは乾いたもの一重で使用(dry wrap)して、治療効果を増強します(参照先)。

洗濯すると繰り返し使えますが、弾力性保持のために手洗い(洗濯機はネット使用)して下さい。自然乾燥をお勧めします。漂白剤は使用しないで下さい。

当院では、乳幼児の体幹部に使える幅10.75cmの包帯(Tubifast® yellow-line, 長さ10m)を、長さ50cmに切った状態で販売します。体幹部の皮膚炎がしつこく繰り返す場合にご利用下さい。別に四肢用も用意しています。

HPVワクチンの個別通知の再開:文京区の状況(令和2年12月23日記載)

HPVワクチン接種普及の大きな障害になってきた国による「各家庭への個別通知の停止方針」が、令和2年10月9日に撤回されました(参照文書1)。

これに伴い、今後配布される予定の新しいHPVワクチン説明リーフレットも公開されました。従来のものに比べて、記載の内容はバランスのよりとれたものになっていると思います(参照文書2参照文書3)。

文京区でも、令和3年1月8日から新リーフレットが小学6年生〜高校1年生女子のいる各家庭に送付されます。また、予診票も実施医療機関に個別に配置されます。これまでに比べて、よりスムーズに接種が受けられる環境が整うことになります。

現在高校1年生女子については、令和3年3月31日までが公費による接種実施期限ですが、新型コロナウイルス感染症による定期接種の期限延長対象になります。ただし、「新型コロナウイルス感染への懸念から接種を遅らせた」という理由が条件です。同様に、現在高校2年生女子については、令和2年1月6日〜3月31日の間に打てたはずの2回分について、上記の条件を満たせば公費による接種ができます。いずれも、接種実施医療機関にご相談下さい。

新型コロナ流行中の定期予防接種の期限延長

新型コロナウイルス感染症流行中は、通常は年齢で設定されている定期予防接種の期限が延長されます。期限切れの予診票を、そのまま医療機関へ提出して下さい(参照先)。

【対象となる予防接種】
令和2年1月6日以降に接種期限を迎えた定期予防接種

【延長期間】
流行がなくなってから2年以内(高齢者用肺炎球菌は1年以内)

ただし、以下のワクチンは年齢制限があります。

ロタウイルス延長なし
BCG4歳未満
ヒブ10歳未満
小児肺炎球菌6歳未満
四種混合15歳未満

せきの遷延化に関わる神経反射の過敏状態

せきの明らかな原因を認めず、通常の種々の治療にも反応せず、せきが遷延化することがあります。このような場合には神経を介したせき反射の過敏状態が存在すると考えられています。

せきの発生するメカニズムは、気道上皮にある受容体に物理的・化学的刺激が加えられると、求心性神経線維を介して脳の延髄にある咳中枢に信号が送られ、さらに信号が遠心性神経線維を経由して横隔膜や気管支平滑筋を収縮させてせきが起こります。せき受容体の本態は、温熱・機械的・化学的刺激により開口する数種類のイオンチャネル(温度感受性TRP*チャネルファミリー)です。TRPチャネルは求心性神経線維上にも存在し、せき発生に関与します。

せきの起こりやすい神経の過敏状態が、咳過敏性症候群(CHS)として提唱されています。CHSでは、TRPが寄与する求心性神経線維や中枢神経の過敏性が関与して、低レベルの温度・機械的・化学的刺激を契機として難治性のせきが生じやすい状態にあるとされます(参照先)。

せき反射の過敏状態を抑えてせきを減少させる方法として、求心性神経線維に作用する薬剤として漢方薬の麦門冬湯、抗ヒスタミン剤、遠心性神経線維に作用する吸入抗アセチルコリン剤などがあります。

*TRP: transient receptor potential

HPVワクチン接種中止により、日本ではどれだけの子宮頸がん死が発生するか

厚労省によるHPVワクチン接種の実質的中止が、8年に及ぼうとしています。この間、ワクチンを受けられなかったために発生する健康被害が明らかにされました(参照先)。

  • これまでの接種中止により、およそ5,000名の子宮頸がん死が予想される。
  • 現在の接種中止の放置により、さらに毎年700-800名の死亡が追加され続ける。

小児における生食鼻洗浄の効果

当院では、鼻吸引の際にあらかじめ生理食塩水の噴霧(ベビーミスト®)の併用を勧めています。この生食鼻洗浄の効果について最近のメタ解析が報告されていたので、内容を紹介します(参照先1)。

  • 3ヶ月〜12歳の小児を対象とした生食鼻洗浄を行った場合と行わない場合を比べたランダム化比較試験を検索した。
  • 4試験(569名)を抽出し、解析を行った。
  • 生食鼻洗浄の効果として、
    • 鼻症状の改善を認めたが、呼吸器症状、健康状態の改善は認めなかった。
    • 他の治療法の使用、特に抗菌薬の使用が減った。
    • 長期使用により、急性鼻副鼻腔炎および合併症の頻度を減らした。
    • 本法は安全な治療法である。

子どものかぜ症状の持続日数

子どものかぜはしばしば遷延します。集団保育や同胞の存在により感染を繰り返し受けると、治癒までの期間はさらに延長します。
これまでの研究報告(参照先1)によれば、小児の上気道感染症による鼻みずや咳の症状は発症10日後に50%、14日後に20%に認められ、かなり時間が掛かって治っていくことが分かります。
この疾患自然歴の途中で症状が悪化する場合や、改善せずさらに遷延化する場合には、抗菌薬の使用が考慮されます(参照先2参照先3)。

男性へのHPVワクチン接種の正式承認

2020年12月25日に4価HPVワクチンの男性への接種が正式承認されました。これにより、9歳以上の男性への任意接種が可能になりました。

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、女性の子宮頸がんの原因だけでなく、性活動に関連して中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなど、男性もかかる悪性腫瘍の原因になります。中咽頭がんでは半分が飲酒・喫煙、半分がHPVによるものです。

しかし、HPVが原因となるがんは、ワクチン接種と検診を徹底すれば、社会から根絶できるターゲットと、具体的に考えられるようになってきています。

そのため、男性へのワクチン接種も重要です。現在、世界では4価HPVワクチンの男性への接種を77カ国が承認し、オーストラリア、アメリカ、イギリスなど24カ国で公費接種が行われています。女子だけでなく、男子への定期接種がふつうに行われるようになることを望みます。

ライノウイルスによる上気道および下気道炎症

ライノウイルスは春、秋に流行する鼻かぜの原因ウイルスです。このウイルスは気道上皮にあるICAM-1という分子にくっついて気道上皮内に侵入し、炎症反応を引き起こします(参照先1)。秋から冬にかけて乳幼児が鼻かぜ(上気道感染)に引き続き、喘鳴をともなう気管支炎(下気道感染)を起こしますが、ライノウイルスはRSウイルスと並んでその主な原因となります。ライノウイルスには沢山の種類があり、何度でも繰り返し感染を起こします。また、秋はダニのアレルゲン量が年間で最も多い時期でもあります。ダニアレルギーがあると通年で気道粘膜の炎症とそれに伴う損傷がありウイルス感染に対して元々脆弱になっており、ライノウイルス感染に伴いアレルギー性鼻炎や気管支喘息の急性増悪が起こりやすくなります。ライノウイルス感染に対しては、ステロイドの局所投与(点鼻薬、吸入薬)が有効です(参照先2)。

赤ちゃんの夜泣きへの対応

たまに相談を受ける内容です。長野県佐久医療センター小児科作成の参考になる資料を上げておきます(参照先)。
夜泣きが習慣的になって悩ましい場合、「はっきりした原因がないのなら、敢えて泣かせたまま放っておくようにすると、数日で夜泣きしなくなります」とアドバイスするようにしています。

インフルエンザワクチンの小児への効果

インフルエンザワクチンを打っていても、完全には予防できないことは事実ですが、小児における発症予防と重症化予防について日本からの最近の研究では、接種しない場合に比べて以下の効果が確認されています(参照文献1)。

  • A型、A(H1N1)pdm09型*で63%、77%、B型で26%発症を減らす。
  • A型、 A(H1N1)pdm09型で76%、90%入院を減らす。B型では入院を減らさない。
  • 生後6~11ヶ月では、接種による明らかな効果は認められない†。

また、インフルエンザワクチンの効果は接種2週間後から5ヶ月程度まで、とされています。

*A(H1N1)pdm09型: 2009年にパンデミックを起こした新型インフルエンザ
†日本で認可されているインフルエンザワクチンはスプリットワクチンというタイプで、原理的にインフルエンザ感染歴がある場合に免疫賦活が期待されるものです。そのためこれまで感染機会の無い乳幼児では効果は限定的です(参照文献2)。

インフルエンザワクチンの接種回数について

日本のインフルエンザワクチン接種は、添付文書にしたがって生後6ヶ月(又は1歳)から13歳未満は2回接種、13歳以上は1回接種のルールで多くは行われています。

しかし、WHOや米国では生後6ヶ月から9歳未満はそれまでの接種履歴がある場合は1回接種(無い場合は2回接種)、9歳以上はすべての場合に1回接種を推奨しています。

最近の日本での疫学データによれば、毎年流行の主体となるA型については1回接種の効果は2回接種と差がありません(ワクチン有効率 1回60% vs. 2回70%)(B型では2回接種>1回接種 [ワクチン有効率 1回−3% vs. 2回49%])(参照先)。このように毎年少なくとも1回は接種しておくことの必要性は国内外ともに認められています。2回接種にこだわらず、流行期に入ったあとでも1回でも接種しておくことをお勧めします。

インフルエンザワクチンと卵アレルギー

インフルエンザワクチンは、その製造過程において鶏卵で培養したインフルエンザウイルスを使用するためにごくわずかな卵由来のタンパク質が含まれています。そのため、かつては卵アレルギーがある人には接種回避を含む特別な配慮がなされてきました。この点について、2018年に米国アレルギー・喘息・免疫学会(ACAAI)が、2011年以降に発表された研究を検討し、卵アレルギーのある人に対するインフルエンザワクチンの安全性について以下の勧告を出しています(参照文献)。

  • インフルエンザワクチンに含まれている卵由来のタンパク質の量はごく微量(1回投与量あたり1μg未満)であり、たとえ重度の卵アレルギー患者であってもアレルギー反応を起こす可能性はない。
  • 卵アレルギーを持つ人が持たない人よりも、インフルエンザワクチンに対するアレルギー反応をより引き起こしやすいことはない。
  • 卵アレルギーのある人に対して、インフルエンザワクチン接種に際して特別な事前配慮(特別なワクチンの使用、接種後観察時間の延長、卵アレルギーの重症度による接種回避、など)は必要ない。
  • 卵アレルギーの有無について、接種前にあらかじめ確認する必要性はない。

当院はこの指針に沿い、卵アレルギーの有無や重症度によってインフルエンザワクチン接種に特別な制限や対処(例えば観察時間の延長)は設けない方針とします。

卵アレルギーのある方も、インフルエンザワクチンは安全に接種できます。ワクチンを積極的に受けられて、インフルエンザ感染による合併症を少しでも軽減することがより重要です。

妊娠中および出産後のインフルエンザワクチン接種

妊婦も、高齢者、乳幼児、慢性呼吸器疾患などの基礎疾患のある人と並んで、インフルエンザ罹患により重症化しやすいことが知られています。妊娠中にインフルエンザに罹患して重症化し入院するリスクは、産後と比較して1.4〜4.7倍とされており、妊娠週数とともに増加します。また、妊婦罹患により自然流産、早産、低出生体重児、胎児死亡が増加します。
このため妊娠中はインフルエンザを予防することが特に重要ですが、最も有効な手段はインフルエンザワクチン接種です。現在、日本で使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、妊婦、胎児に対する悪影響は認められていません。
さらに、妊婦にインフルエンザワクチンを接種することで、出生児(生後6ヶ月まで)のインフルエンザ罹患率を減少させることも認められています。この効果には、胎盤を介した母体から胎児への免疫賦与の他、産後に母親がインフルエンザに罹り出生児にうつすのを抑えることも含まれます。結論として、妊娠中および出産後のインフルエンザワクチン接種は、妊産婦と出生児の双方に利益をもたらすと考えられます。

参照文献 日本産婦人科学会 産婦人科診療ガイドラインー産科編2017年 CQ102 63P

小児反復性急性中耳炎への十全大補湯の効果

2歳未満の急性中耳炎では、時に反復性となることがあります。その背景として、この年齢層では生理的に血中γ-グロブリン濃度が年長児や成人に比べて低値であり、これによる準免疫不全状態が関係していると考えられます。これまで、漢方薬の十全大補湯が小児反復性中耳炎に効果のあることは投与前後で比較した成績で認められていましたが、投与群と非投与群のランダム化比較の報告があったので紹介します(参照先)。

  • 87名の反復性急性中耳炎小児(6〜48ヶ月齢)を、十全大補湯投与を行う群(39名)と通常治療のみを行う対照群(48名)にランダム化
  • 3ヶ月間の投与期間中に、十全大補湯群は対照群に比べて急性中耳炎の回数が43%減少した(0.61±0.54 vs. 1.07±0.72回/月)
  • 同様に、鼻かぜの回数が29%、抗生物質投与日数が38%減少した

これらは当院においても、十全大補湯投与後に中耳炎が起こりにくくなるとともに、「かぜをひくことが減った」という保護者の方からの感想に一致する成績だと思います。

17歳未満の4価HPVワクチン接種により子宮頸がんは88%予防される

これまで、HPVワクチンは前がん病変を予防するが、子宮頸がん(浸潤がん)そのものの予防効果は証明されていないというワクチンの効果に対する懐疑的な意見が出されていました。一方、悪性度の高い前がん病変を高率に予防することから、子宮頸がんそのものの予防効果も期待されるという反論もありました。今回、この議論に決着を付ける研究成果がスウェーデンから報告されました(参照先)。

  • 2006年から2017年までの間、167万2983名の10〜30歳の女性を対象
  • 31歳0日までの子宮頸がんの発生を調査
  • 4価HPVワクチン接種者10万人あたり47名、非接種者10万人あたり94名に子宮頸がんが発生した
  • HPVワクチン接種により、全体で63%(17歳未満の接種では88%、17〜30歳の接種では53%)の子宮頸がん予防効果を認めた
  • 人口10万人当たりの子宮頸がん患者数:図の橙色で示されるワクチン非接種の場合のがん発生数に比べて、青色で示される17-30歳でワクチン接種を受けた場合、緑色で示される17歳未満で接種を受けた場合のいずれも減少している
参考グラフ

今回の研究成果により、特に若い世代に4価HPVワクチンを接種することで、最近増加しているAYA世代の子宮頸がんに対する高い予防効果が期待されることが確認されました。

HPVワクチンについての分かりやすい最新の解説

米国国立研究機関 峰宗太郎先生による、HPVワクチンに関する2020年1月時点の最新情報です。正確かつ丁寧に分かりやすく記載されており、一般向けの解説として決定打だと思います。延べ4回の連載記事です。

第1回 今さら聞けない!1からわかるHPVワクチン

第2回 HPVワクチンをめぐる12個の作り話をファクトチェック 「危険?」「効果がない?」(前編)

第3回 HPVワクチンをめぐる12個の作り話をファクトチェック 「HANSは?」「男子は必要ないの?」(後編)

第4回 メディア、政治、行政、医療者の責任は? 日本でなぜHPVワクチンはうたれなくなったのか

ロタウイルスワクチンの定期接種開始(2020年10月から)

ロタウイルスワクチンの定期接種の対象となるのは、2020年8月1日以降に生まれたお子さんです。
当院では原則として2回接種の1価ワクチン(ロタリックス®)を使用します。3回接種の5価ワクチン(ロタテック®)は当院インターネットサイトからの予約はできませんが、希望される場合には電話で御連絡下さい。
ロタウイルスワクチン接種後には稀に腸重積症の発症が認められることがあります。その多くは初回接種後の主に1週間以内(最長3週間以内)に起こります。自然発症の腸重積が起こりにくく安全性の高い、生後2ヶ月で初回接種を始めるようにして下さい(生後15週0日以降の初回接種施行はできません)。
乳児期早期の腸重積は診断が通常困難で、積極的に疑うことが重要です。以下のうち、一つでもあればすぐに受診して下さい。

  • 嘔吐を繰り返す
  • 泣いたり不機嫌になったりを繰り返す
  • ぐったりして元気がない
  • 粘血便(粘液と血が混じったような便、イチゴゼリー様)がでる

異なるワクチン接種間隔の制限撤廃(2020年10月以降)

以下のように改訂されます。

  • 「異なる注射生ワクチン(MRワクチン、水痘ワクチン、おたふくかぜワクチン、BCG)の接種間隔は27日以上」は現行のまま
  • 異なるワクチンの以下の組み合わせで、接種間隔の制限無し
    ◇ 不活化ワクチン−不活化ワクチン
    ◇ 生ワクチン(注射、経口)−不活化ワクチン
    ◇ 経口生ワクチン−注射生ワクチン

これにより、インフルエンザワクチンが、他のワクチンとの間隔を気にしないで接種できるようになり、接種スケジュールがより柔軟に決められるようになります。

生後1ヶ月からの少量粉ミルク摂取が牛乳アレルギーを予防する

生後1ヶ月から普通粉ミルクを少量ずつ毎日摂取させると、牛乳アレルギーの発症を予防できるという日本からの報告です(参照先)。

  • 新生児504人を、生後1および2ヶ月齢の間、粉ミルク10mL/日以上摂取する群(摂取群)と、粉ミルクを摂取しない群(回避群)にランダムに割り付け
  • 摂取群では粉ミルク上限量は設定せず、母乳との併用は許可するが、低アレルゲンミルク(加水分解物やアミノ酸乳)は使用しない
  • 回避群では、粉ミルクを避け、必要な場合には大豆ミルクで母乳を補充
  • 生後3ヶ月以降は、両群とも母乳育児を推奨しながら必要な量の粉ミルクを併用
  • 生後6ヶ月の時点で、牛乳アレルギーの発症を評価するため経口負荷試験を実施
  • 牛乳アレルギーの発症は、摂取群0.8%(2/242)に対し、回避群6.8%(17/249)で、摂取群で有意に少なかった

この内容は、「生後1ヶ月からの少量粉ミルク併用により、母乳栄養を阻害せずに牛乳アレルギーが予防できる」という、画期的な研究成果と言えます。

マスクによる新型コロナ重症化を抑える効果の仮説

国立国際医療研究センター忽那先生による興味深い論考です(参照先)。
マスクによる濾過効果で、ウイルスを含んだ飛沫の量、ウイルスそのものの曝露量を減らすことができ、重症化を抑えるという仮説です。もし本当であれば、最近の主な感染経路となっている家庭内感染に対して、「家の中でもマスク」が有効かも知れません。また、マスクを外さざるを得ない条件(食事中など)では、それ以外の対策を加えることが重要となります。

アトピー性皮膚炎で掻かないようにするには

痒みはアトピー性皮膚炎の主要な症状です。痒みに対して掻爬すると、表皮の障害に続く一連の反応の結果、最終的にTh2リンパ球からサイトカイン(IL-4, IL-13, IL-31)の分泌を招き、これらが皮膚の神経線維に働いてさらに痒みを増すという、痒み→掻爬→痒み増大の悪循環が成立します。したがって、掻爬防止対策はアトピー性皮膚炎の治療上重要な柱です。以下のようなものがあります。

  1. 爪をまめに切り、ヤスリで磨く
  2. チクチクしない肌着を選ぶ(綿を着て、毛を避ける)
  3. 寝ている間、暖まり過ぎないような厚さに衣類、布団を調節する
  4. 掻爬防止用の手袋を使う
    掻爬防止用2重手袋(https://www.wanwanbaby.com/mitten/about/)がアマゾンで購入できます。また、チクチクしない綿の子ども用靴下でも代用できます。手袋を取ってしまう場合には、衣類の袖に幅広のサージカルテープで固定します。
  5. 頭髪を短くする、束ねる
    頭髪があたる部位(額、首、肩)の皮膚は刺戟されて掻きやすくなります。あたらないような髪型にして下さい。
  6. 痒み止めを使用する
    飲み薬であれば抗ヒスタミン剤を使用します。最近、痒み止めの効果が期待できる塗り薬(コレクチム®)が使えるようになりました。

ウイルス性疾患罹患後のワクチン接種のタイミング

ウイルス感染による免疫能の一時的低下の有無、体内に残存する感染ウイルスによる生ワクチンウイルスへの干渉作用等により、ワクチンの効果に影響するかにより間隔は変わります。不活化ワクチン、生ワクチンとも、報告されている基準は以下です。

かぜ、手足口病、伝染性紅斑、突発性発疹症治癒後1〜2週間
風疹、おたふくかぜ、水痘治癒後2〜4週間
麻疹治癒後4週間

参照先 予防接種に関するQ&A集2019 P16

新型コロナウイルスの家庭内感染予防対策

新型コロナウイルス感染症の市中拡大の原因として、家庭内感染が重要な経路になっています。この疾患は、はじめは軽い感冒様の症状であることが多く、症状から他の感染症と区別することはほとんど不可能です。
家庭内で感冒様症状の方が出た場合、積極的な感染予防対策を取ることが、今後は必要になります(参照先1参照先2)。

  • 症状のある方
    • 自宅で安静にして、外出しない
    • 体温を毎日記録する
    • マスクと手洗いをする
    • 下痢があるときは入浴を避けるか、最後に入浴する
  • 家族の方
    • 体温を毎日記録する
    • マスクと手洗いをする
    • 症状のある人とは部屋を分ける
    • 看病する人は一人に限定する
    • 飛沫が発生する処置(鼻吸引など)を症状のある人にする際は、マスク、眼の保護(安全メガネ、ゴーグル等の装着)、手袋をする
  • 食事
    • 一緒に食卓を囲むのでなく、時間をずらす、テーブルを分ける
    • 食事は大皿でなく、個々の皿に取り分ける
  • 換気と掃除
    • クーラーや暖房を使用中であっても定期的に換気する
    • 皆がよく触れる場所(ドアノブ、電気のスイッチなど)は定期的に消毒する

PCR検査を全員にやると何が起こるか 再々考(8月15日記載)

PCR検査に関するメディアの扱い方をみると、「PCR検査を希望する全員に受けさせるべき」というものがこれまで多かったように思います。一方、最近はPCR検査の感度70%という点を取り上げて、「感染者のうち3割は陰性に出てしまう。従って、本当は陽性である“陰性者”が安心して動き回り、人にうつすかもしれないことが問題」と主張するものが出てきました。その主張(8月15日朝 日本テレビ “ウェークアップ!” 辛坊治郎キャスターの発言)が正しいか、検証してみました。

番組中の仮定:
新型コロナウイルスの有病率 0.1%
検査感度 70%  特異度 99.9%

計算の結果(参照先):
検査陽性に出た場合の真の有病確率  41.2%
検査陰性に出た場合の真の有病確率  0.03%

したがって、有病率0.1%(1,000人に1人が罹患)では、陰性にでた場合99.97%は正しく陰性であり、番組が危惧するようなホントは陽性なのに陰性と出てしまうのは10,000人陰性となったうちの3人程度のごくわずかな頻度ということになります。
逆に、陽性に出ても偽陽性(本当は病気でない)であるのが100-41.2=58.8%もあります。かりに検査を3回繰り返して感度を97.3%に向上させても依然50%の偽陽性が含まれ、有効な対策にはなりません。

以上より、有病率0.1%程度であれば、症状、周囲の感染状況、医師の判断などから感染している可能性がありそうな人に絞りこんで検査を実施、というのが正しい方針だと思います。一方、有病率が0.5〜1%を超えるような状況になれば、検査の適応基準をより緩くして、もっと広く実施するのが適切になります。

アトピー性皮膚炎の新しい治療薬:JAK阻害薬デルコシチニブ(コレクチム®)

痒みはアトピー性皮膚炎の主な特徴の一つです。正常では皮膚の真皮層にとどまる神経C線維末端が、アトピー性皮膚炎では表皮内にまで伸長し、種々の刺戟に対して反応し易くなっています。この神経末端には、ヒスタミンの他、IL-4, IL-13, IL-31などのサイトカインが作用して痒みを発生します。これまでアトピー性皮膚炎の痒みを抑える治療薬としては、抗ヒスタミン剤(内服、外用)しかありませんでした。

サイトカインは主に免疫系細胞から分泌されたあと、種々の標的細胞表面の受容体を介して作用を発揮しますが、このサイトカイン受容体から細胞内へのシグナル伝達を司るのがJAK/STAT系です。デルコシチニブは、JAKファミリー(JAK1, JAK2, JAK3, Tyk2)の全てのリン酸化を抑制することでSTATのリン酸化も抑制し、サイトカインに対応する核内の遺伝子群の転写を抑制します。この結果、デルコシチニブはサイトカインによる炎症反応や痒みの発生を抑えます。

デルコシチニブは、成人(16歳以上)では0.5%製剤、小児(2~15歳)では0.25%製剤(症状の強さにより0.5%製剤)の使用が認められています。抗炎症作用では、デルコシチニブは4群ステロイド剤(ロコイド®)から保湿剤にかけてのレベルに相当し、タクロリムス(プロトピック®)よりは弱めです。そのため炎症が強い部位の鎮静化(寛解導入)には向いていません。一方、痒みを抑える効果は開始後すみやかに(1日位)認められます。タクロリムスのような皮膚刺激感がなく、目や口の周り、外陰部などにも問題なく使えます。そのため、「皮疹は一見きれいになったのに、痒みが残って、掻いてまた悪化させてしまう場合」に適しています。作用はマイルドで、単独あるいは他の外用剤に重ねて、毎日諦めずに塗り続けると、段々と搔かなくなり、皮膚もきれいになってきます。

予防接種の補償制度:定期接種と任意接種の違い

予防接種後に健康被害が発生した際、「予防接種によって起こったものでは無い」ことが明らかでない限り、因果関係が疑わしいものも含めて救済の対象になります。
救済措置の給付額は、定期予防接種の場合、最高額(死亡の場合)で4,420万円(令和2年4月現在)支給されます。一方、任意接種の場合では、PMDA(医薬品医療機器総合機構)による制度で死亡の場合737万円余りです。このように、定期接種と任意接種では補償額に大きな開きがあります。任意接種については定期接種と同時に受けることで、定期接種に適応されるより高額の補償が受けられるため、できるだけ定期接種との同時接種をお勧めします。

5歳未満小児の新型コロナウイルス量は大人の10〜100倍多い

米国シカゴ小児病院からの報告(参照先

  • 軽症・中等症患者145名(5歳未満46名、5〜17歳51名、18〜65歳48名)の鼻咽頭擦過PCR検査を実施
  • 5歳未満のウイルスRNA量は、大人の患者のおよそ10〜100倍多かった

新型コロナウイルス感染症の小児は、ほとんどが軽症までにとどまることが知られていますが、今回の研究から軽症・中等症小児が周囲へのより強い感染源となる可能性が示唆されました。今後、流行蔓延期に軽症感冒様症状の幼児をみた場合、積極的PCR検査による感染者の発見、家庭での感染防止策(家族全員のマスク使用)、園への出席停止の重要性を示唆していると思います。

新型コロナ感染者の約4割は無症状でウイルス量も多い

イタリアのある自治体(人口3,275名)で2020年2月に住民全体に行った集団検査の報告です(参照先)。

  • 鼻咽頭擦過PCR検査を2回(初回・ロックダウン初期、2回目・ロックダウン終了時;平均間隔7.2日)実施
  • 人口に対する実施率:初回85.9%, 2回目71.5%
  • 陽性率:初回2.6%, 2回目1.2%
  • 感染患者の42.5%は無症状(かつその後の発症も無し)
  • ウイルス量は、有症状と無症状の患者間で差が無かった

新型コロナウイルス感染症の半分近くは無症状で、しかもウイルス量は症状のある場合と変わらないという、強い感染伝播力の背景にある特性が示されています。

喘息吸入薬フルティフォーム®:小児適応の開始

これまで小児の喘息吸入薬で、ステロイドと長時間作用型気管支拡張剤の合剤はアドエア®しかありませんでした。令和2年6月29日から、フルティフォーム®が小児(0歳〜)の適応になりました。
フルティフォーム®は、ステロイド成分はアドエア®と同じフルチカゾンですが、長時間作用型気管支拡張薬の成分がホルモテロールで、アドエア®で用いられているサルメテロールよりも気管支拡張作用において即効性があります。従って、喘息発作時に使用すると、 メプチンキッドエアー®を併用したようなより早く発作が抑えられる効果が期待できます。
使用方法は、これまでアドエア®で用いられていたスペーサを併用する方法、あるいは直接吸い込む方法があります。フルティフォーム®はアドエア®に比べて薬剤の放出速度がゆっくりで、スペーサを用いなくとも小児でも上手く吸えるようになります。

新型コロナウイルス感染症とIL-6, CRP

IL-6は感染や組織障害の際にTリンパ球、マクロファージなどで産生される代表的な炎症性サイトカインです。IL-6は新型コロナウイルス感染症の重症例で顕著に増加し、サイトカインストーム機序による重症化に強く関与します。一方、CRPはIL-6の刺戟により肝臓で作られ、IL-6の「代理マーカー」とされ、末梢血液の外来迅速検査で簡単に調べられます。新型コロナウイルス感染症は発症第2週以降に急激に重症化するため、発熱持続例ではこの前にCRPの増大(2.5mg/dl以上)を確認することが、リンパ球の減少(1,000/μL以下)とともに重症化の予測に有用である可能性があります(参照先)。

突発性発疹症

初夏の頃によく見られ、38〜40℃の高い熱が3〜5日程度続き、解熱の前後に全身に発疹(ピンク色の小紅斑丘疹)が多発して診断されます。以下のような特徴があります。

  • 原因となるウイルスはHHV-6, HHV-7(ヒトヘルペスウイルス6,7)
  • 生後7ヶ月〜2歳未満(ときには2歳台)にかかることが多い。
  • 2回繰り返すことがある(初回HHV-6、2回目HHV-7が原因)。
  • 下痢、大泉門の隆起、瞼の腫れ、リンパ節腫大を伴うことがある。
  • 発熱早期に口蓋弓上部の両側に小さな赤い隆起(永山斑)を認め、発疹前に疑われることがある。
  • 発熱初期に熱性けいれんを合併することがあるが、ほとんどは予後良好
  • ただし、解熱数日後に再び重症のけいれん(群発けいれん)を起こすことがある。「二相性けいれん」として知られ、神経学的後遺症を残すリスクが高い。
  • HHV-6, HHV-7は小児の急性脳炎・脳症の原因としてはインフルエンザウイルスに次いで多く、“極端に機嫌が悪い、意識状態が普段と違う”などでは注意が必要

新型コロナウイルス感染症による重症小児例の臨床像

新型コロナウイルス感染症の重症化は小児では成人に比べて少ないとされていますが、どのような場合に重症化を疑うのか、認識しておく必要があります。最近(2020年6月8日付け)の米国からの報告(参照先)では、以下の特徴が記されています。

小児重症例全員(17人)に中央値で5日間の発熱があり、14人に消化器症状(うち1人は画像検査で回結腸炎)があった。皮膚粘膜に変化が見られた患者が多かった(発疹12人、結膜炎11人、口唇発赤/腫脹9人)。3人は受診時に低酸素状態、13人はショック状態だった。14人は胸部異常陰影(最多は両側間質のすりガラス像)を認めた。8人が川崎病の診断基準に合致し、5人は不全型川崎病の基準を満たした。

8人はPCR検査で陽性、9人は血清学的検査で陽性だった。炎症マーカーはすべての患者で上昇していた。12人がリンパ球減少症、11人は好中球の左方移動、14人はトロポニンT値の上昇、15人はNT-proBNP値の上昇が見られた。重複感染は少なく、陽性は3人のみだった(EBV、パルボウイルス、A群レンサ球菌)。

血清IL-6は16人で上昇していた。8人のサイトカイン・プロファイルでは、全員でIL-2R、IL-18、CXCL9の上昇、3人でIFN-γの軽度上昇、2人でIL-8のわずかな上昇が見られた。TNF-α、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-13のレベルは正常域にあった。

新型コロナ・クラスター形成の1次感染者の特徴

厚労省クラスター対策班による報告です(参照先)。国内で確認された61クラスターのうち、クラスターの原因となった1次感染者22名が確認されました。この特徴は以下です。

  • 11例(50%)は20〜30歳代
  • 9例(41%)はクラスター発生時には無症状ないし発症前

クラスター形成する1次感染者の主体は若者であり、年齢に関わらずクラスター発生時には無症状、ないしは発症前であることを示しています。このことは、症状のある人にねらいを絞って集団から隔離しようとすることが、クラスター予防対策としては的はずれであることを示唆しています。

アトピー性皮膚炎と虫除け剤

虫除け剤の成分は、ディート、イカリジン、天然植物由来、の3種類に大別されます。このうち、皮膚への刺激性、有効性、安全性の点からアトピー性皮膚炎の小児に推奨できるのはイカリジンです。
イカリジンには濃度5%と15%の2種類の製品があり、持続時間は5%が6時間程度、15%は5〜8時間程度です(参照先)。ディートと異なり年齢による使用制限、回数制限がありません。ただし、効果があるのは蚊、ブユ、アブ、マダニに限られるので、使用する条件を考慮する必要があります。

アトピー性皮膚炎と日焼け止め

アトピー性皮膚炎の治療中に、日焼け止めの使用をきっかけに皮膚炎が悪化することが時々経験されます。
日焼け止めは、紫外線を散乱させる成分(紫外線散乱剤=チタンや亜鉛などの金属)を含んだ製品と、紫外線を吸収する成分(紫外線吸収剤=化学物質)を含んだ製品に大別されます。このうちかぶれやすいのは後者の化学物質(紫外線吸収剤)を含んだものです。157名小児の検討ではこれら化学物質に対して光パッチテスト陽性(6.4%)あるいは接触アレルギー(5.7%)を示したとされています(参照先)。
アトピー性皮膚炎の場合、日焼け止めは使わずサンシェード(日除け)の使用で済ますか、かりに使う場合にはノンケミカルの紫外線散乱剤を含んだ製品の使用をお勧めします。

小児では鼻粘膜のACE2発現量が低い

鼻粘膜のACE2は、新型コロナウイルスが人体へ侵入する際の最初の入り口となる場所です。年齢毎の鼻粘膜ACE2遺伝子発現を調べた研究(参照先)では、成人に比べて小児では若くなるほどACE2発現量が低いことが分かりました。このことが、小児では新型コロナウイルス感染が起こりにくい原因である可能性があります。

小児の新型コロナウイルスと他の病原体の混合感染

小児の新型コロナウイルス感染症では他の病原体との混合感染がしばしば認められます。ある報告によれば、マイコプラズマ、インフルエンザ、RS、サイトメガロなどが本症患者の5~20%の頻度で認められました(参照先)。したがって、他の病原体が検出されたからと言って、新型コロナウイルス感染が否定的ということにはなりません。

自宅での尿検体のとり方

学校の健診で血尿や蛋白尿などの異常が見つかり、医療機関での再検査が求められる場合があります。この際、「早朝第1尿」の提出を原則としてお願いしています。この目的は、就寝中の臥位で膀胱に溜まった尿を検査して、より正確な結果を得るためです。立位をとると、上腸間膜動脈起始部の下方への屈曲が強まり、背側にある大動脈との間で左腎静脈が挟まれて腎臓の血流がうっ滞し、病気のある無しにかかわらず血尿や蛋白尿がより出やすくなります。
検体を提出する前の日は、寝る直前にトイレに行って膀胱を空にして下さい。このことで、早朝第1尿に含まれる前日の立位で溜まった尿の影響を減らすことができます。

新型コロナウイルス蔓延期に小児の医療アクセスをどう維持するか

日本では諸外国に比べて医療へのアクセスが格段に優れ、小児疾患の軽症化に寄与してきました。しかし、新型コロナウイルスの感染リスクを心配して小児の受診手控えが急速に拡大しています。このため、アクセスの低下による重症化のリスクが高まっています。
家庭での患児の状態を把握するため、対面診療の代替手段として遠隔診療を積極的に活用する意義が高まっています。臨時的措置として令和2年2月28日からは慢性疾患に対する電話再診、4月13日からは遠隔による初診が認められました。受診による感染リスクを抑えながら患児の重症化を防ぐため、電話、テレビ電話などの情報通信機器を用いた診療の役割が期待されます。

PCR検査を全員にやると何が起こるか 再考(4月5日記載)

3月8日の記事で「極端に有病率の低い場合には、CT等で原因不明の肺炎が認められる場合の原因検索など、医療的に必要な場合に限って用いるのが適切と思われる」と述べました。しかし、その後都内の患者数は急速に増加し、4月5日現在、1日あたり患者数は130名に達しました。そこで再度PCR検査の精度を推定しました。
潜伏期の中央値は5日なので、感染から発症に至っていない分を含めた患者数は5×130=650名いると仮定します。また推定患者数は前回と同様に大きめに見積もり、この数の100倍とします。

PCR検査の精度:感度70% 特異度99.9%
都内の推定患者数:65,000名
都民の人口:1,000 万人

今回の計算の結果では、検査が陽性になった場合、本当に新型コロナウイルス感染症である可能性は82%になります(結果参照)。今後はPCR検査を感染者の周囲接触者や臨床的な疑い例について積極的に行うことで、かなり正確に感染者の検出ができると思われます。

物に付着した新型コロナウイルスの感染力維持時間

物の表面に着いたウイルスが、どのくらいの時間、感染力を維持しているかの報告です。手の触れやすいドアノブ、手摺り、スマートフォン、おもちゃや本などの取扱いをする上で参考になります(参照先図1)。

エアロゾル3時間
プラスチック72時間
ステンレススチール72時間
厚紙24時間
銅板4時間

小児における新型コロナウイルス感染症の年齢別臨床像

中国の武漢小児病院からの報告をまとめました(数値は例数)。(参照文献補足データ

  • 新型コロナウイルス感染症の確定例または疑い例に濃厚接触のあった小児1,391のうち、171(12.3%)が罹患した。
  • 年齢中央値は全体(171)6.7歳、このうち無症状(27)9.6歳、上気道感染症(33)3.9歳、肺炎(111)5.9歳だった。
  • 0歳(31)では、無症状0(0%)、上気道感染症6(19%)、肺炎25(81%)だった。
  • 1−5歳(40)では、無症状1(2.5%)、上気道感染症12(30%)、肺炎27(67.5%)だった。
  • 6−15歳(100)では、無症状26(26%)、上気道感染症15(15%)、肺炎59(59%)だった。

新型コロナウイルス感染症の統計データ参照先

新型コロナウイルス感染症の統計データは米国のジョーンズ・ホプキンス大学のサイト(参照先1)がよく引用されます。より詳細なデータが参照できる別のサイト(参照先2)では、予後の確定した最終的な死亡率が示されます(3月31日時点で19%)。
国内のデータでは、東京都のサイト(参照先3)、地域別の感染症病床利用率のサイト(参照先4)が参考になります。

新型コロナウイルス感染症の総説

国立国際医療研究センターの忽那先生による総説です(参照先)。掲載時点(3月8日)の最新情報がコンパクトにまとめられています。また、ウイルス学的特徴の優れた解説が、富山大学医学部名誉教授の白木先生によりされています(参照先2)。

子どもも同じように新型コロナウイルスに感染するらしい

9歳以下の子どもたちでは、10歳以上に見られる重症化はほとんど認められないが、濃厚接触時の感染率は他の年齢層と変わらない7~8%である、という査読前の研究報告がなされました(参照先参照文献)。本当であれば、感染拡大防止策を考える上で重要な知見です。

PCR検査を全員にやると何が起こるか(3月8日記載)

新型コロナウイルス感染症に対するPCR検査の保険適応が3月6日から認められました。そのため、無症状や風邪症状の際にスクリーニングでこの検査を希望される方がいるかもしれません。仮に都民全員に検査を実施したら何が起きるかを予想してみました。以下の仮定で計算してみます。

PCR検査の精度:感度70% 特異度99.9%
都内の推定患者数:現在報告数の58名を大きめに見積もり、その100倍として5,800名
都民の人口:1,000万人

計算の結果では、検査が陽性になった場合、本当に新型コロナウイルス感染症である可能性は28.9%にしかなりません(結果参照)。逆に71.1%は、結果が陽性であってもこれ以外(健康体や通常の感冒、インフルエンザなど)になります。すなわち検査陽性10人のうち7人は、新型コロナウイルス感染症でないのに、長期の入院や隔離を強いられることになります。通常はこのように特異度の優れた検査は、陽性にでた場合の信頼度は高いとされていますが、極端に疾患の頻度(有病率)が低い場合には、このようなことが起こります。少なくとも現状のように新型コロナウイルスの患者発生数がまだ限られている条件では、PCR検査を片端からやっても、不必要な入院・隔離や医療体勢の疲弊、資源の浪費を招くだけになります。現時点では、CT等で原因不明の肺炎が認められる場合の原因検索など、医療的に必要な場合に限って用いるのが適切と思われます。

勤労者が知っておくべき新型コロナウイルス10の対策

国際医療福祉大学 公衆衛生学 和田耕治先生による記事「産業医が知っておくべき10の対策」は、そのまま私たち勤労者全員が知っておくべき有用な情報と思いますので紹介します。

アデノイド、口蓋扁桃摘除術により上気道感染症やアレルギー疾患にかかりやすくなる

アデノイド、口蓋扁桃の摘除手術は、小児の睡眠時無呼吸や反復性中耳炎に対する治療としてときに行われます。これら免疫器官の小児期の摘除が、その後の感染症やアレルギー疾患のかかりやすさに長期的にどう影響するか、を明らかにした研究がデンマークから報告されたので紹介します(参照先)。

  • 1,189,061名(1979~1999年出生)の小児を2009年まで10~30年間経過観察
  • 9歳までのアデノイド・扁桃摘除を受けた群(総数60,667, 5.1%; アデノイド17,460, 1.5%; 扁桃1,1830, 1.0%; アデノイドと扁桃31,377, 2.6%)と受けなかった群(1,128,394, 94.9%)に分け、摘除後の疾患発生頻度を両群で比較検討
  • 上気道感染症の罹患リスクは、扁桃摘除で約3倍、アデノイド摘除で約2倍増大
  • アレルギー性鼻炎および結膜炎のリスクは、アデノイドまたは扁桃摘除で約1.5倍増大
  • 慢性閉塞性肺疾患のリスクは、アデノイド摘除で2倍増大
  • 睡眠時無呼吸はアデノイド摘除により約1/3、扁桃炎はいずれかの手術で約1/10-1/2、リスクが減少
  • これに対して、呼吸異常はいずれの手術でも改善なく、慢性副鼻腔炎はアデノイド摘除で2倍、中耳炎はいずれかの手術で約2-5倍、リスクが増大

以上から、アデノイド、扁桃摘除術により、呼吸器疾患、感染症、アレルギー性疾患の長期的罹患リスクが増大しました。また、手術目的とされた病態では、睡眠時無呼吸や慢性扁桃炎では改善効果を認めたが、中耳炎や副鼻腔炎ではかえってリスクが増大することが示唆されました。

牛乳アレルギーで使用できない吸入薬

吸入するタイプのお薬で、以下のドライパウダー製剤には添加物に乳糖が使われており、添付文書中に牛乳アレルギー患者には禁忌である旨が記載されています。このような場合には、エアゾール製剤や経口薬に変更する必要があります。医療機関から薬を処方される際にはご注意下さい。

  • 気管支喘息治療薬・慢性閉塞性肺疾患治療薬
    フルタイドロタディスク、ディスカス
    アドエアディスカス
    レルベアエリプタ
    アノーロエリプタ
    セレベントロタディスク、ディスカス
    アズマネックスツイストヘラー
    スピリーバ吸入用カプセル
    シムビコートタービュヘイラー
  • インフルエンザ治療薬
    リレンザ
    イナビル吸入粉末剤

新型コロナウイルス感染症に個人ができる予防策

米国CDCの提唱する個人対策を挙げておきます(参照先)。

  • 頻回の手洗い:石鹸と水で少なくとも20秒以上かけて洗う。代わりにアルコール手指消毒剤の使用も可。
  • 洗っていない手で、目、鼻、口を触らない。
  • 具合の悪い人に、密な接触をしない。
  • 具合が悪い時は、積極的に自宅で休む。
  • 咳やくしゃみはティシューか袖で覆う(手を使わない)。
  • 触った物や表面は、頻回に消毒する。
  • 布製マスクの使用方針
    ◇ すべての人は感染を周囲に広げないために、公衆の場では布製のマスクをつける
    ◇ 2歳以下、呼吸障害がある、意識障害がある、マスクを自力で外せない、などの場合には布製マスクをつけない
    ◇ 医療従事者は布製マスクを使わない
    ◇ マスクを着けていても1.8m以上の距離を他人とおく

当院でもこの指針に沿い、咳やくしゃみのある方の来院時マスク装着、受付時のアルコール手指消毒、職員のフェースガード付きマスク使用を推進しています。

フェニルケトン尿症とアスパルテームを含む薬剤

フェニルケトン尿症(Phenylketonuria:PKU)とは、必須アミノ酸であるフェニルアラニンの代謝を行うことができない疾患です。先天性のアミノ酸代謝異常症では最も多く、8万人に1人ほどの割合とされています。PKUでは体内にフェニルアラニンが蓄積し、血液脳関門が成熟していない乳児期には精神遅滞の原因となり、成人期においても様々な精神症状を引き起こすことがあります。したがって、PKUにおいては生涯に亘って、フェニルアラニンの摂取量を厳格に制限することが必要です。

アスパルテーム(L―フェニルアラニン化合物)はショ糖の100~200倍の甘さを持つ人工甘味料です。アミノ酸由来の化合物で、フェニルアラニンとアスパラギン酸が結合した構造をしています。経口摂取されたアスパルテームのうち大部分は、代謝も分解も受けずにそのまま排泄されますが、一部は分解を受け、フェニルアラニンになることが予想されます。そのため、PKUの患者さんには、アスパルテームの使用は避けることが望ましいとされています。

アスパルテームは甘味料として低カロリーの飲料や食品に広く利用されているほか、薬剤の添加物として、OD錠、ドライシロップ、シロップ、細粒、などにしばしば使用されています。PKUの患者さんに対して、添付文書上、慎重投与と記載されたものには、アレジオンドライシロップ、クラバモックス小児用配合ドライシロップ、イーケプラドライシロップ、カイトリル細粒、禁忌としてはエレンタールP乳幼児用配合内用剤などがあります。

気道粘液過剰に対するマクロライド系抗菌薬の抑制作用

鼻腔、副鼻腔、上咽頭、喉頭、気管、気管支の表面を覆う気道上皮は、大部分が線毛細胞からなり、一部に杯細胞が混在しています。杯細胞は粘液を分泌し気道表面を満たし、線毛細胞は線毛の運動により粘液を口側へ移動させ、気道上の異物を排出するように働きます。正常では線毛細胞10に対して杯細胞1の割合で存在しますが、気道炎症が続くと、線毛細胞が脱落し、代わりに杯細胞が過増生し、杯細胞からの粘液産生自体も亢進するため、粘液の過剰状態が起こります。杯細胞の過分泌、過増生は、慢性副鼻腔炎や気管支喘息など種々の病態で認められ、粘液貯留による局所的感染や気流制限などにより病態に悪影響を及ぼします。マクロライド系抗菌薬は通常の抗菌作用を示す量よりもずっと少ない量で杯細胞の過分泌、過増生を抑制し、粘液の過剰状態を是正します。臨床的にはマクロライド少量療法として、びまん性汎細気管支炎や慢性副鼻腔炎などの治療に用いられ、高い効果を上げています。

HPVワクチンは2価であっても劇的な効果がある

2価ないし4価HPVワクチンについて、①HPV16/18型感染による子宮頸がんは全体の65%に過ぎないので、有効性はあまり期待できないだろう、②予防効果は、前がん病変についてだけで、頸がんそのものについては証明されていない、という懐疑的な意見はこれまでよくありました。
これに対し、①については、AYA世代女性の子宮頸がんでは16/18型によるものが90%近くを占めるのでもっと高い効果が期待される、②については、前がん病変は発見された時点で倫理的観点から切除されてしまうので、その後進展する頸がんの予防効果は確認するのは難しい、という反論がされてきました。
この議論に関連して、2価ワクチンの劇的な効果を示した研究成果がスコットランドから報告されたので紹介します(参照先1)。

  • 1988〜1996年に生まれた138,692名の女性を対象
  • 2価HPVワクチンを使用
  • 1988〜90年生まれにはワクチン接種なし、1991〜94年生まれには14歳以上でキャッチアップの接種、1995/96年生まれには12/13歳で接種(接種率87-89%)
  • いずれも20歳時に擦過細胞診、組織診の検診を施行し悪性度を診断
  • 12/13歳でのワクチン接種は、接種なし(1988〜90年生まれ)に比べて、CIN 3(高度異形成、上皮内がん)およびそれ以上の病変(腺がん、扁平上皮がん)の発生を89%減少
  • 12/13歳ワクチン接種者と同一年齢の未接種者についても、CIN 3およびそれ以上の発生が激減

CIN 3は、CIN 2以下の炎症性病変とは異なり、子宮頸がん一歩手前の前がん病変です。経過観察により浸潤がんに進展する率が自然退縮する率を上回るため、浸潤がんを予測する最適な指標です。CIN 3は、円錐切除術あるいは子宮全摘手術による積極的手術治療の対象になります(参照先2)。したがって、HPVワクチン接種によりCIN 3を予防できれば、円錐切除術以上の外科的侵襲ならびに浸潤がん発生の双方を回避することができます。
今回の研究は、効果が劣ると揶揄されてきた2価ワクチンを12/13歳で接種すると、20歳時の子宮頸部前がん病変が極めて効果的に予防されることを明らかにしました。さらに、ワクチン接種率が高いと同世代の未接種者にも広く恩恵が及ぶことを示しました(集団免疫効果)

インフルエンザ脳症

インフルエンザの最も重い合併症がインフルエンザ脳症です。インフルエンザ脳症はインフルエンザ経過中に急性発症する意識障害を主とする症候群で、発熱後1日以内にほとんどが発症します。病理学的に脳内にはウイルス抗原は認められず、炎症性細胞の浸潤はありません。病態としてインフルエンザ感染に対する免疫系の過剰反応が本態であり、全身のサイトカインストーム=血中IL-6、TNF、IL-10などの炎症性サイトカインの上昇が起こり、血管内皮細胞障害、末梢血単核球の活性化、血液脳関門の破綻、血漿成分の組織漏出や高度の脳浮腫が生じます。

日本全国の最近疫学データは次のとおりです。(参照先)。

  • 発生頻度(人口100万人当たり):小児2.83人、成人0.19人
  • 年齢別発生頻度:2〜4歳にピーク(3.8-6.0人)
  • 死亡率:小児8%、成人14%(65歳以上では20%)
  • 後遺症発生率:小児16%(うち重度が8%)

主な症状は、けいれん、意識障害、異常言動・行動で、もし認められたら躊躇無く直ちに医療機関を受診して下さい。インフルエンザワクチン接種はインフルエンザ 自体の発症と重症化を抑制することで、脳症の予防に有効です。一方、抗インフルエンザ薬の発症後使用により、脳症の予防効果があるかは確認されていません。

インフルエンザによる発熱では、多くの解熱薬はインフルエンザ脳症の発生リスクがあるため使えません。

使える解熱薬:
・アセトアミノフェン(カロナール®、アンヒバ®)のみ(欧米ではイブプロフェンも許可)

使えない解熱薬:
・ジクロフェナク(ボルタレン®)、アスピリン(バファリンA®、バファリンライト®)、メフェナム酸(ポンタール®)、ロキソプロフェン(ロキソニン®、バファリンEX®)など

家に置いてある解熱薬を使用する際は、その成分について十分ご注意下さい。

ガンマグロブリン療法後・輸血後の予防接種の制限

ガンマグロブリン製剤および輸血用製剤には様々な感染症に対する抗体が含まれるため、投与後に一時的に血中の抗体が増加します。このような状態では、生ワクチン製剤のワクチンウイルスが中和されてしまい、十分な免疫が付きません。したがって、血中でワクチンウイルスが増殖する生ワクチンの場合には、ガンマグロブリン療法後あるいは輸血後、一定の期間をおいてから接種する必要があります。(参照先)。

対象となる生ワクチン:MRワクチン、水痘ワクチン、おたふくかぜワクチン
接種を控える期間:

  • ガンマグロブリン製剤(40mg/kg):3ヶ月
  • 川崎病、特発性血小板減少性紫斑病などに対する200mg/kg以上の大量ガンマグロブリン療法後:6ヶ月(麻疹流行期)、11か月(麻疹非流行期)
  • 濃厚赤血球:5ヶ月、全血:6ヶ月、血小板またはFFP:7ヶ月

なお、同じ生ワクチンでも、BCGは皮下増殖、ロタウイルスワクチンは腸管内増殖するため、この制限は不要です。
不活化ワクチンについても、血中抗体の影響を受けないため制限不要です。

ムンプス難聴をごぞんじですか

日本は先進国で唯一おたふくかぜワクチンが定期接種化されていない国であり、ワクチン接種率は30〜40%と低迷しています。そのため、日本では4〜6年おきに100万人超/年のムンプス大流行が繰り返されています(参照先1 次回の予測流行年2020〜2022年ころ)。ムンプスの生涯残る深刻な合併症として難聴があり、以下の特徴があります(参照先2)。

  • 一側性高度難聴(5%は両側性)
  • ほとんど治療効果なく回復が期待できない
  • 1/4は耳下腺腫脹がなく発生する(不顕性感染)
  • ムンプス罹患のおよそ1/500〜1/1,000に合併
  • 発症のピークは4〜14歳とその親の子育て世代

2018年前期NHK朝ドラ「半分、青い」では、不顕性感染のムンプス難聴により一側の聴力を完全に失ったヒロインが描かれていました。

小児および50歳未満の成人で、①おたふくかぜワクチンを打ったことがない、②ムンプスに罹ったことがない、のいずれかの場合には、難聴のリスクを回避するため、2回の任意ワクチン接種(最短4週間間隔)を受けるよう強くお勧めします。

抗菌薬の上手な飲ませ方

抗菌薬は治療の重要な柱ですが、小児では飲んでくれないと治療自体が成立しなくなります。飲ませるひと工夫が大切です。

  • クラリスドライシロップ
    甘いコーティングが酸性で溶けるので、酸性のもの(ヨーグルト、乳酸菌飲料、オレンジジュース、アップルジュース、スポーツ飲料、ムコダインドライシロップなど)に混ぜると苦くて飲めなくなります。ミルク、練乳、アイスクリームなどがお勧めです。
  • クラバモックス小児用配合ドライシロップ懸濁液
    よく振ってから、キャップに記された規定量を与えて下さい。そのままでは飲みにくいため、ヨーグルト、飲むヨーグルトに混ぜて飲ませます。

他の薬についてはこちら

首のかしいだ乳児

首が、いつも一方に傾いた新生児、乳児で、最も多い原因は筋性斜頸です。
筋性斜頸のポイントをまとめてみました。(出典:小児の整形外科診療エッセンス. 診断と治療社, 2013年刊)

概要:

  • 胸鎖乳突筋が短くなり、首の動きが制限された状態
  • 1歳までに約90%は自然治癒するので経過観察する。自然治癒しない場合は、1歳時に小児整形外科受診

診断:

  • 胸鎖乳突筋の短い側に頭部全体が傾き、顔は対側を向く。
  • 胸鎖乳突筋にビー玉のような腫瘤を生後2〜3週頃触れる(腫瘤は生後4ヶ月頃までに消失)。
  • 胸鎖乳突筋の形状は、①腫瘤を触れる ②全体を索状に触れる ③いずれもない

治療:

  • 特別な治療は不要:マッサージしない、無理に首を曲げない。
  • 向き癖の対策をする:①向き顔の逆に保護者が寝る、②向き顔が前に向かうよう抱っこする。
  • 1歳以上で胸鎖乳突筋の手術が行われる場合、時期は3歳頃
  • 向き癖による頭蓋の変形には特別な治療は行わず、自然経過をみる。

HPVワクチン接種の実質的中止―その経緯

HPVワクチン接種率は、定期接種開始時の約75%から3年目以降は1%未満になり、現在に至ります。前例のない、急激で極端な接種率低下により、接種の実質的中止を招いた経緯を振り返ります。

HPVワクチンは、2010年から3年間の公費助成による接種期間を経て、2013年4月から定期接種が開始されました。その直前の3月、朝日新聞による”HPVワクチン副作用キャンペーン”が始まり、HPVワクチンの“副作用”を糾弾する連日の報道に困惑した厚労省は、わずか3ヶ月後の6月中旬、“積極的勧奨の一時的差し控え”(勧告)(厚労省通知)を自治体に通知しました。

予防接種法では、ヒトパピローマウイルス感染症が含まれるA類疾病の定期予防接種の勧奨と実施は自治体の義務と定められています。一方、この厚労省による勧奨差し控え勧告は法的拘束力を持たず、自治体に対する協力要請に過ぎないものでした(参照先)。この勧告におけるHPVワクチン定期接種の勧奨と周知に関する記述の要点は以下の通りです。

  1. 勧奨に当たっては、接種の積極的勧奨とならないように留意する。
  2. 定期接種を中止するものではないので、対象者のうち希望者が定期接種を受けることができるよう、対象者への周知を行うとともに、接種機会の確保を図る。
  3. 周知方法については、個別通知を求めるものではない。

ここでは、“積極的勧奨とならない勧奨”とは、具体的にどのような行為を指すか示されていません。一方で、対象者には(個別通知でなくとも)周知を図るよう求めています。

ところが、この相反する不明瞭な指示内容の通知を受けとった自治体側では、その後、一切の周知活動や個別通知を止め、予診票の一斉送付も行わなくなりました。このため、ほとんどの接種対象者には「HPVワクチンが定期接種として存在していること」自体が知らされない結果になりました。表現上は“積極的”な勧奨の中止に限定されていますが、実質的には勧奨と実施の全面的中止となり、予防接種法で自治体に課せられた義務規定に大きく反する結果となっています。

実質的中止を2013年以来続け、AYA世代女性を中心に子宮頸がん罹患の2次的拡大が懸念されるようになってきました。危機感を共有する一部の自治体は、最近になり独自に積極的勧奨を始めました。国は、このような自治体には制裁を加えない方針を明らかにしました(参照先)。

2013年以降の国内外の実証的な医学研究により、HPVワクチンの副作用とされた内容は否定され、安全性、有効性の極めて高いワクチンであることが繰り返し確認されています。厚労省が、科学的に根拠の乏しい理由でワクチン接種中止状態を放置していることは国際的にも批判されています。厚労省と自治体は誤った新聞記事に追従して決めた暫定的中止方針を直ちに終了し、接種の実質的再開を行うとともに、無料で受けられる定期接種の年齢を過ぎたAYA世代女性への救済措置を実施するよう求めます。

健康乳児の頭蓋変形に対するヘルメット療法は無効である

健康乳児でも、仰臥位や向き癖により頭蓋の変形(短頭蓋=いわゆる絶壁頭、斜頭蓋=非対称な頭蓋)は頻繁に見られます。この健康乳児の頭蓋変形に対して、ヘルメット療法を積極的に勧める医療機関があります。

この方法は標準的治療としては認められていないため保険適応でなく、相当に高額な自費支払いが請求されます。ここでは、健常児を対象にしたヘルメット療法について、その効果を検討した研究成果を紹介します(参照先)。

  • 中程度から高度の頭蓋変形を持つ84名の生後5-6ヶ月の健康乳児を対象
  • 6ヶ月間のヘルメット療法群(42名)と治療を加えない自然経過観察群(42名)に無作為に割り付け、その後の両群の頭蓋変形を比較
  • 生後24ヶ月の時点で、残存する頭蓋変形の程度、頭蓋変形消失率のいずれも両群で差を認めなかった。
  • ヘルメット群では全員で何らかの軽度の副作用(ヘルメット装着に対する児の抵抗、皮膚刺激、過剰な発汗、ヘルメットの不快な臭気、抱っこのしにくさ)を経験した。
  • ヘルメット療法に、運動機能発達や生活の質に対する効果は認められなかった。

以上より、ヘルメット療法は自然経過観察と比較して健康乳児に見られる頭蓋変形に効果を認めず、当院ではお勧めしません。

抗インフルエンザ薬バロキサビル(ゾフルーザⓇ)について(2019年)

ゾフルーザは1回の服薬で済む新しい抗インフルエンザ薬です。12〜64歳の基礎疾患のないインフルエンザ患者での検討(New England Journal of Medicine 2018;379:913-923)では以下の点が明らかにされています。

  • 有症状期間を1日ほど短縮させるが、タミフルとは同等
  • ウイルス排出期間はタミフルやプラセボよりも2〜3日短縮させる。
  • A/H3N2型ウイルスでは、ゾフルーザ開始後に遺伝子変異による耐性化が生じやすく(成人で9.7%、小児では23.3%)、ウイルス排出期間、有症状期間が長引くことがある。
  • 安全性の面では明白な懸念はない。

最新のゾフルーザ使用時の耐性化率(シオノギ製薬による調査結果を紹介した第44回東日本小児科学会における菅谷憲夫先生の発表から)

6歳未満  52.2%
6歳以上12歳未満  18.9%
12歳以上および成人  10.3%

  • 耐性化は同じ感染期間中に生じる。
  • 耐性化した場合、6歳未満の有症状期間は200~300時間にまで延長することがある。
  • 小児の場合、B型感染で2峰性発熱が出やすいことが認められる。
  • ゾフルーザ耐性株の感染力は野生株と同等である。

以上より、

  • 当院では12歳未満にはゾフルーザは使用しません。
  • 12歳以上でも、①ゾフルーザにおける耐性化率がタミフル(耐性化率1%以下)よりも明らかに高いこと、②耐性化した場合に症状が延びる可能性があること、③耐性株が自然株と同程度の強い感染力を保持すること、をお伝えした上で、希望される場合に処方します。

自治体によるHPVワクチン啓発活動 続報

HPVワクチン接種の実質的中止に関する国の不作為が放置されるなか、このワクチンが定期予防接種であることを積極的に周知する活動が自治体単位で始まっていることはさきにお伝えしました。
ここでは、岡山県による活動を取りあげます。ぜひ、内容を参考にして下さい。(岡山県HP啓発リーフレット

日本では若い女性の子宮頸がんが増加中

日本の子宮頸がん患者数が2000年以降増加しています(参照情報)。この増加の主体となるのは30歳代以下の若年層(AYA世代)であり、とくに放射線治療の効きにくい腺癌が増加しています。子宮頸がんに罹らないための予防が重要ですが、現在の予防方法は以下の2つです。

  1. 子宮頸がんワクチンを思春期にあらかじめ受け、それ以降に起こるがんの原因(ヒトパピローマウイルスの感染)を予防する(1次予防)。
  2. ヒトパピローマウイルスの感染により生じる子宮粘膜の病的変化を検診で発見する(2次予防)。

ところが、日本では、子宮頸がん検診受診率は非常に低いまま(4割程度)であり、またHPVワクチンの積極的勧奨は一時中止されておよそ8年が経過しています。このままでは、「予防できるはずである子宮頸がんにより多くの若年女性が生命を失う、後遺症で悩まされる」という悲劇が繰り返されます。
HPVワクチンの効果と安全性に関する正確な情報を得て、接種の重要性と意義をぜひ認識していただきたいと思います。

おむつ皮膚炎の予防と治療

おむつ皮膚炎は新生児期から乳幼児期まで頻繁に経験されます。最近の高吸収性おむつの使用により、以前より明らかに頻度が減ったように思いますが、感染性胃腸炎などではしばしば合併します。新生児のおむつ皮膚炎に関する110の研究をまとめたレビュー(参照文献)は至極当然の結論であり、乳幼児期全般のおむつ皮膚炎にも当てはまります。

  • 高吸収性おむつはおむつ皮膚炎を減らし、頻回のおむつ交換はその予防と治療に重要である。
  • 皮膚外用薬の塗布は有効であるが、頻回のおむつ交換に代わるものでなく、両方を併用すべきである。
  • おしり拭き製品と水の洗浄では、効果に差がない。

外来における抗インフルエンザ薬使用の考え方

小児科学会「2020/21シーズンのインフルエンザ治療・予防指針」(2020年10月 参照先)から、外来における抗インフルエンザ薬使用の要点をまとめました。

  • インフルエンザは多くは自然軽快するため、抗インフルエンザ薬の投与は必須でない
  • 一方、インフルエンザの重症化リスクが高い場合(幼児、基礎疾患がある患者)、呼吸器症状が強い場合には投与が推奨される
  • 発症後48時間以内の使用が原則
  • 重症化リスクが高く症状が遷延する場合は、48時間以降でも投与を考慮
  • 薬剤の選択
    • 全年齢でタミフルを推奨
    • 吸入薬(リレンザ、イナビル)は10歳以上で推奨
    • 呼吸器症状が強い場合、呼吸器疾患のある場合はタミフルを推奨
    • ゾフルーザは12歳未満では推奨しない

気管支喘息とアレルギー性鼻炎・慢性副鼻腔炎の密接な関係

下気道の病気である気管支喘息と、上気道の病気であるアレルギー性鼻炎・慢性副鼻腔炎は密接に関連しています。気管支喘息の60〜80%にアレルギー性鼻炎を、40〜60%に慢性副鼻腔炎を合併します。逆に、アレルギー性鼻炎の30%に気管支喘息を合併します。これらの疾患はしばしば併存するために、近年では“one airway, one disease”として、統一の病態として捉えられるようになっています。その機序として考えられているのは以下のものです(参照文献)。

  • 鼻腔・咽頭・副鼻腔の炎症により神経受容体が刺戟され、副交感神経の反射を介して下気道の収縮反応、気道過敏性の亢進
  • 後鼻漏に含まれる炎症細胞やメディエーターが下気道を直接刺激
  • 後鼻漏による咽頭刺激から神経反射を介して気道過敏性の亢進
  • 鼻炎、副鼻腔炎による鼻閉が口呼吸を招き、低温で乾燥した空気が下気道に直接流入し気道過敏性を亢進
  • 鼻粘膜の抗原暴露により、下気道でライノウイルス感染受容体(ICAM-1)の発現が増大

臨床的にも、しつこい喘鳴や咳が気管支喘息の治療だけでは改善せず、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎への積極的な治療を加えることで劇的に改善することがしばしば経験されます。当院では、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)、副鼻腔エコー、吸入アレルゲン特異的IgE、前鼻鏡観察、鼻汁好酸球ハンセル染色などの検査を組み合わせ、個々の患者さんごとにone airway, one diseaseとしてのより適確な病態把握と治療方針の選択に努めています。

負担を伴わない子どもの視覚スクリーニング検査

子どもの視力は18ヶ月をピークに8歳ころまで発達します。この過程で斜視や屈折異常(遠視、乱視、近視、不同視)があると、視覚刺戟が脳に適切に伝えられず視力の形成を阻害し、高度の弱視につながることがあります。弱視の治療は5歳までの幼児期に開始することが望ましく、それまでに原因となる斜視、屈折異常の発見が大切です。
Spot Vision Screener®は、小児の斜視、屈折異常をスクリーニングするために開発された装置です。大人しく座った状態で、1m離れた場所からカメラの様な形をしたこの装置を顔に向けると約1秒間で完了し、自動的に異常の有無を判定します。点眼などの前処置、検査に伴う放射線被曝、長い固定や疼痛、苦痛は伴わず、小児の検査として優しく実施できる条件を満たしています。
当院で乳幼児健診(6/7ヶ月、9/10ヶ月、1.6歳)および入園時健診を受けられる際に、健診の一部として実施します。この検査による新たな費用負担は生じません。これ以外にも、自発的に単独で検査を希望される場合(自費診療となり有料)、あるいは症状等で視覚異常が疑われる場合(保険診療)も受け付けます。
この検査で異常の疑いが持たれた場合には、文京区内で小児を専門とする眼科医療機関(本郷地区、茗荷谷地区)にご紹介します。

ステロイド剤を塗ると皮膚が黒くなる?

ステロイド外用薬の副作用については、種々の誤解があります。「ステロイド剤を塗ると皮膚が黒くなる」というのも代表的なものです。さらに、頸回りでは紫外線が当たると黒くなるので塗らないように、と医療機関から指導されている例もあります。

ステロイドには色素沈着をさせる作用はなく、紫外線で増強されることもありません。アトピー性皮膚炎の患者さんで色素沈着が見られることがありますが、これはステロイド外用薬の使用が十分かつ適切になされなかったため、皮膚の炎症が慢性的に続いてきたことが原因です。ネット情報や、医療機関の説明を受ける際にはご注意下さい(参照文献)。

乳幼児への抗ヒスタミン薬使用と熱性痙攣

抗ヒスタミン薬は局所のヒスタミン受容体(H1受容体)と結合し、鼻水や痒みを抑制します。鼻風邪、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹などによく処方されます。ヒスタミンは、本来、痙攣抑制作用を持つ神経伝達物質ですが、抗ヒスタミン薬が脳内へ移行してヒスタミンの働きを妨げると,痙攣が誘発されやすくなります。

抗ヒスタミン薬は中枢神経への移行のし易さや作用により、鎮静性、軽度鎮静性、非鎮静性に分類されます。1983年以前に市販が開始された第1世代の抗ヒスタミン剤(ペリアクチン、ポララミンなど)は、脂溶性が高く、脳内移行し易く、鎮静性です。これに対して、それ以降に市販された第2世代(ザジテン、セルテクトを除く)は脳内への移行がしにくく、軽度鎮静性あるいは非鎮静性です。なお、ザジテン、セルテクトは第2世代ですが、脳内ヒスタミンH1受容体占拠率が第1世代と同程度で鎮静性です。

熱性痙攣を起こしやすい年代である乳幼児に抗ヒスタミン薬を使用する場合には、痙攣を誘発するリスクのある鎮静性の薬剤は避けるべきです。医療機関から処方された場合にはご注意下さい。

以下に安全性により分類された一覧を示します(参照先)。当院では乳幼児に使用する場合には①のいずれかを優先的に使用します。なお、これらは先発品の商品名であり、後発品は同じ成分でも商品名が違いますので薬局でご確認下さい。

  1. 安全:アレグラ、アレジオン、ザイザル
  2. 比較的安全:クラリチン、ジルテック、アレロック、タリオン、ゼスラン、ニポラジン、アゼプチン
  3. 熱性痙攣を誘発する可能性があるもの:ザジテン、セルテクト、ポララミン、アレルギン、ペリアクチン、ヒスタール、アタラックス、レスタミン、タベジール、テルギンG

幼児喘息に対するスペーサを用いたステロイド吸入療法

乳幼児期の喘息に対するステロイド吸入療法は主にネブライザーを用いて行われますが、懸濁液であるパルミコート吸入液は吸入完了に時間(5〜10分程度)が掛かり、1日1−2回の吸入を毎日続けることはかなりの負担になります。これに対して幼児では、吸入用のマスク付き器具(スペーサ)を介してエアゾール製剤を吸入することができます。マスクをぴったり口に当ててスペーサ内に薬剤を1回噴霧したのち、4~5回ゆっくり呼吸を繰り返せば完了するため、時間と手間が大巾に減ります。当院ではエアロチャンバー・プラス®を貸し出し用に用意し、自宅での短期間治療用や練習用に利用いただいています。長期間の自宅使用には購入(定価3,300円 税抜き)していただきます。練習をすれば2歳位から吸入できるようになります。
スペーサには種々のエアゾール製剤(小児では、フルタイドエアー®、アドエアエアー®、キュバール®、オルベスコ®、フルティフォーム®、メプチンキッドエアー®)を装着することができ、スペーサ1個あれば重症度や目的に応じてお薬を使い分けることができ、携帯にも適しているのが大きな利点です。

行政から提供されるHPVワクチン説明文書について

HPVワクチンは定期接種(=本来は国が積極的勧奨するワクチンを無料で実施する意味)でありながら、積極的勧奨が中止され、実質中止状態が7年以上続いています。HPVワクチン接種を希望して保健所に行くと、予診票と厚労省が作成した説明文書が渡されます。一方、この実質中止状態を憂慮した自治体によっては独自の文書を作成し、各家庭に送付する動きがあります。ここでは2つの文書を紹介します。どちらの説明書がより腑に落ちるか、比較してみて下さい。

  1. 厚労省作成の説明文書(文書1
    まず目に入るのは、1ページタイトルの“ワクチンの「意義・効果」と「接種後に起こりえる症状」について確認し、検討して下さい。”と、下段の“HPVワクチンは、積極的におすすめすることを一時的にやめています”の部分です。「ワクチンの効果と接種後の副反応を比較して、結論として国としては推奨できない」という印象がはじめに強く形成されます。
    子宮頸がんという病気自体の説明はなく、そのリスクについては、文章中段の小さい文字でわずかに述べられているに過ぎません。ワクチンの効果については、“子宮けいがんそのものを予防する効果は、現段階ではまだ証明されていない”というネガティブな印象を与える文章も見られます。
    2ページ上段にはワクチン一般に認められる局所症状やアナフィラキシーなどが説明されます。下段の囲み記事に、全身の疼痛を主体とするいわゆる「多様な症状」が記載されています。この「多様な症状」については、いくつもの研究においてワクチン接種をしない場合にも同様に出現し、ワクチン接種とは直接関係ないことが確認されていますが、その点は触れられていません。厚労省の文書は、子宮頸がんという病気の重大性およびHPVワクチンの有効性よりも、ワクチンのリスクをより印象づける構成になっています。
  2. 千葉県いすみ市作成の説明文書(文書2
    厚労省の文書とは対照的に、まず子宮頸がんのリスク、とくに20~30代の若い女性に重大な問題であることが述べられます。次に、HPVワクチンのターゲットであるHPV16型・18型が20〜30代の子宮頸がんの9割近くを占めることが示されます。
    ワクチン副反応では、他のワクチンでも同様に認められる局所の痛みや失神がまず解説され、よりまれなアナフィラキシーなどの重い副反応が述べられます。いわゆる「多様な症状」についてはとくに触れられていません。
    最後に、世界保健機構(WHO)から、HPVワクチンが極めて安全であり、今後日本での子宮頸がんの死亡率増大が予想される中、積極的勧奨の中止措置を憂慮する公式見解が述べられています。全体としていすみ市の文書は、子宮頸がんという病気の重大性、HPVワクチンの有効性、ワクチン接種のリクスの説明がバランスよく記載され、全体像を把握できる客観的記述になっていると思います。

小児のウイルス性胃腸炎への対処について

「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」(日本小児救急医学会刊2017年)に記載されたウイルスによる小児の急性胃腸炎への対処法についてまとめてみました。

  • 経口補水療法
    軽症〜中等症の脱水の場合、経口補水液(アクアライト、OS-1等)から始めます。与え方は、ティースプーン1杯分(5mL)を5分毎に飲ませ続けます。経口補水液を嫌がる場合は、塩分を含んだ重湯、お粥、野菜スープ、チキンスープで代用できます。味付けする塩分の目安は100mLあたり0.3〜0.4gです。失った水分量(健康時との体重差から1kg=1,000mLとして推定)を4時間以内に与えることを目安にします。
  • 食事療法
    母乳栄養児では、経口補水液と併行して母乳は続けます。脱水が改善したら、ミルクや食事はすぐに再開できます。食事の内容はお粥にこだわらず、年齢に応じた通常食で結構です。脂肪の多いものは避けます。ミルクの希釈はしないで下さい。乳糖除去乳(ノンラクト)は、下痢が1〜2週間以上遷延し二次性乳糖不耐症の発生が疑われる場合に考慮します。
  • 薬物療法
    止痢剤・止瀉剤(ロペミン、タンナルビン、アドソルビン、ロートエキス等)の使用は推奨されません。ロペミンは2歳未満で原則禁忌です。整腸剤(ビオフェルミン、ラックビー、ミヤBM等)は頻用されますが、我が国の通常使用量で有効性を示す明確なエビデンスはありません。ウイルス性胃腸炎に対する抗菌薬の使用は推奨されません。
  • 予防と教育
    ロタウイルスワクチンは、重症ロタウイルス胃腸炎の発生を90%以上予防する効果があり、生後2ヶ月になったらなるべく早く接種を開始し、3〜4ヶ月までに完了すべきです。感染拡大には、手洗いの徹底、0.1%次亜塩素酸ナトリウム液(台所用5%製品を50倍に希釈)による汚染物(オムツ、衣類、嘔吐した床など)の消毒が有効です。

乳幼児喘息における吸入療法のポイント

乳幼児の気管支喘息における噴霧器(ネブライザー)を用いた吸入療法の要点をまとめておきます。

ネブライザーの種類

ジェット式、メッシュ式、超音波式がありますが、パルミコートの吸入に使用できるのは前2者のみです。必ずマスクも購入するようにして下さい。

吸入液

  1. パルミコート吸入液はステロイドで、喘息発作を予防する薬です。1日1~2回、1回0.25〜0.5mg使用します。懸濁液であるため、他の吸入薬(メプチンやインタール)とは混合せず使用して下さい。口腔カンジダ症を予防するため、吸入後はうがいか飲水をさせて下さい。
  2. メプチン吸入液は気管支拡張薬で、喘息発作を止める薬です。1回使用量は体重によらず0.3mLです。ただし、この量では少なくて噴霧できないため、必ずインタール吸入液(抗アレルギー薬)2mLと混合して使用します。発作が起きやすい状態では1日2回、1週間程度使用します。重症発作時には、20分間隔で3回まで使用します。これで治まらない場合には救急受診して下さい。

吸入時の注意点

  1. マスクは口にピッタリと当てて下さい。隙間があると吸入効率が落ちます。
  2. 泣き叫びながら吸入させても、吸入効率が著しく(10%以下)低下します。この場合は、アニメ等見せながら吸わせる、寝てから吸わせる、等の対策を行って下さい。
  3. メプチン吸入液と、内服薬(メプチン、ホクナリンなど)、貼付薬(ホクナリンテープなど)の併用は可能です。内服薬と貼付薬は併用しないで下さい。

子どもの慢性便秘に対する治療方針

子どもの慢性便秘では治療開始時にdisimpaction(腸管内に残留した固い便塊を取り除くこと)を徹底的に行うことが大切です。硬便の残留が疑われる場合、連日のグリセリン浣腸を実施します。3日目位にこぶし大の硬便が出てくることもしばしばで、硬便を出し切るのに3−4週間くらい掛かることもあります。必要に応じて1日2回の浣腸も行います。disimpaction開始と同時に浸透圧下剤を開始します。これまで小児に使用できる製剤は酸化マグネシウム(カマ)にほぼ限られていましたが、昨年度(2018年)からポリエチレングリコール製剤(モビコール®)も使えるようになりました。カマと違って、ジュースやヨーグルト、スープなど種々の液体に溶かすことができ、子どもに飲ませやすいお薬です。投与量も通常使用量の半量から4倍までと便通の状態に合わせて選択余地が大きいのも利点です。刺激性下剤(ラキソベロン®など)を使用する場合はほとんどありません。小児便秘の治療期間は数年に及ぶことがありますが、焦らずに根気よく続けて下さい。治療のゴールは便性を恒常的に良好に保ち、排便痛や排便恐怖を無くした上で、自立して排便できる習慣の確立にあります。

手足口病で出席停止にしないわけ

今年(2019年)は数年ぶりに手足口病が大流行しています。
この病気では、発熱から1~2日くらい遅れて手、足を中心として、口囲、膝、大腿近位部、臀部、ときには体幹部に皮疹が出現します。皮疹は楕円形の固い水疱が典型的ですが、紅暈を伴う赤色小丘疹も多いです。のどを痛がって食欲が落ちることも多く、口蓋弓の強い発赤と白い潰瘍(いわゆるヘルパンギーナの所見)を認め、周囲の軟口蓋に中小紅斑が散在することもあります。原因ウイルスはエンテロ(腸管)ウイルスに属するコクサッキーA16(CA16)、CA6、エンテロウイルス71(EV71)などです。今年はCA6が多く、発疹の分布がCA16の場合よりも広く、典型的な水疱とはなりにくい傾向があります。EV71は脳症の合併が多いことが知られており要注意です。

園や学校への出席は、解熱して食事が普通に取れるようになれば可とされています。感染の伝播は患児の唾液や便から排泄されたウイルスが口から入ってうつります。便へのウイルス排泄は発疹が消失したあともダラダラと続き、発症後1ヶ月にも及ぶとされていますので、ある決まった期間だけ出席停止させても感染拡大阻止のためには意味がありません。対策としては患児だけでなく施設全体や家庭全員について手洗い(とくに排便後)を徹底させることです(参照先)。

HPVワクチンをめぐる深い誤解

最近のメディア報道も厚労省作成のパンフレットも、子宮頸がんのリスクとワクチン副作用を同列で対比して、最終的にワクチン接種は個人の判断で選択せよという内容になっています。
朝日新聞による一連のHPVワクチン副作用キャンペーン開始からわずか3ヶ月後の2013年6月、厚労省はHPVワクチン接種の積極勧奨を中止しました。しかしその後、ワクチンの副作用と報道された全身の疼痛を主とする諸症状が、実はワクチンを打ったことのない同年代の少女にも同じくらいの頻度で認められるという重要な事実が、国際的保健機関や国内外の研究者による医学論文において繰り返し確認、報告されています。すなわち、思春期の女性にワクチン接種とは関係なく一定の率で出現する症状であるというのが科学的結論です。子宮頸がん罹患はワクチンにより大幅に低減できる現実のリスクですが、いわゆるワクチン副作用は接種とは直接関係のない性・年齢依存性のリスクであり、両者は対比すべきものではありません。
残念ながら、メディア、厚労省のいずれも、2013年以降に明らかになったHPVワクチンの安全性、有効性を支持する多くの科学的エビデンスに基づいて、それまでの報道姿勢や政策決定を謙虚に反省し、変更するに至っていません。これまでのメディアおよび厚労省のミスリードにより、多くの方がHPVワクチンを恐怖し接種を回避したり、無料で受けられる定期接種ワクチンであることを知らされずに思春期の接種機会を逸する事態が2013年以来放置されている現状を大変憂慮します。

HPVワクチンの安全性と有効性についての情報はこちら

3歳児検尿の尿潜血反応陽性への対応

3歳児健診で行われる尿検査(1次検尿)で、尿の潜血反応が陽性となる場合は比較的頻度の高いものです。日本小児腎臓病学会の指針(「小児の検尿マニュアル」診断と治療社2015年刊)によれば、尿潜血反応の結果に関わらず尿蛋白が陽性(±以上)とならない限り、それ以降の再検査(2次検尿)および精密検査は不要とされています。血尿があっても尿蛋白陰性の場合(血尿単独陽性)では精査対象とならないのは次の理由からです。

  • 先天性腎尿路奇形による高度腎機能障害の可能性が低い
  • 過去の腎生検の知見では組織学的な微少変化に限られ、急速に進行する重症腎炎の可能性が低い
  • 血尿単独陽性では腎生検の適応にならない

そして、血尿単独陽性の場合には、尿蛋白が陽性になるか、学校検尿が行われる年齢に至るまでの経過観察とされています(参照文献)。

なお、文京区では3歳児検尿での潜血陽性の場合、上記の方針と異なり蛋白陰性であっても2次検尿が指示されますのでご注意下さい。この場合、当院では蛋白陰性の場合の2次検尿、精密検査は実施しません。3歳児健診を行っている文京区保健サービスセンター(電話03-5803-1805)にご相談下さい。

あせもの対策と保湿剤の選択

あせは、真皮にある汗腺で作られ、表皮内の汗管を経て体外に分泌されます。表皮角層の構造乱れや表面の汚れにより汗管が詰まると、上流側に汗がたまり汗管周囲に炎症を起こしあせも(汗疹)となります。
あせもの好発部位としては、あせのたまりやすい箇所、すなわち前額部、首回り、被髪後頭部から耳介後ろ、背部正中周囲、肘屈側、膝屈側、おむつの当たる部位、などです(参照先)。
あせもの対策としては、①石鹸を使わないシャワー浴を1日数回程度行い、皮脂を保ちつつ皮膚表面を清潔に保ち細菌の繁殖を抑える、②シャワー後に適切なタイプの保湿剤を使用して角質構造を健常に保つ、③必要に応じて抗炎症作用のある外用薬を併用する、などが上げられます。
 保湿剤の選択としては、秋、冬に用いるワセリン(プロペト®)は汗管を塞いであせもができやすくなるので、油脂成分を含まない保湿剤(ヒルドイドフォーム®)がお勧めです。抗炎症作用をもつ外用薬として亜鉛華ローション(カラミンローション®)を用います。炎症が強い部位には、ステロイド外用薬を一時的に使うこともあります。

抗インフルエンザ薬の予防投与について

予防投与に用いることができるのは、タミフル、イナビル、リレンザ、ゾフルーザの4種類の薬剤です(ゾフルーザは12歳以上、20kg以上のみ)。以下の2条件をともに満たす場合に適応となります。診察代や薬剤費など全額自費負担になります。

  • 同居する家族などがインフルエンザにかかった
  • 高齢者や持病があるなど、インフルエンザにかかると重症化しやすい方

これ以外の条件(適応外使用)で希望される場合は、外来でご相談下さい。

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上気道感染症におけるペニシリン系抗菌薬の使用方針

当院ではペニシリン系抗菌薬の使用にあたり次の方針をとっています。

  • 60mg/kg/日(1日あたり体重1kgあたり60mg)の AMPC(ワイドシリン®細粒20%)を1日3回に分割して使用
  • 5日間使用し、臨床的効果を確認

AMPCは一般的には30~40mg/kg/日・1日2回分割で使用されてきました。しかし、この方法では肺炎球菌感染症の通常条件(4歳以上、肺炎球菌ワクチン接種歴あり、免疫不全基礎疾患なし、成人など)では十分な効果が期待されるものの、ハイリスク条件(2歳未満、集団保育児、肺炎球菌ワクチン未接種、免疫不全基礎疾患など)においては効果が不十分であることが知られています。

これに対して60mg/kg/日・1日3回分割によりハイリスク条件においても十分な効果が期待されます(1日2回分割の場合には75~90mg/kg/日)。これにより薬剤の高い血中濃度を維持して、感性菌だけでなく耐性菌をも死滅させることができます。

以上の使用で効果が不十分の場合には、AMPCを分解する酵素(βラクタマーゼ)を産生する細菌であることを想定して、βラクタマーゼ阻害薬CVAを配合したAMPC/CVA(クラバモックス®)への変更を考えます。

参考文献:
永田理希. Phaseで見極める!小児と成人の上気道感染症. 日本医事新報社 2017

完全母乳栄養児のためのビタミンDサプリメント

日本の完全母乳栄養児の75%はビタミンD不足です。その原因は、母乳中のビタミンD濃度(0.16~1.5μg/L)が育児用ミルク(10μg/L)に比べて非常に低いためです。したがって完全母乳栄養を行っている場合には、他の方法で積極的なビタミンD補給(15.0μg/日)をする必要があります。日光浴あるいは食餌(魚・キノコ・卵黄)が有効ですが、この他にビタミンDサプリメント(BabyD®200, http://babyd.jintan.jp)が利用できます。無味無臭の液体で、毎日1滴ずつ与えることで必要最低量(5.0μg)を補給でき、日光浴や食餌と合わせて利用することをお勧めします。当院受付で販売します。

アトピー性皮膚炎に用いるタクロリムス外用薬(プロトピック軟膏®)

プロトピック軟膏は保湿剤、ステロイド外用薬と並んでアトピー性皮膚炎に対する標準的治療薬の一つです。ステロイド外用薬と比較して以下の特徴があります。

  • 分子量が大きく、正常の皮膚角質層は通過しない。そのため長期使用による皮膚萎縮や毛細血管拡張の副作用がない。
  • 神経末端に働くサブスタンスPを低下させ、痒みを抑制する効果が強い。
  • 皮膚バリア機能の改善効果が高い。
  • カルシニューリン依存性のヘルパーT細胞、肥満細胞、好酸球、樹状細胞に作用してサイトカインやメディエーターの産生を阻害して抗炎症作用を発揮する。
  • 小児用(2~16歳未満)の0.03%製剤の効果は、ステロイド外用薬のマイルドクラス程度とされている。
  • 使用により皮膚がんや悪性リンパ腫の発症リスクが高まることはない。

一方、使用上の注意点としては、以下のようなものがあります。

  • 使用開始初期の3~4日間に皮膚の灼熱感(ヒリヒリ感)が出現することがある。対策として、1)初めの数日間は就寝中に塗布する、2)皮膚炎が強い場合には、ステロイド外用薬を先行させてからプロトピック軟膏に移行する、3)保湿剤を塗った上にプロトピック軟膏を重ねる、など。
  • 粘膜、外陰部、びらん・潰瘍面には使用できない。
  • 皮膚感染症(単純疱疹、伝染性軟属腫、疣贅、伝染性膿痂疹など)がある場合には使用できない。
  • 2歳未満には使用できない。

口まわりの湿疹への対応

乳幼児では口まわりの湿疹がよく見られます。唾液による接触性皮膚炎が主な原因です。このほか、色々な食品に含まれる化学物質(ヒスタミン、セロトニン、アセチルコリン等)や食物アレルゲンが炎症に関与することもあります。口まわりの湿疹はアトピー性皮膚炎の初発部位になったり、食物の経皮的侵入経路としてアレルギーの原因になったりするので、普段から口まわりの皮膚をきれいに保つことが大切です。対策として、口まわりにワセリン軟膏(プロペトやアズノール軟膏)を食事前にたっぷり塗り、食事が済んで清拭した後で、もう一度塗っておきます。湿疹の程度が強い場合には、マイルドクラスのステロイド軟膏(ロコイドなど)を一時的に併用することもあります。

インフルエンザ迅速検査のとらえ方

インフルエンザの流行期には迅速検査が頻繁に行われますが、検査の精度は完璧ではありません。迅速検査については以下の成績が報告されています(Ann Intern Med. 2012;156:500-511)。

感度 62.3% 特異度 98.2% (陽性尤度比 34.5 陰性尤度比 0.38)

また、インフルエンザ流行期に37.8℃以上の発熱がある場合、インフルエンザである確率は76.5%(事前オッズ 3.26)とされています(Arch Intern Med. 2000;160:3243-3247)。この症状があり迅速検査で陰性の場合、本当はインフルエンザである確率は、55.0%(事後オッズ 1.23)もあります。
さらに、家族内に発症者がいて、そこからの感染が疑われる場合(仮に確率90%)には、検査陰性であってもインフルエンザである確率はもっと高くなります(77%)。このような場合、迅速検査は行わずに抗インフルエンザ薬の適応と考えられます。

保育園開始と予防接種

最近の保育ニーズの高まりにともない、入園受け入れ条件として生後43日からを掲げる園が増えています。この根拠となっているのは、出産後43日からの就業が可能というお母さんへの労働基準法の規定です。一方、赤ちゃんへの予防接種は生後2ヶ月にならないと開始できません。予防接種を受けずに集団保育を開始することは、赤ちゃんを敗血症、髄膜炎、百日咳などの深刻な細菌感染症のリスクに晒すことになります。ちなみに、保育園児における肺炎球菌、インフルエンザ菌の保菌率は非常に高い(いずれも90%)ことが知られています。入園は予防接種の開始後、できれば予防接種のスケジュールが進んだ生後6ヶ月以降をお勧めします。

小児アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用療法

  • アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用療法では、治療開始時に重症度に応じた十分なランク(強さ)のステロイド外用剤を10日間前後、1日2回、十分な厚さでしっかり塗り、肉眼的に完全に正常化(皮疹がなく、触ってザラつかず、摘まんで柔らかい状態)させます。効果が足りなければ、1日3回にするか、1ランク上のステロイド剤を用います。
  • そのあと、①一旦ステロイド剤の塗布をやめて、再発した部位にステロイド剤を塗るリアクティブ療法か、②ステロイド剤をやめず間隔を徐々に広げながら続けるプロアクティブ療法を選択します。
  • いずれの治療法でも、経過中に再発した部位にはステロイド剤を連日しっかり用い、その都度炎症を抑えきることが重要です。これを繰り返すうちに段々と再発しなくなってきます。
  • ステロイド剤の使い方では以下の点が重要です。
    ①ステロイド剤のランク
    病変の強さや部位に応じて、炎症を抑えきるのに必要充分なランクを用います*。
    ②ステロイド剤を塗る回数と厚さ
    ステロイド剤を塗る回数は1日2回を原則とします。塗る厚さは外用剤0.5gあたり成人手掌2枚分の面積です。目安としては塗り上がりがテカテカ光り、ティッシュが付く位が適当です。擦り込まないようにして下さい。
    ③ステロイド剤を塗る期間
    ステロイド外用剤を塗り始め、数日後に一見正常化した後も、さらに5日間前後追加します。これは見た目正常化しても、局所に残存する潜在性の炎症を抑えきるためです。

2018年のガイドラインでは、2016年版までのように乳幼児・小児に使用するランクを成人用ランクよりも一律に下げる必要はない、とされました。
日本皮膚科学会, 日本アレルギー学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018. 日皮会誌 2018;128:2431-2502.

HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン:思春期に済ませる予防接種

  • 思春期のHPVワクチン接種により、それ以降に起きるHPV感染が原因である疾患(子宮頸がん、尖圭コンジローマなど)を予防します。
  • 定期接種(公費により無料で実施)の対象は、小学校6年生から高校1年生の女子です。
  • 当院はCDC(米国疾病予防管理センター)の方針に沿い、①接種年齢として11歳または12歳を推奨します。②14歳以下で開始する場合は2回接種(0,6ヶ月)、15歳以上で開始する場合は3回接種(0,2,6ヶ月)とします。
  • 接種の予約は、通常通り当院インターネット予約システムからして下さい。予診票は対象年齢に達しても保健所から送られてきませんが、当院に準備してあります。来院時に当院でお渡ししますので記入して下さい。
  • 定期接種の期限内に完了するには、高校1年生の9月30日までに1回目を始めて下さい。定期接種の条件を満たさないと任意接種(1回あたり約17,000円)になりますのでご注意下さい。

HPVワクチン参照情報はこちら

小児に使える新しい慢性便秘治療薬(モビコール配合内用剤®)

モビコール配合内用剤は2歳以上で適応のある慢性便秘治療薬です。ポリエチレングリコール(PEG)と電解質を配合したお薬で、PEGの浸透圧作用により腸管内に水分を引き込み、便を柔らかくし増量して排便を促進します。PEG製剤は欧米ではこれまで広く利用され、ガイドライン上でも推奨実績があります。1包を60mLの水に溶かすと完全に透明になり、水やお茶でほのかに塩味を感じる程度であり、飲みにくさはありません。これらで味を気にする場合は、リンゴジュース、オレンジジュース、スープ、味噌汁などがよく利用されます。副作用としては、下痢などの下剤としての腹部関連症状の他、発疹が1%程度と報告されています(参照先)。

アトピー性皮膚炎の発症時期

アトピー性皮膚炎の発症は生後2~6ヶ月頃が多いことが知られています。この時期は皮膚角層細胞の量が減少し、皮膚バリア機能が低下します(参照文献)。その結果、肌は乾燥しやすくなり、物理的・化学的刺激に弱くなるとともに、アレルゲンの侵入を受けやすくなります。とくに秋から初冬生まれの赤ちゃんは、湿度の低い冬から春にかけて皮膚炎を発症しやすくなります。生後2ヶ月ころから積極的な保湿に心掛け、皮膚の状態が気になる場合は外来でご相談下さい。

母乳栄養児のビタミンD不足

母乳育児には沢山の優れた面がありますが、一方で栄養学的にデメリットもあります。その一つが母乳中のビタミンD不足です。このため、日本の完全母乳栄養児の実に75%がビタミンD不足(<20ng/mL, 50nmol/L)に陥っていると報告されています(参照文献)。ビタミンD不足は骨の変形を起こす「くる病」や低カルシウム血症によるけいれんの原因になります。さらに、近年の研究から、乳幼児期のビタミンD不足があると感染後喘鳴やアレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、気管支喘息)にかかりやすいことが知られています(参照文献)(注)

この背景として近年の紫外線リスクに対する社会的関心があります。日本の新生児では潜在性のビタミンD不足が高頻度に認められますが、原因として妊娠中の母体ビタミンD不足があります。母乳栄養ではこの新生児期の異常が是正ないまま乳児期にも続くことが指摘されています(参照文献)。

対策として最も簡便なのは母親(妊娠中および出産後)および児の日光浴です。母乳栄養の場合には、母児ともに過度の紫外線対策は控え、通常の服装で柔らかな日差しで20分程度の日光浴をお勧めします。また、離乳食にはビタミンDを含んだ食品(魚、キノコ、卵黄)を積極的に加えるようにして下さい(参照先)。また、乳児用のビタミンDサプリメントも利用できます(当院受付で販売)。

注)ビタミンDは上皮細胞などに働いて抗菌ペプチド(カテリシジン)産生を促し自然免疫を増強する一方、活性化T細胞やB細胞に働いてサイトカインや抗体の過剰産生を抑制する作用がある。

肺炎マイコプラズマ感染症の迅速診断

肺炎マイコプラズマ感染症の診断は、これまで血液抗体検査が主に用いられてきましたが結果まで数日かかり、一方従来の迅速抗原検査は感度が低く実用的でありませんでした。そこで、当院では銀増幅技術を応用して従来よりも4倍程度高感度にした迅速診断法(富士ドライケムIMMUNO AGⓇ、感度82% 特異度97%*)を使用することにしました。今後、非典型的な症状や年齢における診断、抗菌薬の適切な選択に役立つことが期待されます。

*小幡美智ら、小児科臨床2017;70:699-702

薬の保管と有効期限

小児科で処方される薬は、粉薬、シロップ剤、錠剤、坐薬など、種々のものがあります。これらは剤形により保存方法や期間が異なりますので、以下を参考にして下さい。とくに、水剤、シロップ剤の保存性は低く、冷蔵庫などでの長期保存は避けて下さい。

  • 錠剤、カプセル剤、粉薬:処方日から半年~1年くらい
  • 水剤、シロップ剤:処方日から1~2週間くらい
  • 坐剤:処方日から半年~1年くらい
  • 点眼薬、点耳剤:開封後1ヶ月くらい
  • 軟膏・クリーム・ローション剤:開封後半年くらい
  • 貼付剤:開封後1ヶ月くらい

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百日咳予防のために三種混合ワクチンの追加接種を

区内では2018年の春から夏にかけて学童を中心に百日咳の流行が見られました。この原因として、1歳までに接種した4回のワクチンが接種後に時間経過とともに徐々に効果が低下し、抗体価が下がったためと考えられます。2018年の抗体保有率のデータでは9歳が最も低い値となり、この年齢を中心に流行した事実を裏付けます(参照データ)。

  1. 最も効果的な対策は、就学前(4歳以上)に百日咳に効果のある三種混合ワクチンを1回追加接種することです。なお、この接種は添付文書上の規定にはなく、予防接種に伴う健康被害が発生した場合の公的救済措置を受けられるためには、この時期に行われる他のワクチン(MR2期、おたふく風邪2回目等)との同時接種として受けられるようお勧めします。
  2. さらに、11〜13歳未満で定期接種として行われる二種混合ワクチンの代わりに三種混合ワクチンを受けることも有効です。こちらは添付文書上に記載されており単独接種として受けても問題ありません。

いずれも任意接種であり自己負担になりますが、強くお勧めします。とくに6ヶ月未満の弟妹がいる家庭では兄弟間の二次感染による重症化を防ぐため重要です。

より詳しい情報はこちら

最新の国内百日咳疫学データはこちら

鼻かみ練習器

鼻かみがうまくできない子どもは多いです。そこで、「片方の鼻から吹きだす」という感覚をつけるための器具が開発されました。①この器具を一方の鼻孔に入れ、②他方の鼻孔を押さえ、③鼻から吹かせるとゾウのイラスト紙風船が膨らむ、という仕掛けです。2歳以上のお子さんが対象です。当院受付で販売します。

妊婦がリンゴ病(伝染性紅斑)の患者と接触した場合の注意

リンゴ病にかかった事が無い妊婦が感染すると胎児水腫や胎児死亡を起こす危険性があります。患者からのウイルス排出は発疹出現の7-10日前にピークがあり、発疹出現の時点では無くなっています。妊娠27週までに感染を受けた場合に胎児へのリスクが高いとされています。お子さんがリンゴ病にかかった場合は、最近の妊婦との接触歴に注意して下さい。接触した妊婦の方は産婦人科を受診するようにして下さい。

くわしくはこちら

RSウイルス迅速検査の実施についての当院の見解

RSウイルス感染症は1歳未満では呼吸器症状が重症化し、時に入院が必要になることのある病気です。一方、1歳を超えると重症化リスクは軽減し、2歳以上では軽い鼻かぜ程度で終わることが多くなります。RSウイルスに対する特効薬は無く、適切な対症療法、補助療法が中心になります。
RSウイルス感染症であるかどうかは治療方針の変更にはつながらず、したがって検査でつきとめる必要性はありません。
現在、RSウイルス迅速検査の保険適用は、1)1歳未満、2)入院中の患者、3)シナジスの適用となる基礎疾患を持つ患者、に限定されています。逆に1歳以上で実施する場合は自費診療(検査および診察のいずれも含む)になります。

以上の理由で、当院では保険適用基準を外れるRSウイルス迅速検査は原則として行いません。ご理解のほど、よろしくお願い致します。

30〜50歳代の方は、麻疹、風疹に対するワクチン追加接種をお勧めします

30〜50歳代の男女とも麻疹(はしか)、風疹とも過去の国の政策によりワクチン接種歴1回以下の方がほとんどで、流行の中心になっています。風疹では妊婦感染による先天性風疹症候群、麻疹では妊婦感染、0歳児の感染による重症化が懸念されます。いずれかのワクチン接種歴1回以下の方は、追加のワクチン接種をお勧めします。MRワクチン1回の接種で両方の免疫が同時に得られます。

1) 風疹対策

文京区では風疹対策として満20歳以上で、①妊娠希望の女性、②妊娠希望の女性と同居の方、③妊婦と同居の方、を対象に風疹抗体検査、ワクチンが無料で受けられる助成制度があります。
また、これまで一度も風疹予防接種を受ける機会のなかった1962年4月2日から1979年4月1日生まれの男性を対象に、無料の風疹抗体検査とMRワクチン接種が国の制度として実施されています(参照情報)

2) 麻疹対策

文京区では、0歳児と同居する20歳以上の男女を対象に、麻疹抗体検査とMRワクチン接種を無料で行います(参照情報)。

麻疹・風疹に対する文京区の任意接種、国の定期接種の条件まとめはこちら

風疹についての国立感染研Q&Aはこちら

がんを予防するためのワクチン

予防接種の中には、がんを予防するワクチンがあります。ウイルス感染が原因となる悪性腫瘍をその始まりのウイルス感染自体を予防することで、がんの発生を阻止します。現在の予防接種では、B型肝炎ウイルスワクチンとHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンがあります。効果が出てくるのは接種後数十年してからですが、とてもとても重要な意義があります。

おうちでできる子どもの難聴の確認

お子さんの耳の聞こえは、子どもの背後の左右からスマートフォンをそっと近づけて音を鳴らす(システムのサウンド設定を利用)と、子どもが鳴った方向にクルッと振り向くことで簡単に確認できます。音が出るときに風圧が出ないようにすることがポイントなのでこの方法は適しています。成長過程の確認の他、おたふくかぜ罹患後などでもぜひ試してみて下さい。

小児鼻副鼻腔炎を遷延化させないために

小児の鼻副鼻腔炎はしばしば遷延化します。しかし、この根幹の原因は「自分で洟をきちんとかむことができず、ウイルス、細菌や起炎症性物質を局所にいつまでも滞留させている」ことにあります。であれば、鼻腔内がいつもきれいになるよう手助けしてあげましょう。小学生以上であれば、鼻うがいのための洗浄キットがあります。1歳以上であれば、生理食塩水をミスト状にして鼻腔内に噴霧するスプレーを用います。0歳では、噴霧液と電動吸入器で洟を柔らかくしてから吸引します。これら鼻の洗浄は、小児では鼻症状への有効性が唯一認められた方法です(参照先)。いずれも当院から提供できますので、ぜひご相談下さい。

鼻うがいのすすめ

うがいは、鼻腔、副鼻腔、上咽頭を洗浄する方法で、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の症状改善に効果があります。また、インフルエンザや通常感冒に対しても感染初期に行うことで、進展を阻止する効果が期待されます。鼻粘膜を刺激しないように調整された専用の洗浄キットを用いることで、幼児でも痛がらずに安全に行えます。洗浄方法の指導や洗浄キットの販売は当院で行います。詳しくは外来でご相談下さい。

小児における第3世代セフェム系抗菌薬による低血糖

中耳炎などによく使用される抗菌薬のなかで、ピボキシル基を有する第3世代セフェム系(メイアクトⓇ、フロモックスⓇ、トミロンⓇ)、経口カルバペネム系(オラペネムⓇ)があります。これらはエネルギー代謝に重要な体内成分(カルニチン)を体外に排泄する作用があります。とくにカルニチン貯蔵量の少ない乳幼児では低血糖から痙攣、脳障害を引き起こす危険性がよく知られており、公的機関や日本小児科学会からも注意喚起対象にされています参照先1,参照先2)。月単位の長期使用だけでなく、1〜6日の短期使用でも発生することが報告されています。医療機関から抗菌薬を処方される際にはご注意下さい。

乳児血管腫(いちご状血管腫)のプロプラノロール内服治療

乳児血管腫(いちご状血管腫)は生後1ヶ月にかけて目立ってきて、生後6ヶ月から1歳にかけて最も大きくなり、その後退縮し5~7歳にかけて大半は自然に軽快します。しかし、できた部位や形状によっては生命や視力に影響するため治療が必要です。また、自然退縮では痕が残ることがしばしばあり、頭部や四肢などの露出部位では美容上の問題から治療されることがあります。これまではレーザーで治療されてきましたが、最近、内服薬(プロプラノロール)による高い治療効果が認められています。詳細については外来までお問い合わせ下さい。

上気道感染症における抗菌薬の使用方針

風邪はウイルスによる上気道感染症であり、本来、抗菌薬は無効です。しかし中耳炎、鼻副鼻腔炎、咽喉頭炎などの細菌感染症との見極めが必ずしも容易でないため、“念のため”抗菌薬が頻用されてきました。その結果、近年は薬の効きにくい耐性菌が市中に拡大し、国からも適正使用の指針が出されています。当院では、抗菌薬を開始する前に必要かを慎重に検討し、使う場合にも耐性菌のできやすい抗菌薬(第3世代セフェム系、キノロン系、マクロライド系)はなるべく避け、ペニシリン系の十分量を短期間使用する方針をとっています。

子供の耳あか

2歳以下は耳あかがとくにたまりやすく、外耳道がほとんど塞がっていることもよくあります。この年齢は中耳炎も好発するので、診察時に鼓膜の確認が欠かせません。しかし、おうちでの耳あか取りは、外耳道や鼓膜を傷つけることがあり避けるべきです。当院では、拡大耳鏡、鼓膜鏡、ファイバースコープなどを用い、耳あかがあっても診断できるよう努力しています。高度閉塞の場合には、当院から処方する耳垢水(耳あかを柔らかくする液)をおうちで点耳していただき再受診して洗浄、除去するか、あるいは耳鼻科を受診していただきます。

母乳栄養児に不足しがちな栄養素

完全母乳栄養で不足しがちな栄養素として鉄とビタミンDが重要です。鉄の不足は鉄欠乏性貧血の、ビタミンDの不足はくる病の発症要因となります。離乳食開始後、これらの栄養素をより多く含んだ食材を積極的に加えていただくことで、欠乏症の予防が期待されます。詳細をご希望の方は、外来までお申し出下さい。

水イボの治療について

水イボは自然治癒するため、基本的には特別な治療を必要としません。しかし、治癒するまでに数年以上かかったり、経過中に広範囲に広がる場合もあります。一方、少なくとも5種類以上の治療法が提唱されていますが、疼痛を伴わない、確実性、短い治療期間などのすべてを満たす理想的な方法は残念ながら無いのが現状です。当院では、これらの点を総合的に評価した結果、50%サリチル酸テープ(スピール膏Ⓡ)と10%ポピドンヨード(イソジンⓇ)液を併用した治療を採用しています。ご希望される場合には外来でご相談下さい。

反復性中耳炎の漢方療法

反復性中耳炎(半年で3回以上または年4回以上の急性中耳炎罹患)は2歳未満の乳幼児にしばしば認められます。この年齢層では免疫能が十分に発達していないため、集団保育、受動喫煙、おしゃぶり使用、6ヶ月未満での中耳炎初発、薬剤耐性菌感染などの危険因子が加わると中耳炎を繰り返しやすくなります。漢方薬の十全大補湯は免疫能賦活作用を介して急性中耳炎の反復を抑制する効果が期待されます。詳しくは外来でご相談下さい。

小児科受診にあたっては積極的なスマートフォンの活用を

小児科の診察では、保護者の方からもたらされるお子さんの情報がとても重要です。これまでは、どんな症状が出たかを間接的に伺うしかありませんでした。しかし、スマートフォンが普及し、画像・音声情報(皮膚の発疹、便の色、咳の音など)をおうちで記録してお持ちいただくと、外来でより正確に診断ができるようになります。小児科外来受診に当たっては、スマートフォンによる画像・音声記録を積極的に御活用下さい。

適切な抗菌薬使用のための検査実施について

当院では細菌感染症に対する抗菌薬の使用にあたり、鼻咽腔ぬぐい液や喀痰などの顕微鏡検査(グラム染色検査)を行い、原因菌の種類をつきとめてから最適と思われる抗菌薬を選択します。このことにより治療期間の短縮や耐性菌拡大の抑制が期待されます。なお、検体の採取から結果判明、処方するまで多少のお時間をいただく場合がありますので御了承下さい。

溶連菌感染後の対応

溶連菌感染症(咽頭炎、皮膚感染症)の罹患後は以下の点に注意して下さい。

  • 7〜10日間の抗菌薬治療直後にのどや頸の痛み、熱が出た場合には溶連菌感染の再燃が疑われ、追加検査と治療が必要になることがありますので、必ず再受診して下さい。
  • 罹患10〜21日後に腎炎を合併することがあります。腎炎になると尿量の極端な減少と、血尿、浮腫、高血圧などの症状が現れます。このうち血尿はコーラ色から褐色調の暗赤色を呈します。また、この腎炎はほとんどの場合、自然に完全に治癒して予後良好です。

このことから当院では、溶連菌感染後の尿検査を一律には行わない方針とします。希望される場合、尿の色に異常がある場合、浮腫などの症状がある場合には尿検査を行いますので受診して下さい。

母乳栄養児専用の発育曲線

母乳育児は種々の優れた点が良く知られていますが、人工栄養に比べてより穏やかに身長、体重が増加する特性があります。そのため、母子手帳に載っている成長曲線から判断すると成長不足とされてしまうことが4〜5ヶ月齢を中心に起こります。完全母乳栄養をされている場合には、専用の発育曲線を参考にして下さい。

おうちでできる乳幼児鼻詰まりの対策

乳幼児は自分で鼻をかむことができないため、鼻炎が遷延し副鼻腔炎や中耳炎、気管支炎に罹りやすくなります。病院からのお薬に加えて、おうちで鼻噴霧や鼻吸引などの処置をしていただくと、悪化の抑制や治癒の促進が期待されます。鼻噴霧液は当院から処方し、吸引器、吸入器は貸出します。また、吸入器がなくても鼻噴霧に使える生理食塩水スプレー(NielMedベビーミストⓇ)を当院で販売します。詳しくは外来でご相談下さい。

臍ヘルニアの圧迫療法

生後1〜2ヶ月に認められる臍ヘルニア(出べそ)はそのまま見ていてもほとんどが自然治癒します。しかし、後でお臍の変形が残り見た目の問題から手術になることがあります。生後2ヶ月頃からヘルニアをカバー材で積極的に覆ってやるとその後の臍の変形を効果的に抑制します。
ご心配の方は外来でご相談下さい。

アトピー性皮膚炎のプロアクティブ治療

ステロイド剤を塗ると良くなるのだが、やめるとすぐに症状が再燃してしまう患者さんには、ステロイド剤の塗る間隔を徐々にあけていくプロアクティブ治療が有効です。詳しくは外来でご相談下さい。

医療機器貸出について

当院では、通院中の患者さんがご自宅で使用するための機器貸出しを行います。料金はいずれも一泊100円です。保証金は5,000円(エアロチャンバーは2,000円)で、機器返却時にお返しします。詳しくは外来でご相談下さい。

  • 小型電動吸引器:鼻汁の吸引に使用します。
  • ネブライザー:気管支拡張剤やステロイドなどの吸入に使用します。
  • エアロチャンバー:乳幼児がエアゾールの薬剤を吸入するための補助器具です。
  • 薄型デジタルベビースケール:5g刻み目盛りで、授乳前後の体重から母乳量を推定します。

なお、機器の貸出しは、当院における診療を補助するために行っています。受診されず機器のみを借りたり、延滞されることはご遠慮下さい。

スギ花粉症に対する舌下免疫療法

ごく微量のスギ花粉抽出物から作った薬剤を数年間、毎日続けて舌下服用していただくことで、鼻炎や結膜炎の症状が効果的に抑えられます。スギ花粉の飛散しない毎年6月〜11月に治療を開始し、その後は花粉症の時期も続けていただきます。治療対象は5歳以上の小児および成人です。詳しくは外来でご相談下さい。

ダニによるアレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法

ダニは年間を通じてアレルギー性鼻炎の重要な原因になります。ごく微量のダニ抽出物から作った薬剤を、数年間続けて舌下服用していただくことで、鼻炎や結膜炎などのアレルギー症状の軽減が期待されます。治療開始は年間を通じていずれの時期からでも始められます。対象は5歳以上の小児および成人です。詳しくは外来でご相談下さい。

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医師の紹介

院長・小児科近藤 千里

学歴

1980年新潟大学医学部卒業

職歴

1980年日本赤十字社医療センター小児科

1982年東京女子医科大学 循環器小児科

1989年University of California, San Francisco留学

2001年東京女子医科大学 画像診断・核医学科

2016年小石川柳町クリニック開設

資格

  • 医学博士
  • 日本小児科学会 小児科専門医
  • 日本心臓病学会 特別正会員
  • 日本小児循環器学会 特別会員

内科近藤 光子

学歴

1980年新潟大学医学部卒業

職歴

1980年東京女子医科大学 呼吸器内科

1982年都立広尾病院 呼吸器科

1989年University of California, San Francisco留学

1991年東京都多摩老人医療センター 呼吸器科

1994年東京女子医科大学 呼吸器内科

資格

  • 医学博士
  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本呼吸器学会 呼吸器内科専門医
  • 日本アレルギー学会 アレルギー専門医(内科)
  • 日本医師会 認定産業医

当院は抗菌薬の適正使用に努めています

27歳までの9価HPVワクチン無料接種 男子のHPVワクチン無料接種

多言語対応
Supports multiple languages, 다국어를 지원합니다, 支持多种语言

当院は英語で対応できます。他の言語については同時翻訳器を使用します。
Our hospital can respond in English. Use a simultaneous translator for other languages.
당원은 영어로 대응할 수 있습니다. 다른 언어에 대해서는 동시 번역 장치를 사용합니다.
我們醫院可以用英語回复。使用其他語言的同聲翻譯。

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クリニックについて

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診療カレンダー

小児科診療内容:

  • 午前、午後とも予防接種・乳幼児健診、一般診察
  • 木〜土午後は一般診察のみ
診療科目
小児科・内科
所在地
〒112-0002
東京都文京区小石川1-13-9クリオ文京小石川103
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